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2022年2月22日火曜日

ドイツ。触覚カラーコンパスを活用した「色に触れる」美術観賞会。

Color Compass by TAKTILES

画像引用元


ドイツに拠点を置くスタートアップTAKTILESは、キールの美術館Kunsthalle zu Kielで開催されている特別展「Amazons of Pop!」に合わせ、展示作品の中から選ばれた8作品の触覚レプリカを制作し、同社が開発した「Tactile Color Compass(過去記事)」を用いた多感覚による芸術観賞会を実施しました。


展覧会を訪問した視覚障害者には、触覚作品のレプリカが収められた首掛けバッグが渡され、目の見える訪問者と一緒にレプリカに触れ、コミュニケーションをとりながら作品を鑑賞することができます。

触覚レプリカは指先で判別しやすいよう、両手のひらにおさまるサイズに縮小され、最大5色を表現したテクスチャとして再構成されています。また作品の輪郭や描かれているモチーフを説明する音声アナウンスも備えています。


2月20日2は3DプリントされたTactile Color Compassを使い、レプリカのテクスチャから色を読みとる方法を学ぶワークショップが開催されました。

Tactile Color Compassは手のひらサイズの丸い円盤上に、滑らかな面、粗い面、柔らかい面、硬い面、温かい面、冷たい面、尖った面、丸い面、水平な面、垂直な面といった色から想起されたさまざまなテクスチャを配置し、その手触りの違いで11種類の色を表現します。

参加者は触覚レプリカとカラーコンパスのテクスチャを触り比べながら、手触りだけで絵画作品の鮮やかな色彩をイメージし、触覚による絵画鑑賞の体験をより深めることができたとのことです。


この多感覚展示は見える、見えないにかかわらず多くの訪問者から高い評価を得ており、2022年3月6日まで開催されます。4月にはオーストリア、グラーツを巡回する予定で、さらに2022年秋にはドイツ、フレンスブルクで伝統的絵画の多感覚展示が行われる予定とのことです。


参考:Zwei Handvoll Bild erfahren - Ausstellung mit taktilen Bildern eröffnet fühlbaren Zugang zu Kunst (klamm.de)


2021年12月18日土曜日

視覚障害者へリアルタイムの触覚情報を伝達する「点図ディスプレイ」にまつわる最近のトピックス(※2022/3/12 追記)。

A person using Dot Pad next to a keyboard on a desk

画像引用元:Closing The Gap


(※2022/3/12 追記)Dot Padについて、詳細な記事がTechCrunchお呼びNewz Hookから出ました。やっぱりAPHから発表された点図ディスプレイはDot Padと関係があるようです。記事では明確にされていませんが、それなりのお値段になるのかな? iOS15.2で導入された触角グラフィックスAPIにも対応するらしいので、互換性的にも問題はなさそうです。無事に発売されることを祈ります。


点図ディスプレイとは、ピンの上げ下げによってデジタル画像データをドット絵のように表現し、それに触れた視覚障害者へ写真やグラフなどの視覚的な情報を伝達するために用いられるデバイスです。点字ディスプレイのグラフィック版、という漢字ですね。

点図プリンターと比べると解像度的には及びませんが、リアルタイムに情報が得られ、印刷コストや騒音の問題も軽減されるなどのメリットがあります。これまでにもGraphitiやドット・ビューといった製品が開発されてきましたが、価格的にも個人が利用するにはかなりハードルの高いものでした。(いずれも現在は販売終了)


WebやSNS上の画像は、代替テキストによってある程度の情報は得られますが、形や大きさなど言葉だけではイメージしにくい場合も多く、またグラフや地図などの視覚を前提としたコンテンツは指で触れなければ情報の本質を理解することは難しいと言えます。視覚が使えない人々にとって、触らなければ伝わらない情報は確実に存在するわけです。

多くの視覚障害者がデジタル形式で情報を得ている現在、個人むけのリーズナブルかつ高解像度な点図ディスプレイの登場が、待ち望まれているのです。


余談ですが近年ではタッチパネルに応用できる仮想触覚技術や動的な凹凸を表現できる素材の開発など触覚に関するイノベーションが進められています。ただ現状これらの技術で正確な触覚グラフィックスを表現することは難しく、まだしばらくは従来の機械式の点図ディスプレイが主流となると思われます。このような状況の中、新しい点図ディスプレイに関する情報がいくつか報じられています。



「Dot Watch」をはじめとする点字デバイスの製造で知られる韓国Dot Incorporationは現在、点図も表現可能な新しいマルチライン点字ディスプレイ「Dot Pad(Tactile Display (KP2-300A)」を開発中であるとClosing The Gapが伝えています。

記事によると、Dot Padは30セル×10ライン、トータル300個のセルを備え、点字に加えグラフや数式など視覚的な情報をピンの上げ下げによって表現できるとのこと。(プロモーション動画)

スペックから想像する限り、点字ディスプレイとしてはかなりスリムで「触覚タブレット」と呼んでも差し支えない製品のように思えます。開発自体は数年前から進められていたようですが、現時点で明らかになっている情報はまだ少なく発売時期も未定。肝心の価格も含め今後の発表を待ちたいところです。


また同様の製品としては、米国American Printing House(APH)と視覚障害者向け機器製造メーカーHumanWareのコラボレーションによる、点図対応の新たなマルチライン点字ディスプレイの開発が2021年6月末に発表されており、さらに12月8日にはカナダ政府が推進するアクセシブル・テクノロジー・プログラムから20万ドルの支援を受けたことが伝えられています。

この製品、リリースには技術パートナーとしてDot社の名前も挙げられているのですが、先述したDot Padとの関連性は不明。こちらも続報待ちですね。


さらにマルチライン点字ディスプレイの魁として知られる、英国Bristol Braille Technology社の「Canute 360」がしばらく中断されていた注文を再会したというニュースも報じられています。

これは厳密にいうと点図ディスプレイではなく、40セル×9ライン=360セルを備えるスタンドアロン動作の点字書籍リーダーです。ですがあらかじめ点訳ソフトで変換した触覚グラフィックスデータを転送すれば、点図を表示することも可能とのこと。

また将来的にはUSBケーブルでPCなどに接続し、点字/点図ディスプレイとして利用できるようになる可能性もあります(技術的には可能なようです)。

点図表示用としては設計されていないため触覚グラフィックスを表示させる使い道には向いていないかもしれませんが(特にリフレッシュ速度)、現在入手可能な唯一のマルチライン点字ディスプレイが3,000ドル弱で購入できるという事実は、やっぱり大きな魅力。触覚デバイスとしての可能性を秘めた端末であることは間違いないでしょう。


さてこれまでにも視覚障害者向けのいわゆる「触覚タブレット」的なデバイスは、発表こそされてはいるものの、今のところ製品化まで漕ぎ着けたプロジェクトを(私の調べた範囲では)見つけることはできませんでした。ですが点字デバイス製造の実績があるDotやHumanWareといったメーカーが名乗りをあげたことにより、新たな個人向けデジタル触覚ソリューションの実現性が一気に高まってきたように思います。価格が心配ですが……。


手軽かつ欲しいタイミングで触覚情報が得られるようになれば、現在音声が中心の視覚障害者の情報環境が格段に広がることが期待されます。例えば通販サイトで商品のデザインを次々と確認したり、絵画やコミックなどビジュアルが重視されるメディアも、音声や言葉だけでは得られないニュアンスを感じることができるでしょう。

数年後には触覚タブレットをナデナデしながらWebやSNSを閲覧する視覚障害者の光景が、当たり前になるのかもしれませんね。


2021年10月17日日曜日

触れたい物に向かって視覚障害者の手を導く「GuideCopter(ガイドコプター)」。ドローンによる視覚障害者支援の可能性を探る研究。

前回のエントリーに続き、ドローンを活用した視覚支援技術のお話です。

重度の視覚障害者がテーブル上の食器やドアノブなど特定の物体に触れようとした場合、大抵「手探り」で触れる対象物を探します。慣れた場所ならある程度、感覚で触れ当てることができますが、不慣れな状況では何かしらの手がかり、つまり情報が与えられなければあてもなく手探りを繰り返すことになります。目が見えていても真っ暗な部屋で照明のスイッチを探したり、洗髪中にコンディショナーを手探りした経験は誰にでもあるでしょう。一発で探し出すの、難しいですよね。

考えてみると、視覚を用いず特定の物体に素早く確実に触れるという動作は、結構難易度の高いミッションです。その一方、このような日常的なタスクを支援する手軽なソリューションは今のところほとんど存在しません。


ドイツ、パッサウ大学のFelix Huppert氏らの研究チームによる「GuideCopter - A Precise Drone-Based Haptic Guidance Interface for Blind or Visually Impaired People」は、2021年5月のCHI2021で発表された、視覚障害者の触察行動をドローンの誘導によって支援するというユニークな研究です(PDF)。


視覚障害者の触察をサポートする場合、対象物から誘導音を鳴らす、もしくは「もう少し右」といったように「音声」を用いて誘導する方法のほか、晴眼者が直接視覚障害者の手をとり、触れる物までエスコートするなどの手段が考えられます。

これまでにもこのような行動を支援する技術として、音声や振動フィードバックを用い視覚障害者を誘導するウェアラブルデバイス(指先装着型や手袋型など)が開発されてきました。しかしこのようなデバイスはユーザーの触覚を妨げたり習得に時間がかかるなど認知的負荷が高い欠点があると研究チームは語ります。

GuideCopterでは視覚障害者の感覚をできる限り損なわず、認知的負荷を軽減するため、ドローンによる誘導という手法を用いました。つまり触覚を妨げるデバイスを装着することなく、ドローンの引っ張る力で視覚障害者を導き、独立した触察行動を支援しようというわけです。


研究チームはさまざまな前実験を重ね、ドローンの動き方や引っ張る強さ、ドローンと手を接続するための最も効果的な方法を検討しました。

そして十分に引っ張る力を持った3インチのクアッドコプター(寸法20 cm ×5 cm)を独自に設計。このドローンを長さ50 cmの細いロープを用い、人差し指に装着したリングと接続しプロトタイプを制作しました。安全を確保するため、ドローンのプロペラには、カスタムメイドのプロテクターが取り付けられています。

10名の視覚障害者が参加した実証実験では、あらかじめ設定されたルートを飛行するGuideCopterが被検者の指を誘導し、物体を掴むまでの時間と正確さを計測。比較のため同じ物体を音声ガイダンスを用いて掴む実験も併せて行われました。

その結果GuideCopterは、音声による誘導システムと比べ、より早く、確実に目的の物体に触れることができ、認知的負担も少ないことがわかりました。

確かにユーザーはドローンの引っ張る力に身を任せてしまえば良いわけですから、音声を聞きつつ位置を調節するよりも直感的というか何も考えなくても使えるシステムであるといえます。この結果から、研究チームはドローンによる誘導システムが、視覚障害者の触察行動に一定の役割を果たセルのではと結論づけています。


もちろんこれはドローンによる誘導が視覚障害者の支援技術として有効であるかを検証するための基礎的な研究であり、すぐに実用化されるものではありません。しかし物体認識技術などと組み合わせることで、視覚障害者の触察行動のストレスを大きく軽減させる技術になるかもしれません。論文の中で研究チームは、小売店の商品を識別し、GuideCopterで欲しい品物を手に取るという応用例を提案しています。


視覚障害者をドローンが誘導するというアイデアはかなり以前から存在してはいましたが、手を引いて何かを触らせてくれるという、ある意味強引かつ大胆ともいえるGuideCopterの発想は個人的に新鮮でした。

これを実用化するためにはドローンの駆動時間や騒音、安全性といった多くの課題をクリアする必要があるでしょう。でも小型ドローンを使ったアイデアは考えるだけでも楽しそうです。

視覚障害者向け支援技術ではこれまで視覚的な情報を音声や触覚(振動)などに置き換える感覚置換(Sensory substitution)に基づいた技術が主流でした。しかし今後はドローンをはじめとするロボット技術との物理的というか運動的な相互作用の応用がアツいのかもしれません。今後どのような研究が出てくるのか、注目したいところです。


2021年6月10日木曜日

根の前の風景を指先で「見る」感覚置換デバイス「ASenSub」。

ASenSub

画像引用元:ScienceDirect


イスラエル、ワイツマン科学研究所の神経生物学部門に所属するAmos Arieli博士とEhud Ahissar教授は、インターンであるYael Zilbershtain-Kra博士とともに、視覚情報を触覚に変換し、装着者へ伝達するウェアラブル感覚置換デバイス「ASenSub」のプロトタイプを開発しました。


このデバイスはユーザーの手に取り付けられた小型カメラが捉えた映像を処理し、その情報をもとに、同じ手の三盆の指先に仕込まれた96本のピンを上げ下げします。ピンの高さは映像の明るさに対応して変化し、暗いほど高くなります。

例えばデバイスを装着し、白い紙に描かれた黒い三角形の上で指をなぞるように動かすと、ピンの隆起によりその形を指先に感じ取ることができます。研究者によると、このデバイスで感じられる感覚は、実際にエンボス加工された触図の上で指を動かした時の感覚に近いものであると語っています。

イメージとしては目の前にある風景が瞬間的に触図に変換され、そのまま指を動かしてその形を確かめられるという感じでしょうか。周囲の世界を指先で触れて探索するという感覚は、想像するだけで面白いですね。


ASenSubの目指すところは、Active-Sensingと呼ばれる人間の自然な知覚システムの再現です。例えば人が物を見る時は視線を絶えず細かく動かしみたい対象物を特定しますし、指でものに触れる場合は指先を動かしながら触れているものを確認します。つまり人間の知覚において能動的な運動と得られる感覚の結びつきが重要というわけです。

研究者はASenSubを開発するにあたり、単純に視覚情報を触覚に変換するだけではなく、Active-Sensingの考え方に基づき、「視線を動かしてものを見る」という動きを「指を動かしてものに触れる」という動きに置き換えるアルゴリズムを開発しました。指先や視線を動かし、見たいものを探すというプロセスを仮想的に再現することで、触覚に変換された視覚情報をより直感的に得られるようになるわけです。情報を変換するだけではなく、そこへ情報をえようとする人間の「動き」を加えた点がこの研究の興味深いところです。


なおこのデバイスはあくまでも人間の知覚に関する研究を目的として開発されたものであり、実用化には小型化など越えるべき技術的課題が多いようです。しかしこのActive-Sensingという考え方は他の支援技術、特に感覚置換デバイスを設計する上で、結構重要なヒントを与えてくれるような気がしました。


参考:Active sensory substitution allows fast learning via effective motor-sensory strategies - ScienceDirect

参考:Sight through Touch: Secret Is in Hand Movements | Mirage News



2021年5月30日日曜日

「口」で触れる3Dモデルは、視覚障害者の「新しい触覚」を開拓する。

Molecular Models Made of Gelatin

画像引用元: Smithsonian Magazine


目に障害のある学生にとって、視覚的なイメージの理解は大きな障壁の一つとなっています。特に化学や数学など理系分野では視覚的要素が強い3次元による画像が多用されており、手で触れられる触図や3Dプリンターによる立体模型を用いたとしても、イメージを的確に理解することは難しく、何より膨大なコストが必要という問題がありました。


米国テキサスしゅうベイラー大学の化学・生化学教授であるブライアン・ショー博士率いる研究チームは、この問題を改善する画期的な技術を開発しました。それは「手」ではなく「口」で触れる、安価な3Dモデルの制作です。


Science Advancesに発表された論文によると、人間の口内には手よりも鋭敏で高解像度な触覚センサーが備わっているといいます。研究チームはタンパク質分子構造の3Dイメージをもとに、食用ゼラチンや人体に無害な歯科用樹脂を用い、グミキャンディーのような一口サイズの3Dモデルを制作しました。

3Dプリンターによって印刷されたこの触覚モデルは米粒からピーナツ大程度の小さなサイズで、素材によって食べることもでき、樹脂を用いたものは洗浄して再利用することも可能。樹脂を用いた場合、制作コストは一つあたりおよそ10セント程度とのことです。これは手で触れる触覚モデルとは比べ物にならないほど低コストです。


396人の学生が参加した調査では、口、手、目それぞれでこのタンパク質モデルをどれだけ正確に認識することができるかを調べました。

その結果、口で立体モデルを認識したときの精度は85.59%で、CGアニメーションを用いた視覚による認識とほぼ同等でした。また口で認識した場合と手で触れた時の精度を比較すると、40.91%の被検者が口の方が高精度と答え、同等と答えた学生は31.82%でした。

この調査結果は唇や舌の感覚を用いることで、手を用いる場合と同等、もしくはそれ以上に正確に立体モデルを理解することができることを示しています。


この実験ではゼラチンを用いた単一素材のモデルを使いましたが、研究チームはタフィーやチョコレートを含む複数の素材を用いたモデルの制作にも成功しています。つまり味覚を通じて立体イメージに含まれる意味、例えば分子構造のプラス・マイナスといった情報を伝達することもできるわけです。

触覚に味覚を加えるという発想もユニークですが、モデルがあまり美味しいと形を認識する前に溶けてなくなってしまわないか、ちょっと心配してしまいますね。


それにしても「口」がそんなに敏感な感覚を持っているとは驚きです。確かに食器などを口に含み舌でなぞってみると、指で触れた時と同様にその形や質感、特に細かい飾りや先端の様子がよくわかるような気がします。なんかこれからは食事のたびに、口内の触覚を意識してしまいそうになりますね。

口に入れて識別するためサイズの限界や衛生面・安全性など様々な課題が考えられますが、「口」という触覚のフロンティアは、視覚障害者の教育や生活に大きな変化をもたらす可能性を感じさせてくれます。口を活用する視覚支援技術としては「BrainPort」くらいしか思い浮かばないのですが、実は結構有望な分野なのかもしれませんね。


参考:Gummy Candy-Like Models Can Help Students With Blindness Study Chemistry | Science | Smithsonian Magazine



2021年4月18日日曜日

韓国ETRI、タッチパネルの任意のポイントに詳細な触覚を生成する技術を開発。

スマートフォンやタブレット端末などの電子機器において、振動を用いた触覚機能は今や欠かせないものとなっています。ただ現状の触覚機能は端末全体を振動させることしかできないシンプルなもので、通知やアラームといった限られた用途にしか活用されていません。

韓国に本拠地を置くETRI(ElectronicsはLED光源と特殊なフィルムを組み合わせることで、タッチパネルの任意の部分に繊細で多彩な振動を発生させる技術を開発しました。


従来のスマートフォンやゲームパッドで採用されている触覚機能の多くは、モーターを用い振動を発生させる仕組みになっています。そのため得られる触覚はデバイス全体に及び、部分的に繊細な触覚を表現することは困難でした。

最近ではレーザーによる瞬間的な温度変化により衝撃波を発生させ、ピンポイントで振動を生成する技術が開発されています。しかしこの技術で使用されるレーザーは非常にコストが高く小型化も難しいことが知られています。


ETRIの研究チームは、低出力の光信号を振動に変換する技術の開発に成功しました。この技術により複数個の小型LEDを使用し、部分的に独立した振動を感じられるディスプレイの製造を、レーザー光源を用いる場合の1万分の1という低コストで実現します。


この技術は、光エネルギーを吸収して熱エネルギーに変換する原理に基づいています。

特殊な光熱層(導電性高分子材)を塗布したフィルムに光エネルギーを照射すると、加熱・冷却された素材の熱膨張性に応じて屈曲・復元を繰り返し、振動を発生させる仕組みです。

研究チームは1平方センチメートルのLEDユニットを3×3のマトリクスで配置し、広い周波数帯域において精密な振動が発生可能であることを確認しました。周波数は125~300Hzの範囲をカバーしており、高い周波数では優しく、低い周波数では荒々しい振動を表現します。技術的にはボタンだけでなくダイアルやスライダーといったスイッチ類の触感を再現することもできるとのことです。


薄くフレキシブルなフィルムは電気的な構造をを持たないため耐久性が高く、加工が容易という特徴を持っており、さまざまな電子機器への応用が期待されています

研究チームはこの技術を自動車内の操作パネルや医療機器、そしてスマートフォンへ応用したいと考えており、製品かへ向け改良を進めていくとのことです。


視覚障害者的には、例えばタッチパネルに表示されているボタン類を音声を用いずに手探りで探したり、表示させた写真やイラストを指でなぞり色や線を感じとる、といった用途が考えられるでしょう。もっと解像度が高くなれば、画面の上で点字を読むこともできるようになるかもしれません。

目から情報が得られない視覚障害者にとって、タッチパネルの操作は音声だけが頼りでした。これに情報量の多い触覚が加われば、その利便性は格段に向上すると想像できます。


タッチパネルに詳細な触覚を加える技術としてはこれまでも超音波や静電気を用いた製品が登場しており一部はすでに実用化もされています。

ETRIの技術が既存の製品と比べ、コストやユーザーエクスペリエンス的にどのようなアドバンテージがあるのか明らかではありませんが、様々な技術が出現し競争することで、電子機器における触覚の品質の向上と関心度の高まりが期待できるでしょう。


参考:ETRI develops a haptic film activated by LEDs | EurekAlert! Science News


2021年3月17日水曜日

[iPhone] アナログ感覚で時刻を教えてくれる振動時計アプリ「HapticTime」。


「HapticTime」はその名の通り、時刻をiPhoneの振動で表現する無料アプリです。

振動で時刻を通知すると聞くと、Apple Watch、watchOS 6以降で利用できる「Tapticタイム」がすぐに思い浮かびます。

Tapticタイムは長い振動と短い振動を組み合わせ数字の回数ぶんだけ繰り返すか、もしくはモールス信号形式で時刻を教えてくれる仕組み。画面が見えない視覚障害者が音声を出せない、もしくは聞き取りにくい場面などで時刻を確認したい時に便利です。


初めはHapticTimeもそのようなアプリなのかな?と思っていたのですが、実際に試してみるとその仕組みは思いがけず斬新なものでした。なんとこのアプリは時刻をたった2回だけの振動で表現するのです。

どうやって?

早速体験してみましょう。


  1. いきなりですが、大きなアナログ時計をイメージします。円形の文字盤の周囲に数字が書いてあるあれです。
  2. アプリを起動しiPhoneを縦方向、画面を上にし水平に持ちます。
  3. イメージした時計の真ん中にiPhoneを突っ込んで画面が12時を照らしていると想像します。
  4. iPhoneを左右方向に回転させます。iPhoneの位置があまり動かないように手首をひねる感じです。画面がイメージした時計の数字を順番に照らしていく様子を想像しましょう。あ、むりして手首を痛めないよう注意してください。
  5. 回転していく途中で強い振動(コツコツッ)もしくは弱い振動(コツッ)を感じます。これがイメージした時計の短針と長針を表現しています。


いま何時何分か、わかりましたか?

なお画面のダイレクトタッチと読み上げられる領域の少し下に時刻が表示されており、タップするとVoiceoverが読み上げます。また今回は試していませんがアラーム機能も搭載されているようです。


さて正直なところ実用性があるか?と問われるとどうでしょう、あまり無いかもしれません。Tapticタイムのように音を出せない場所で時刻を確認するという用途を考えてみると、ロック画面やバックグラウンドで動作しないHapticTimeは不向きです。

あと短針と長針が近いと判別が難しいという弱点もありますし、そもそもざっくりとしか時刻がわかりません。


ただ実用性という意味では今ひとつですが、仮想空間にあるアナログ時計(をイメージして)時刻を知るという発想には魅かれるものがあります。

イメージが膨らむと実際に時計の盤面を見ている気分になり、時間が進むと針の位置が移動していることがしっかり感じられて面白いのです。このアナログな感じ、Tapticタイムのような仕組みでは味わえない感覚ではないでしょうか。意味もなく何度も時刻を確認してしまいました。

筆者は針に触れて時刻を確認するタイプの盲人用時計には触ったことはありませんが、それに似たような感じかもと想像します。バーチャルではありますが「アナログ時計で時間を確かめる」なんて感覚、もしかしたら見えなくなって以来かもしれません。

「HapticTime」は意外?にもジェスチャーと触覚(振動)の組み合わせによるユーザーインタラクションの可能性を感じさせてくれるアプリでした。シンプルな振動だけでもアイデア次第で、もっと様々な体験が可能になるのかもしれませんね。


ちなみにこのアプリを開発したLorenzo Giannantonio氏は他にも興味深い視覚障害者向けアプリをリリースしています。いずれもiPhoneのカメラを使い根の前の環境や物体を識別して音声や振動でフィードバックするというものです。ただこれらのアプリ、背面に二つ以上のカメラが搭載されたiPhoneでなければうまく動作しないようで、筆者のiPhone 7では検証することができませんでした。あしからず。


JoWalk 床面の変化を検出し通知するアプリ。

Steps Detector 障害物や段差などを検出し通知するアプリ。

VibView 物体の色、輪郭、距離を検出し通知するアプリ。


2020年6月8日月曜日

絵画の筆跡を3Dスキャンする技術は「触れる美術観賞」を実現する。


絵画は、画家特有の筆跡であったり、重ね塗りされた絵具の厚み、カンバスの微妙なテクスチャなどの「質感」を持っている。これらの情報は画像データや印刷物では必ずしも正確に伝えることはできない。
ネットや画集で手軽に世界中の名画が見られるにもかかわらず、美術館の特別展に長蛇の列ができたり、世界中の美術館をめぐる人々が多いのは、そのような理由もあるのだろう。
だがいざ「本物」を見ようとしても、その絵画が貴重であればあるほど作品と鑑賞者との距離は遠くなり、その作品の持つ質感を感じとることが難しくなる。ましてや視覚に障害を持つ人々にとってはその質感を体験する手段は存在しない。
新しく開発された「絵画の3Dスキャン」技術は、リアルとバーチャルでまったく新しい絵画鑑賞の世界を切り開くかもしれない。

米国ペンシルベニア州立大学アビントン校とニュージャージー工科大学の研究チームは、optical coherence tomography (OCT)と呼ばれるレーザー技術を用いて、絵画の高精細な3Dスキャンを実現する技術を開発した。
この技術により、絵画表面の凹凸、つまり筆跡や絵具の盛りといった立体情報を高精度な3Dデータトして保存することができるようになるという。

OCTはマイクロメートルの分解能で画像を撮影できるレーザーベースのイメージング技術。一般的には生物医学の用途で用いられることが多いが、表面の凹凸と下層構造を同時にスキャンすることができることから美術分野への応用が考案された。
だがOCTはスキャンできる面積が非常に狭い。そのため研究チームは移動しながら連続スキャンするロボット技術と、スキャンされた画像をパッチワークのようにつなぎ合わせて補正するソフトウェアを独自開発。これらを組み合わせることで広い面積の絵画の3Dスキャンが実現した。

この技術を用いれば、例えば火災や自然災害、経年劣化などで作品が破損してしまった場合にこのデータをもとに忠実な修復が可能になる。この研究にあたっては、美術史や美術品の保存に関する専門家とも密接に連携したという。

またスキャンしたデータから立体レプリカを制作することでこれまで近寄って鑑賞できなかった数々の名画に触れて楽しむことができるようになる。もちろん絵画の一部分だけにクローズアップしたモデルも簡単に作成可能だ。
そしてこの技術は特に視覚に障害のある人々に大きな恩恵を与えるだろう。これまでも作品に描かれたモチーフの輪郭を触図として制作し、全体像を伝える試みは行われていたが、絵画の質感を感じとることは難しかった。この技術を応用すれば、触感から得られる情報はさらに多様になるだろう。

研究チームのリーダーであるYi Yang氏は、コンピューター画面でさまざまな角度から見ることができる絵画の3Dモデルは、オンラインの美術教育においても大きな効果を発揮するだろうと述べている。
近年、Covid-19感染拡大により閉鎖を余儀なくされている美術館がインターネット上にバーチャルミュージアムをオープンする動きが見られるが、絵画を単なる画像としてだけでなく、立体的に閲覧することができれば、より作品への理解度は深まるだろう。ひいては障害などで普段から美術館を訪問できない人々にも、絵画の豊かな質感を感じる機会になるはずだ。

Covid-19流行の影響で「触れる」行為が避けられている昨今ではあるが、この騒動を乗り越えた未来には「触れる美術鑑賞」が当たり前になる時代がやってくるのかもしれない。


2020年5月30日土曜日

空中にかざした手のひらに点字の触覚を再現する「Hapti-Read」。


ドイツ・バイロイト大学のViktorija Paneva氏らの研究チームは、超音波を応用した非接触型の触覚ディスプレイを開発した。
これは空中にかざした手のひらに任意のドットによる形状を触覚として感じ取れる技術だ。この装置を用いれば視覚障害者に対し、点字を用いて安全かつ衛生的に情報を伝達することができるようになる。

「Hapti-Read」と名づけられたこのデバイスは超音波を発信する特殊なスピーカーで構成される。デバイスは人の手を自動的に追尾するディープモーションセンサーを備えており、超音波をスピーカーから集中的に照射することで手のひらに触覚を再現する。その感覚は「軽い風が当たっている」感じという。

超音波スピーカーは16×16のグリッドで配置され、それぞれのスピーカーからの周波数を100から200ヘルツの間で調節し音圧の違いによりドットを触覚として表現する。点字に限らず、数字や図形、アイコンなどの触覚も表現可能。また最大で70センチの距離まで触覚を伝達することができるという。、
研究者は11人の視覚障害者を対象に、再現された数字の触覚を読み取る実験を行った。その結果、88%で性格に数字を読み取ることができたという。

公共スペースに設置されている電子端末、例えば券売機や自動販売機、病院の受付きなどのインターフェイスは物理ボタンが廃止されタッチパネルによる操作が中心となっている。そのため視覚に障害を持っていると操作することが極めて難しい。音声による操作に対応した端末もあるが、プライバシー漏洩や聞き取りにくさなどの課題も多い。
またこのような端末に点字ディスプレイを設置するアイデアも考えられているが、導入コストやメンテナンスの問題、さらに近年では衛生面のリスクもあり進んでいない。
Hapti-Readのような非接触技術は、このような問題を解決する一つのヒントになり得るかもしれない。

またHapti-Readは純粋に触覚を伝達する技術だが、他のセンサーやデバイスと組み合わせることでエレベーターのボタンを触れずに操作したり、VRやARゲームに仮想触覚フィードバックを追加するなど、視覚障害者への情報伝達に限らない、様々なシーンへの応用が考えられるだろう。

Covid-19の感染拡大により公共スペースの衛星面の懸念が高まる中、さまざまな非接触技術に注目が集まっている。近い未来、このような「バーチャル触覚」が、私たちの「濃厚接触」に取って代わるようになるのかもしれない。


2020年1月19日日曜日

[CES 2020] タッチパネルに「触覚」を加える2つのテクノロジー。

TanvasTouch(画像引用元)

スマートフォンや駅の券売機、ATM、家電製品、レストランのメニューに至るまで、タッチパネル操作式のディスプレイは至る所で日々増殖を続けている。だがこのようなディスプレイは指で触れても物理的なフィードバックが得られず、操作した感覚に乏しい。
せいぜい、効果音が鳴ったり軽く振動する程度だ。

この「操作した感」の缺乏は、タッチパネルの表面がツルツルしていることが原因だ。
ツルツルしてるのだから、仕方がない。
でも、もしタッチパネルに触れた時、押しボタンの感触を感じられたらどうだろう?
ツルツルしてるのに、指先に触感を覚える。
そんな不思議な技術がCES 2020に出展されていた。

触覚ディスプレイは、タッチパネルの表面を変形させることなく様々な仕組み(超音波や静電気など)を用いて指先に擬似的な触覚を出現させる技術だ。これまで、このような技術は主にディスプレイを注視できない自動車設備むけに開発が勧められてきたが、家電製品やキオスク端末、スマートフォンなどへその用途が拡大されつつある。

もしスマートフォンに触覚が加われば、画面を見ることなく音楽再生をコントロールしたりメッセージに応答できるようになる。
またタッチ操作に不慣れな高齢者が、操作するボタンを触覚で確認するといったユーザー補助的な用途も考えられるだろう。

一方、筆者のようにスクリーンリーダーでタッチパネルを操作しているユーザーにとっては、音声だけが頼りだったインターフェイスに「触覚」というチャネルが加わることで、得られる情報量が大幅にふえることが期待できる。

触覚ディスプレイは、そのようなアクセシビリティの改善とともに、エンターテイメントやネットショッピングなどの分野への応用も期待されている最新の技術だ。
これまで視覚、聴覚しか扱わなかった世界に「触覚」をもたらすこのテクノロジーは、電子端末に大きな変革をもたらす可能性を秘めている。

Tanvas、「TanvasTouch」の開発キットを販売開始。


米国Tanvas社は、様々な大きさや形状のディスプレイやトラックパッドなどの表面にプログラマブルな触覚エフェクトを追加する技術「TanvasTouch」を開発しているスタートアップだ。
スワイプで画面上に独特なテクスチャを感じたり、ボタンのクリック感を体験できるなど、これまでとは次元の異なるエクスペリエンスを提供する。すでに一般向けの製品に組み込まれた実績もあるという。

そしてTanvas社はCES 2020にて、同社の触覚技術を誰でも試すことができるオールインワンの開発キットをリリースした。これにより商用製品のタッチディスプレイに触覚エフェクトを導入するにあたり、事前にこの技術を試すことができるようになる。

この開発キットには10.1インチマルチタッチディスプレイと、触覚を定義するためのソフトウェア、ツール、API、そして各種リファレンスとトレーニング、専門スタッフによる5時間の無料サポートが含まれる。
このキット販売により、触覚ディスプレイへのハードルが下がり、様々な端末への導入が進むことが期待されている。


Hap2Uの「Hap2Phone」はスマートフォンに触覚を加える。


タッチパネルに「触覚」体験を加える技術を開発しているもうひとつのスタートアップが「Hap2U」だ。
同社の技術はディスプレイをタッチした指先に、様々なテクスチャの触感を再現する。そして通常タッチパネルに用いられるガラス面だけでなく、プラスチックや金属といった素材にも触覚エフェクトを追加できるのが特徴という。例えば家電製品のプラスチック製ボタンに、触覚フィードバックを追加することもできるようだ。

そして同社がCESで出展した「Hap2Phone」は、スマートフォンに多彩な触覚をもたらすことに特化した製品。
これはディスプレイのガラスカバーの下に厚さ2ミクロンの薄膜圧電溶液を組み込むことで、画面をタッチした指先にボタンやスイッチなどの触覚を再現する。この仕組みを導入しても、スマートフォンの重量や消費電力に与える影響はわずかとのことだ。

Hap2Phoneではボタンやスイッチなどの感触に加え、柔らかさや高低差といった微妙な感覚を表現することもできるという。たとえばネットショッピングで商品の質感を伝えるような用途も考えられているようだ。
この技術が進化し、点字の触感を再現できれば最高なのだが(妄想)。

また具体的な応用例として、ソフトウェアキーボードに触れた時に文字の形を感じ取るといった使い方も示されている。「形」といっても、どのくらい細かい形を感じられるのかは不明だが、同社は画面を見ずにタイピングできるレベルを目指しているようだ。

hap2Uはスマートフォンメーカーへこの技術をOEM供給することを考えている。「触感」がスマホの新しいセールスポイントになる日も近いかもしれない。ゲームなどエンタメコンテンツと組めば、結構うけるような気もする。



2019年5月29日水曜日

[メモ] 視覚障害者も触覚で映像が楽しめる米国の多感覚シアター。


2019年5月24日、米国ロサンゼルスにある世界有数の水族館Aquarium of the Pacificに併設されている劇場Honda Pacific Visions Theaterがリニューアルオープンし、そのかつてない多感覚の体験とアクセシビリティが話題となっている。

まず目を引くのはその巨大なスクリーン。20,000ルーメンの性能を持つ3台のレーザー・プロジェクターから投射される8K品質の映像は133フィートの湾曲したスクリーンに映し出され、高精細で迫力のある映像を表現。加えて床から立ち上がる直径30フィートのディスクには、別のプロジェクターからの映像が投影され、これらが融合することで他では味わえない体験を提供する。
サウンドシステムも充実しており、スピーカーはスクリーンの後ろに7台、12フィートの支柱に2台、頭上の歩道に9台、劇場の後ろに4台設置されており、サブウーファーを含めると20以上のオーディオチャンネルという豪華版。そして観客はシートを通じてサウンドを振動として体感できると言う。
さらに「香り」を生成するシステムをスクリーン下に設置。映像の重要なシーンでこの機能がどうさし、ファンによって客席に香りを届ける。

そしてこの劇場で最もユニークな仕掛けが、超音波を用いて擬似的な触覚を実現するUltrahaptics社の技術による演出だ。これは座席に設置された専用のスピーカーから、映像や音とシンクロした音波が発せられ、手の中に圧力点を生成。手の中に触感を表現するというもの。

Ultrahapticsの製品マーケティング担当ディレクターであるVince Fung氏によると、この技術が水族館や博物館の映像に使われるのは今回が初めてという。同社はCortinaやAquariumと密接に協力し、映画と同期する触覚体験を作り出した。同劇場のオリジナル作品「Designing Our Future」の作中では、観客の手の中に「泡が弾ける」ような感覚や「波が跳ね返る」ような感覚などが表現されている。

この仕掛けは映像への没入感を高めるとともに、アクセシビリティの観点では視覚や聴覚に障害を持つ観客に音声や字幕以上の情報を与えるという側面もある。視聴覚障害者には触覚を調節するパネルが提供され、最適な触感の強さにカスタマイズできるとのことだ。

この劇場ではさらに携帯端末を用いたキャプションや聴覚ループなどの支援技術もふんだんに提供されている。Aquarium of the Pacificの社長兼CEOであるJerry Schubel博士は、公共施設に障害者への合理的配慮を義務付ける「障害を持つアメリカ人法」が要求するレベルを超えたアクセシビリティの実現に注力してきたと語っている。

関連リンク:

2019年3月29日金曜日

デジタルコンテンツに「多感覚」をもたらす視覚障害者向け端末「Feelif」。

Feelif Pro(画像引用元)

スロベニアのスタートアップFeelif社が開発した「Feelif」シリーズは、視覚障害者のためのスマートフォン/タブレット製品だ。従来のタッチ式デジタル端末に「触覚」を加えることで、これまでにはない新しいデジタル体験を提供する。

FeelifはSAMSUNG社のAndroidスマートフォン/タブレット端末をベースに、同社の特許技術である、着脱式の「触覚スクリーン」を追加。これに触覚・音声・振動オ最大限に活用する多感覚アプリケーションと、各種サービスをバンドルした製品である。
透明な触覚スクリーンには、スクリーンに触れた指の位置を検知できるグリッド(格子状の凹凸)や、点字を習得するためのドットなどがあしらわれており、Androidのスクリーンリーダー(Talkback)とバイブレーションを連動させることで、図形や線などを体感できる工夫が施されているという。

画面を目視せずに凹凸のないタッチスクリーンを操作しようとしても、今画面のどの位置に触れているか認識するのは難しい。そのため一般的なスマートフォンやタブレットで利用できるスクリーンリーダー(iOSならVoiceover、AndroidならTalkback)は、画面のどの場所をタッチしてもきちんと操作できるように設計されている。
この「今どこを触れているか」を触感でしる手助けをしてくれるのが、Feelifの触覚スクリーンに備えられているグリッドだ。たとえば画面に表示されている図形を効果音と振動にガイドされながら指でたどる場合、グリッドの触感を頼りにその座標を確認することで、その形をイメージしやすくなる。


Feelifのラインナップ。


Feelifのラインナップはスマートフォンの「Gamer」、廉価タブレットの「Creator」、そしてハイエンドの「Pro」の3モデル。それぞれのスペックを見てみよう。

Feelif Gamer(699€)
スクリーン:5,2型(720 x 1280ピクセル)
メモリ:2GB、ストレージ:内蔵16GB+microSD

Samsung SM-J730F/DSをベースにカスタマイズした視覚障害者向けスマートフォン。SIMカードをベット用意することで通話にも対応する。触覚スクリーンに20x10セルの「Feelif Gamer gridLines」を採用。Feelifの基本アプリケーションを用いて多感覚ブックやゲームなどを楽しめる。

Feelif Creator(1,499€)
スクリーン:9,6型(1980 x 800ピクセル)
メモリ:1.5GB、ストレージ:内蔵8GB+microSD

Samsung SM-T561をベースにしたタブレット端末。点字ドット付きの29x21セルの触覚スクリーン「Feelif Creator gridStandard」を搭載。基本アプリケーションに加えて、教育アプリ「Feelif Education」がプリインストールされる。

Feelif Pro(2,499 €)
スクリーン:9,7型(2048 x 1536ピクセル)
メモリ:4GB、ストレージ:内蔵32GB+microSD

Feelifシリーズ最高峰に位置付けられるタブレット端末。ベースとなるのはSamsung S3 SM-T825。高精細58x42セルの触覚スクリーン「Feelif Pro grid Professional」を搭載。「Feelif Education」に加え、Feelifシリーズで再生できる多感覚ブックを製作できる「FeelBook Maker」(晴眼者向け)がバンドルされる。


Feelifのオリジナル・アプリ。


この多感覚デバイスの特徴を最大限に引き出すのが、プリインストールされているFeelifオリジナルのアプリケーションだ。
これらのアプリはスクリーンノ触覚に最適かさレており、多彩な音(豊富・ユニークな効果音、タッチ位置に対応する音階など)、振動が触感と違和感なく連携するという。ユーザーは音と振動を感じながら、グリッドの触感により指の方向性を感じることで、コンテンツを思い通りに操れる。これはフラットなタッチスクリーンでは体験できないかもしれない。これこそがFeelifのキモといえるだろう。
Feelifアプリは大きく5つのカテゴリに分けられている。

  • Feelif Games:多感覚で楽しめるゲームアプリ集。
  • FeelBooks:サウンドと触覚で楽しめる電子書籍。
  • Feelif Applications:Webブラウザやカメラなどの実用アプリ集。
  • Feelif Education:タブレットモデルのみ。図形描画や点字学習ができる教育アプリ集。
  • FeelBook Maker:Proのみ。FeelBookを製作できる晴眼者向けアプリ。

これに加え、さらに「Feelif Platform」を通じて新しいアプリや電子書籍が提供される。対応言語は英語、ドイツ語、フランス語、トルコ語、そしてスロベニア語だ。日本から購入できるかは未確認。

現時点のラインナップを見ると、比較的低年齢層をターゲットにした教育・エンターテイメントが主な用途だが、今後もっと高度な教育アプリや音楽などの趣味系アプリが充実すると面白そうだ。
あ、書き忘れていたがFeelifは通常のAndroid端末としても、もちろん活用できる。

視覚障害者にとってスマートフォンやタブレットは情報を取得するための重要な手段だが、それに「触覚」が加わることで、どのような世界が広がるのか、とても興味深い。
市場規模を考えるとどうしても高価になるのは止むを得ないが、それに見合う体験ができるのであれば、多くのユーザーを獲得できるだろう。
今後のコンテンツ拡充に注目したい。

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2019年2月11日月曜日

触図とAIのマリアージュ。指先と耳で図の理解を助ける「TouchVision」。


言うまでもないが重度の視覚障害者が情報を得るためには、視覚以外の感覚、つまり触覚や聴覚を駆使しする必要がある。だが視覚から得られる圧倒的な情報をこれらの感覚で代替するのは非常に困難なのも事実。
中でも「図(例えば地図やグラフ)」や「数式」といったグラフィカルな情報を視覚を使わずに理解する手段は限られており、特にこのような教材を多用する教育現場においてはこの問題が履修の制限、ひいては進路選択の妨げにもなっているという。

もちろん図や数式を凹凸印刷した「触図」は古くから存在はしているものの、やはり目で見るほどスムーズには情報を得られない。この障壁を取り除くべく、さまざまな技術的アプローチから研究が進められている。
インド工科大学(IIT-D)出身のAnkita Gulati氏が開発した「TouchVision」もその一つだ。

TouchVisionは低コストで触図に音声フィードバックを加えるマルチモーダルなインターフェイスを提供する。AIによる画像認識技術を応用し、触図に含まれる様々な情報を音声で伝えてくれる技術だ。
システム構成は、スマートフォン用アプリと撮影台、指先に装着するリングという非常にシンプルなもの。撮影台にTouchVisionを起動したスマートフォンと食酢を固定したら、リングを装着した指で触図をなぞる。すると、スマホのカメラがリングのマーカーを認識し、指し示したテキストを読み上げる。
たとえば地図なら地形を触図の凹凸で確認しながら、同時に地名などの情報が音声でフィードバックされる、といった具合だ。
テキストだけでなく「色」を認識して読み上げることで、触覚で絵を観賞する際により豊かなイメージを伝えることもできる。子供向けの絵本で、登場人物の服や草花の色を読み上げるのも楽しいのではないか。


指先で「形」を確認しつつ、同時に耳から対応する情報が入ってくるため、形と文字を別々に読まなければならない従来の触図と比べ、効率的に内容を理解できる。また点字が読めない視覚障害者でも利用できるというメリットもある。物理的な制約が多い点字よりも多くの情報を含めることも可能だろう。
このシステムでは基本的に、墨字で文字情報を印刷した触図を用いるが、触図出なくても指の位置関係である程度内容が理解できそうな気もする。

視覚障害者がグラフィカルな情報を得る手段として「触図」はトラディショナルな手段だし、それは今後も変わりないだろう。だがそれに音声やAIといった最新のテクノロジーが融合することで、これまで伝えることが難しかった情報も共有できるようになるのかもしれない。

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2018年12月30日日曜日

スマホに新しい触覚をもたらす!?夢の新素材。


視覚障害者にとって「触覚」から得られる情報は貴重だ。
だが、ことICTの世界では、触覚の排除が進められている。スマートフォンからは物理ボタンがどんどん消滅し、自動販売機や券売機はタッチパネルに。最近ではクレジットカードの暗証番号やサインですら、あのツルツルした平べったいディスプレイでやらされることが多くなってきた。
これはおそらくメンテナンスフリーにすることで経済効率化を目指した結果なのだと想像されるが、見えない人間にとってはいい迷惑である。もちろん音声フィードバックによる代替手段も考えられているが、ユーザーの立場からいえばダイレクトに機能へアクセスできる物理ボタンと比べると非効率的である。

もう我々のもとに触覚は戻ってこないのだろうか?
そんな悲歎の日々の中、興味深いニュースが飛び込んできた。

米国テキサス州ヒューストン、ライス大学の研究者は、物質に形状を自由にプログラムしてモーフィングさせる技術を開発した。変形する触覚ボタンや点字を浮き上がらせる、といったガジェットへの応用も期待されている。
これは、LCE)liquid-crystal elastomer、液晶エラストマー)と呼ばれる物質を応用したもの。もともとLCEは電圧を加えると変形するという性質を持ち、人工筋肉やアクチュエイターなどへの実用化を目指して世界中で研究が進められている。LCD(液晶ディスプレイ)が電圧により分子配列を変化させることで光の透過性をコントロールするように、LCEは物質の形状を変化させるもの、という雰囲気のようだが筆者の理解力ではここまでが限界である。難しいよ。

ライス大学の研究では、LCEをプログラムしたい形状の型に入れ、紫外線を照射して硬化させる。LCEは通常の温度ではこの形状を保つが、摂氏80度に加熱すると表面が平滑になり形状は消滅。だが物質の温度が下がるとプログラムした形状が再現される。同じ物質に複数の形状をプログラミングし、切り替える事もできるというのが、既存の形状記憶物質と大きく異なる特徴だろう。

研究者は今後、体温レベルの低温や光を使用したモーフィング、さらには変形させたい部分だけを反応させることを目指しているという。ロボットや機能に合わせて変形する触覚ボタン、低コストな点字ディスプレイなどへの応用も想定しているようだ。支援技術をはじめ、幅広い分野に活用できるだろう。

この技術が確立すれば、もしかしたら近い将来、ディスプレイの表面がぽこぽこ変形しまくるスマートフォンが登場するかもしれない。従来の故障しやすい機械式の物理ボタンや、動作音が木になる点字ディスプレイに大きな変革をもたらす期待の技術だ。妄想が過ぎるとも思うが、夢はみたもん勝ちである。

関連リンク:


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