世界的に珍しい、視覚障害を専門に扱う総合イベントである。
2019年も、11/1から11/3までの3日間、東京・錦糸町にある「すみだ産業会館サンライズホール」にて開催された。筆者は11/1と11/2に訪問。これで3回目の参加である。
前回、前々回は、とにかくひたすら展示ブースを必死に回る感じだったが、今年は主にイベントへの出席と、
Twitterなどで知り合った方々との交流をメインに据えることで、体力を温存しようという作戦。普段引きこもっているわりにイベントが集中していたので……。
その甲斐あってか、なんとか参加した2日間、乗り切ることができた。体力なさすぎ。
というわけで、サイトワールド2019で印象に残ったイベントと展示について、個人的に思ったことなどをメモ代わりに書いていこう。
記憶を頼りにしているので、若干の間違いはご容赦ください。
若干でない間違いは、ご指摘ください。
ではまず、イベントから。
・ICTを活用した視覚障害者移動支援システムの社会実装
11/1開催。昨年も参加したワークショップ。主にスマートフォンを用いた視覚障害者のナビゲーション技術の最新動向が発表されるとともに、体験もできるという、実に私好みのワークショップである。
今年印象的だったのは、国土交通省の交通バリアフリー関連のガイドラインに、Webアクセシビリティの要件が明記されるという話。確かに近年ではWebやアプリは公共交通機関を利用する上では欠かせない要素になっている一方、Webはともかくアプリのアクセシビリティには不満を感じることも多かった。。アプリを通じた情報提供は視覚障害者にとっても有益だけに、ガイドラインの早期策定に期待したいところ。
他にも、コレド室町で公開された「
インクルーシブ・ナビ」を用いた
屋内ナビゲーションの話題や、東京メトロで実証実験中の「
Shikai」プロジェクトの報告、筑波大によるコンピュータビジョンを用いたナビゲーションシステムなど、さまざまなアプローチから視覚障害者のナビゲーション技術の研究が進められていることがわかる。
また質疑応答の中で、今後これらの技術が社会実装されていく場合、場所によってアプリを使い分けるのは不便なのではないか、という意見があった。これに対し、将来的には統一規格的なものが必要、という認識も示された。まだ先の話ではあると思うが、単一のアプリでシームレスなドアツードアのナビができるようになれば最高ではないだろうか。
面白かったのは、筑波大が開発中のアプリ「オタスケマップ」。
開発メンバーの松尾さん(全盲)にレクチャーしていただきながら体験させてもらった。これはスマートフォン(iPhoneで動作していた)のマップ上に表示された歩行ルートを指で辿りながら、事前に歩く道順を確認できるというアプリ。タッチによる効果音と方向しじ音声、振動の組み合わせで、画面が見えなくても目的地までのルートを脳内にイメージできるようになっている。
歩行ナビアプリを用いて移動する場合でも、このようなアプリで事前にルートを確認することができれば、不慣れな場所でもより確実に目的地まで到達できるかもしれない。道順を知る手段としては、すでに「
ことばの道案内」というサービスが提供されているが、マップから道順を生成できれば利用する場所を選ばないし、ルートを指でたどることで、文字情報よりも距離感や方向を直感的にイメージできると感じた。リリースに期待。
・今更ですが歩行訓練を知るシンポジウム
こちらは11/2に開催されたシンポジウム。4人のパネリスト(2人は視覚障害当事者)が登壇し、歩行訓練の体験談や訓練を提供する側の現状などが語られた。
特に中途で見えにくい・見えなくなった視覚障害者が、安全に歩行するためには、白杖の使い方と歩行のセオリーを知ることが重要となってくる。だが歩行訓練を実際に受ける視覚障害者はまだまだ少なく、精度の認知度も低いとのこと。合わせて訓練士の不足や地域による格差など、多くの課題が話し合われた。
個人的な経験を言えば、歩行訓練を受けたことで、外出時の不安が軽減されたし、ガイドヘルパーや駅員の誘導を受ける場合でも、よりスムーズで安全な移動ができるようになったと感じている。また先述のようなICTを用いたナビゲーションが実用化されても「歩く」というアクションが伴う以上、歩行のスキルは必要不可欠だろう。
そのような意味でも、歩行訓練の重要性がもっと知られる必要があるし、それに対応できる訓練システムやセルフトレーニングなど、多角的なアプローチを考える余地もありそうだ。あと「訓練」という言葉のイメージが、何かしらの影響を与えているのかもしれない。
健全なフィジカルがあってこそのテクノロジー、そう思うのだった。
ここからは展示ブースのお話。
・新潟大学 工学部 福祉人間工学科
触地図や立体模型で世界の建築物に触れられる展示を行っていた。
お気に入りは、京都中心部の触地図。国土地理院による3D測量データにより、周囲を囲む山々がリアルにモデリングされ、盆地である京都の地形を感じられた。マグネットで配置されていた寺社や新幹線、京都タワーもキュート。
久しぶりに京都行きたいなあ。人多いんだろうなあ。
また、こちらではオンデマンドでの触地図作成もしてくれるとのこと。
・NextVPU (Shanghai) Co.,Ltd.
一見すると「OrCam MyEye 2」にそっくり(禁句?)。日本語の書類をかざすと読み上げてくれた。基本的にはOCR機能がメインだが、比較的低価格との噂。機能・価格帯的には「
Oton Glass」に近いかな? 認識精度はもちろん、サポート体制も気になるところ。
余談だが対応していただいた方が日本語が通じなかったので、あまり突っ込んだ質問は断念したのだった。
・株式会社ドット
韓国発の
スタートアップ。世界初の点字表示可能な腕時計「Dot Watch」と、新製品の点字書籍リーダー「Dot mini」を展示。
「Dot mini」は随分前から海外でニュースになっていたが、ようやくお披露目といった感じ。基本的には点字データを読むシンプルなリーダーといったデバイスのようだ。これまでの情報では価格の安さが特徴的だったのだが、その点ではちょっと残念かな?
点字デバイスとしては、位置付けが難しい製品と感じなくもない。
・社会福祉法人 日本視覚障害者団体連合 (旧:日本盲人会連合)
展示は見ることはできなかったが、名称が変わったのでチェック。
略称は「日視連」で良いのかな?
・プログレス・テクノロジーズ株式会社
昨年のサイトワールドと東京メトロ辰巳駅で体験した、点字ブロックとQRコードを用いたナビゲーションシステム「
Shikai」を今年も展示。改めて体験してみた。
基本的には大きな変化は感じなかったが、次のポイントまでの指示音声がシンプルになっていたり(誘導ブロックの左右どちらを辿る、みたいな情報が省かれていた)、説明によればQRコードのスキャン精度が向上し、多少早歩きでも認識できるようになったとのこと。全体的にブラッシュアップされているようだ。
「Shikai」は現在、東京メトロ・新木場駅でも実験中。実際に駅の点字ブロックにQRコードが設置されているらしい。まあ、アプリがないから試せないけどね。
・株式会社システムギアビジョン
ハードウェア的には変化はないが、ファームウェアのバージョンアップでBluetoothイヤホンへの出力対応やレスポンスの向上などが図られている。また認識される商品バーコードも、順調に増えているとのことだった。
・株式会社キザキ
製品名を失念してしまったが、ホールド感の高いグリップの白杖が印象的だった。
独特の形状を持つグリップは手のひらにしっかりと密着するので、白杖からのフィードバックを感じ取る面積が広く、路面の情報をより細かく得られる感じ。試したのは3段折り畳みタイプだったが、直杖ならさらにセンシティブになるのではなかろうか。一方で、手引き中にエンピツ持ちするのはちょっと違和感ありかも。
この白杖にはもう一つ秘密があった。それはストラップ。
一般的に、白杖のグリップから出ているひも(折り畳みならセンターラバーを調節するためのもの)は、手首に通すのは危険と言われている。白杖が電車などのドアに挟まってしまうと、巻き込まれてしまう危険性があるためだ。
だが、うっかり白杖を電車とホームの間に落とさないように、ストラップ代わりにこの紐を手首に通してしまうユーザーも少なくない。
体験した白杖には特別なストラップが装着されている。このストラップは、一定の強さで引っ張られると自動的にロックが外れ、巻き込まれ事故を防ぐ仕組みだ。
介助されたロックを戻すのも簡単。これ、普及して欲しいなあ。
・株式会社KOSUGE
こちらの主力商品は白杖だが、個人的に興味があったのが、スマートフォンを用いたナビゲーションシステム「
MYみちびき」。
準天頂衛星「みちびき」を用いた高精度なナビを目指している。
昨年はまだ「みちびき」がサービス開始したばかりでコンセプトを聞いただけだったが、今年はどうだろう。
説明して頂いたのは、KOSUGEの社長さま。昨年同様、熱心に開発状況を話ていただいた。お話によれば、現状はまだ「みちびき」が全記揃っておらず、受診川の機材もサイズやコスト的に未成熟。ただ電波を受信するアンテナの小型化などは進んでおり、開発は進められているとのことだった。実現まではまだ時間がかかりそうだが、ぜひ来年もお話を伺いたい。
これは機械学習を用いて歩行者用信号をiPhoneアプリで判別してくれるというもの。デモしていただいたものでは、赤信号と青信号、それぞれの確率をパーセントで表示していた。今後、明るさなど様々な条件でさらなる学習を進めていき、実用化したいとのことだった。
信号をアクセシブルにする技術には音響装置やビーコンなどいくつかの技術が存在するが、スマホで判別できるように慣れば、低コストで安全を確保できるようになるかもしれない。個人的には信号に向かって真っ直ぐ歩くような機能があるといいなあ。
あとこちらのブースでは「
Nail Le Braille」さんの白杖デコレーションも展示されており、スワロフスキーがふんだんに盛られたキラキラ(であろう)デコ白杖に触れることができた。グリップには白杖用リングもひかる。
さすがにここまでデコるのはアラフィフおじさん的にどうかと思うが、ワンポイントでつけるくらいならいいかも、とか思ったりした。。結構、光モノは好きなのだ。
・株式会社マクロス
MDX-50で削り出された木製の人物像に触ってみたが、まるで人が削ったような自然な触感。さすがにお値段もそれなりだが、3Dプリンターのイメージを変えてくれる製品だろう。
またVersaUVを用いて、様々な素材に印刷されたサンプルにも触れることができたが、しっかりとした触感を感じられた。これは重ね刷りもできるとのことなので、いろいろな表現が楽しめそう。
こちらの2製品は、視覚障害者向けというよりも、幅広い層、特にクリエイティブな分野に訴える魅力があると思う。
・ソニーホームエンタテインメント&サウンドプロダクツ株式会社
人気のネックスピーカーも試したが、これがなかなか迫力があって良かった。遅延もかなり少ないらしく、スクリーンリーダーの音声用にも使えそう。贅沢かな。
そして、やはり注目はAndroid TVを搭載したテレビ「BRAVIA」。
視覚障害者的には、画面上の文字情報を音声で読み上げてくれるのはもちろん、音声読み上げのオン/オフをリモコンから簡単に切り替えられるのが魅力。リビングのテレビなど、音声読み上げを切って使いたい家族のためにも有用だろう。音声アシスタントによる各種操作も便利そうだった。テレビもしっかりアクセシブルになってきたなあ、としみじみ。これでもっと副音声が充実してくれればね。
余談だが、個人的にテレビに付いて欲しい機能がある。
それは、スピーカーから主音声を出力したまま副音声(もしくは副音声+主音声)を、ヘッドホンまたはBluetoothイヤホンに出力して欲しいのだ。理由は先述と同じで、家族への配慮である。
以前(というか昨年のサイトワールドで)某家電メーカーの説明員にこのことを話たら、半笑いで却下されたが、今回ソニーの説明担当者さんは、しっかり聞いてくれた。これだけでも好印象である。応援してるよソニーさん。PS4に日本語TTS入れてください。
・まとめ
というわけで、サイトワールド2019で印象に残ったイベントと展示の感想でした。
前回はスマートグラスやOrCam Myeye 2といった注目の製品が目白押しで新鮮味があったが、今年はそのような意味では)個人的には)目玉といえるものが少なかったかな? 今後は国産スタートアップの登場にも期待したい。
また聞くところによると、スマートスピーカーのイベントが盛況だったとのこと。音声アシスタントは視覚障害者の間で着実に浸透しつつあるようだ。確かに別のイベントでも、スマートスピーカーに対するリアクションは結構大きかったような。機械に話しかけるなんて、日本人には向かないんじゃない?などと言われていたが、少なくとも視覚障害者の注目度は高いようだ。
そして改めてサイトワールド全体を見てみると、やはりこのイベントは「点字」が基本なのだなあと感じる。点字機器を開発・販売するブースは相変わらず盛況だったし、点字資料を配布するイベントやブースもあった。ただ一方で点字が読める視覚障害者の割合は減少しているという事実があるわけで、このギャップをいかにして埋めていくのか、考える必要がありそう。
その「点字が読めない視覚障害者」の一人である筆者。今回は日本展示図書館のブースで、展示器と点字を打てるテープをゲット。これを使って、少しでも点字が使えるよう努力したい所存である……!
さて、なんやかんやで今年も満喫したサイトワールド。
今年は初めて、ネットで交流のあった方々とお会いし名刺と情報交換できたのが楽しかった。人と会うのって大事だね。
改めて、お世話になった方々に感謝いたします。
来年もまた良い出会いがありますように。