近年では情報を得る手段として、オーディオブックやポッドキャストなど「聴くメディア」が注目を集めている。
しかし一般的には、いまだに「紙で読まなければ読書とはいえない」というイメージが根強いようだ。
2016年に英国のインターネット調査会社YouGovが実施した調査によると、回答者のおよそ9割がオーディオブックによる読書は、紙の本を読むよりも、内容の理解度が低いと考えていると言う。
だが視覚障害者や失読症など紙に書かれた文字を読むことが困難な人々にとって、このような認識は教育や就労の面で不利益に作用しかねない。
本当に「耳で聴く読書」は、紙の読書よりも劣っているのだろうか?
英国The Telegraphオンライン版の記事によると、カリフォルニア大学バークレー校の研究者たちによる実験は、この世間のイメージとは異なった結果を示している。
9人のボランティアが参加した実験では、まずBBC Radio4で放送されたポッドキャスト「The Moth Radio Hour」を聴いた後同じ内容の記事を目で読みそれぞれで脳のどの部分が活性化されているかを調べた。
その結果研究者は、リスニングとリーディングでは、実質的に活性化される部分が同一であることを発見した。
つまり、情報を耳で聴く・めで読むにかかわらず、脳は意味情報を同じように処理しており、言葉を理解する上で両者に大きな違いはない、ということだ。これは先述の世間のイメージとは大きく異なる。
また同時に、視覚的、触覚的、数値的、位置的、暴力的、精神的、感情的、社会的など、言葉の意味によって脳の特定の部分が、同様に活性化されることもわかった。
研究者たちはこの実験結果を踏まえ、脳梗塞、てんかん、言語障害、脳障害、失読症などの人々の言語処理を比較するといった臨床応用も考えている。
例えば臨床実験によって失読症の子供がオーディオブックで理解を深めることが証明できれば、将来、教育の場にオーディオブックなどの聴覚教材を導入する後押しになる。
またスクリーンリーダーを利用する視覚障害者にとっても、音声読み上げの利用が仕事のパフォーマンスに不利とならないことがわかれば、就労の機会や職場環境整備の促進、、職域拡大にもつながるかもしれない。
筆者は中と全盲で、普段から音声デイジーやスクリーンリーダーを通じ「耳」から情報を得ているが、かつて「め」で情報を得ていた頃と比較しても、さほど入ってくる情報量に違いを感じていなかった。画像や動画といった視覚的なものは別として。
そう言う意味で、この研究結果は納得のいくものだった。メディアから言葉を受け取り脳で処理するという仕組みで言えば、指先で文字を読み取る点字でも同じことがいえると想像できる。手話や指点字でも同様だろう。
もちろん視覚的な情報と聴覚的なそれとは得られる情報の種類に違いがあり、読み取るスピードも(個人のスキルにもよるが)差がある。完全に代替できるものではないが、少なくともインプットされた言葉の意味を理解する機能が同様であることがわかれば、感覚や学習能力に障害を持つ人々が無駄な劣等感を抱かずに済むはずだ。
新しい技術が登場すると、競合する旧来勢力から根拠のないレッテル貼りが発生することはしばしばみられるが、オーディオブックに対するイメージも、もしかしたらそのような力が働いていたのかもしれない。このような研究がスティグマを払拭し、障害を持つ人々の情報取得や社会参加の障壁を下げてくれることを望みたい。
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