Canute 360(画像引用元)
英国Bristol Braille Technology社が現在開発中の「Canute 360」は、「点字電子書籍リーダー」にカテゴライズされる製品だ。点字データを読み込ませることで、視覚に障害を持っていても指先の触覚を使って読書を楽しむことができる。
最大の特徴は、40セル X 9ラインというかつてない情報量。市販される点字リーダーとしてマルチラインに対応するのは世界初という。いわば「点字版・Kindle」といった製品だ。
視覚に障害を持った専門家や学生にとって、点字資料の扱いは大きな悩みのひとつ。点字印刷されたものは必要な資料のごく一部であり、仮に存在していたとしても物理的な問題がつきまとう。要するに分厚くて重いのだ。この物理的問題を解決するのが点字を機械的に表現する点字ディスプレイだが、現在一般的に流通している製品は1行/40セル程度で、大量の資料を読んだり、特に数式や楽譜といった内容を効率的に読むのは困難。
9行x40セルを備えるCanute 360は、点字印刷と点字ディスプレイの長所を併せ持った画期的な製品と言えるだろう。
開発が始まったのは2012年。2018年初頭から英国内および米国のAPH、NFB、カナダのCNIBの協力を得てユーザーテストが実施されている。2018年9月にはNESTA Inventors Prizeを受賞。現在も続いているテストが終わり次第、2019年中には製品として出荷される見込みという。
Bristol Braille Technology社の代表でCanute 360の開発者、ED ROGERS氏へのインタビューによると、Canute 360の機能はとてもシンプルだ。点字データをコピーしたSDカードもしくはUSBメモリを本体にセットすれば、その中のBRFファイルを読み込みピンの隆起で点字を表現する。ピンを動かす仕組みは従来の製品と比べ簡素化(アクチュエーターの数が少ないらしい)されており、動作はやや遅いものの低コストという。ユーザーの操作は「ホーム」「進む」「戻る」のナビゲーションとファイル選択ボタンが基本。Bluetoothもストレージもバッテリーも搭載していない、まさに「点字データを読む」ことに特化したデバイスだ。その結果、点字リーダーとしてはかなりリーズナブルな価格(曰くハイエンドなノートPCくらい)での販売を予定しているとのこと。
マルチライン点字であると同時に、点字デバイスの価格を抑えるという2つの意味で、視覚障害者へのインパクトは小さくないだろう。
寸法は36.5 X 18.5 X 8 cmと厚みのあるPC用キーボードくらいの大きさ、重量も2.8 KGとなかなかの重厚感。電源が必要であるためモバイルでの用途は考慮されていないものの、自宅やキャンパス、研究室の間を持って歩く程度ならさほど苦にならないだろう。
現時点ではスタンドアロンのデバイスとして開発・テストされているCanute 360だが、ハードウェア的にはUSB-B端子を経由してパソコンやスマートフォンと接続できる設計になっている。将来的には点字ディスプレイのような用途も考え られているようだ。ただマルチライン点字という前例のない製品だけに、スクリーンリーダー開発側とのコミュニケーションが必要、とED ROGERS氏は語っている。
マルチラインの利点を活かせば、Webの表組みを2次元的に表現するなど、従来の点字ディスプレイや音声読み上げでは実現できなかった方法で情報を受け取れるようになると期待される。
またデバイスを制御するプログラムはRaspberry PiとLinux上で動作しており、オープンソースとしてGitHubから利用できる。有志の開発によって対応するファイル形式の拡張や用途が明らかになっていないビデオ出力やオーディオ出力も、活用されるようになるのかもしれない。
視覚障害者の情報入手手段として、点字は重要な技術だ。音声読み上げは手軽ではあるが、例えば会議で発言中に資料を読むといったシーンには向いていないし、長時間音声を聞き続けるのは耳への負担も大きい。
一方で点字が読める視覚障害者の割合は減少傾向にある。恒例になってからの点字習得が困難なことや、中と視覚障害者の点字教育の場が限られているという問題もある。だが点字を読めるようになりたいと考える視覚障害者も少なくない。
低価格の点字デバイスの普及は、このような状況を変えるひとつのきっかけになるのかもしれない。
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