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2022年2月21日月曜日

英国ITV、視聴前にドラマの登場人物の外見を「俳優の声」でチェックできる新しい音声説明サービスを開始。

Picture shows three men and one woman dressed in police uniforms. From left of the image to the right is Tom Stokes, Adrian Lester, Vicky McClure and Eric Shango.

画像引用元


英国の民間放送局ITV(Independent Television)は、2022年から放送中の新しいドラマシリーズ「Trigger Point」において、従来からの音声ガイドに加え視覚障害者向けの新しい音声説明コンテンツを提供しています。


オンデマンドサービスITV HubおよびYouTubeで公開されている「Meet the Characters - Trigger Point character descriptions(日本からは視聴不可)」と題された短編動画では、主要なキャラクターを演じる5人の俳優が彼ら自身の声で人物の外見に関する説明を行い、同時にキャラクターの静止画とキャプションが提供されています。

ドラマ本編を音声ガイドで視聴する視覚障害者は、この動画を事前に見ることで音声説明の内容を補完・強化することができるというわけです。

加えて俳優自身がナレーションを担当することで、本編の声とキャラクターのメンタルイメージを結びつけやすくなるという効果も期待されます。もちろん本編の音声ガイドは専門のナレーターが担当。俳優と同じ声だとわけわかんなくなっちゃいますからね。これも動画ならではの特徴といえるでしょう。

またロービジョンや感覚過敏など、激しく動いているキャラクターを判別することが難しい視聴者にとっては、静止画で俳優の外見をじっくり確認できるというメリットもあります。


この説明動画は2020年から2021年にかけ、視覚に障害のあるITV視聴者の協力を得て考案されました。説明文は同シリーズのディスクライバーが執筆し、俳優や制作会社の許諾を得た上で制作・公開されています。

このような視覚障害者に向けた事前の情報提供としては、演劇などで舞台装置や衣装に触れながら説明を受けられる「タッチツアー」として実施されている例はありますが、英国においてテレビ放送公式の形で行われるのは今回が初めての取り組みとのことです。


音声ガイドは本編の音声の隙間を縫うようにして挿入されるため、時間的な制約上、加えられる情報量に限りがあります。どうしても映像の動きや情景描写が優先されてしまうため、キャラクターの外見説明にまで手が回らないケースも少なくありません。

本編映像と分けた形で情報を補足する今回の試みは、時間的制約という音声ガイドの弱点を解消する一つのアプローチと言えるでしょう。

近年ではテレビ放送も見逃し配信サービスなどを利用し好きな時間に楽しめるようになってきています。視聴する前にキャラクターや世界観などの呼び的な情報を頭にしっかりインプットすることができれば、音声ガイドによる作品の理解も深まり、より楽しめるものになるのかもしれません。ITVではすでに後続のプロジェクトも進められているようで、視聴者の反応と今後の展開に注目したいところです。


音声ガイドの進化については立体音響など技術的な研究(過去記事)も進められています。これはこれで期待なのですが、ITVの取り組みのように従来の仕組みに一工夫加えることでアクセシビリティを向上させることも可能だし実現性も高いように思うのでした。特に連続ドラマやアニメなどある程度キャラクターのイメージが固定されている作品では結構効果があるような気もしますが、どうでしょう。


参考:Character descriptions on ITV’s Trigger Point – VocalEyes


2021年9月28日火曜日

英国リバプール。ビートルマニアの聖地「Strawberry Field」が、障害者にもアクセスしやすいインクルーシブな観光スポットに進化。

"Let me take you down,  'Cause I'm going to, Strawberry Fields."  The Strawberry Field Visitor Centre, seen from the gardens

画像引用元:strawberryfieldliverpool.com


英国リバプールにあるStrawberry Fieldといえば、少年時代のジョン・レノンが遊び、1967年発表の楽曲「Strawberry Fields Forever」ゆかりの地として世界中のbートルズファンにはお馴染みの観光名所です。

かつては孤児院として運営されていたこの施設は現在、学習障害のある若者のためのトレーニングセンターとして活用されており、一般観光客には長い間開放されてきませんでした。そのためStrawberry Fieldを訪問したビートルズファンは閉ざされた赤い門の前で写真を撮ったり、隙間から中の様子を覗き込むことくらいしかできませんでした。

しかし2019年9月、この施設を運営・管理しているSalvation Armyの手によって、このメモリアルな施設の一部が整備され、一般に向けその門が開かれたのです。


参考:ジョン・レノンゆかりの地「ストロベリー・フィールズ」、一般公開 写真12枚 国際ニュース:AFPBB News


公開されたStrawberry Fieldのビジターセンターでは「Strawberry Fields Forever」やジョン・レノンに関連した様々な資料やインタラクティブなツアーが展示され、落ち着いた雰囲気を持つビクトリア朝の庭園やカフェでこの名曲にインスピレーションをあたえたかつての孤児院に想いを馳せることができます。入場チケットやショップからの収益は、現在も併設されている学習障害者施設のために使われるとのこと。


そして先日、この施設のアクセシビリティが大きく向上したという記事がでていました。

それによると、施設全体にわたり徹底したバリアフリーが整備され、完全な車椅子アクセスを確保。加えて、視覚に障害のあるビジターに向け、多言語に対応したオーディオガイドや触れて楽しめる展示、そして経験豊富なスタッフによるガイドツアーが提供されるとのことです(公式サイトの情報では日本語には未対応)。また全ての映像コンテンツには聴覚障害者に向けたキャプションが付けられました。

また「Strawberry Fieldは、より包括的な設備を備えるChanging Places Toiletsの認証を受けた最初のアミューズメント施設の一つでもあります。Salvation Armyは2022年を目標に、認知症や自閉スペクトラムのあるビジターに向けたサービスを追加し、より包括的な施設を目指していくとのことです。


解散から50年あまり。ビートルズファンも高齢化が進んでいるはずですから、このような取り組みは歓迎されるのでは無いでしょうか。

Salvation Armyが孤児院としてこの施設を受け継いでから80年以上。長い歴史を尊重しながら、アクセシビリティはアップデートし続けていくという姿勢は他の文化施設に対しても参考となるようにも思います。


そういえば「Strawberry Fields Forever」の歌詞にはこのような一節があります。

"Living is easy with eyes closed,

misunderstanding all you see."

見えないからこそ感じられるものが、ここにはあるのかもしれませんね。


参考:Strawberry Field leads the way in accessibility to all, with advanced features - The Guide Liverpool


2021年7月29日木曜日

英国。音声ガイドの拡張を目指す研究「ENHANCING AUDIO DESCRIPTION」。サウンドデザインの再構築と立体音響で、音声ガイドの「情報量の壁」を克服する。

視覚障害者が映画やテレビといった映像メディアを楽しむ手段として活用されているのが「音声ガイド」です。

音声ガイドは、画面うえにある風景や人物のアクション、衣装などの視覚的な情報を言葉によって記述し、オリジナル音声の「隙間」に音声ナレーションとして挿入します。

この説明をきいた視覚に障害のある視聴者は、言葉からそのシーンを頭の中にイメージすることでその作品を楽しむことができるようになります。


視覚障害者にとって重要な情報入手手段である音声ガイドですが、視覚的な情報を言葉として表現する以上、映像と文字の間にある「情報量の差」という、どうしても乗り越えなければならない壁があります。

音声ガイドはオリジナル映像の時間内に納めなければならないため、場面によっては必要な情報が入りきらなかったり、ナレーションを挿入する隙間が短いなど、説明する情報を取捨選択しなければならない状況が生まれます。どの情報を残しどの情報をカットするかは主に音声ガイド制作者(ディスクライバー)のセンスと経験に委ねられているというのが現状なのです。

この「情報量の壁」を突破し、よりアクセシブルな映像メディアを実現するためには、従来のノウハウに加え、新しいテクノロジーの導入が求められます。


ENHANCING AUDIO DESCRIPTION(EAD)は、英国ヨーク大学のMariana Lopez博士を中心に、Arts and Humanities Research Councilからの資金提供を受け、2016年に発足した研究プロジェクトです。

AEDは創造的なサウンドデザインと空間オーディオによって映画やテレビの音声ガイドの表現を拡張し、オーディオ解説における情報量の格差を縮小することで視覚に障害のある視聴者の映像体験をより豊かなものにすることを目指しています。

EADは以下の3つのアプローチから音声ガイドの拡張を提唱しています。


1.効果音を追加したサウンドデザイン

映像に含まれる効果音は視覚障害者がシーンを理解するための重要なヒントですが、映像として描かれていても音を発さなければ、視覚障害者はその存在を認識できません。余程ストーリー上重要なものでなければ音声ガイドで説明される事はないでしょう。また音声が「BGMだけ」のようなシーンでは、言葉による説明が必要です。

そこでEADは音声ガイドトラックに独自の説明的効果音を加えることで、説明に費やされる言葉を減らすという手法を提案しています。例えばBGMをバックに人物が歩いているシーンでは、足音や樹木の揺れる音、人物の息使いなどを加えることで、情景の様々な部分を効果音だけで表現できます。その分他の要素を言葉で説明できるようになるわけです。


2.立体音響を応用した状況説明

近年ではDolby Atmosのようなあらゆる方向からサウンドが聞こえてくる立体音響を導入した作品も増えてきていますが、まだ多くの映像作品では、登場人物のセリフや効果音は画面の決まった方向からしか聞こえてきません。

EADは立体音響を応用し、セリフや効果音をその音が発せられている場所から再生することで、位置関係や動きなどの空間情報を伝達する手法を提案しています。

複数の登場人物が向いあって会話するシーンやアクションシーンなど、キャラクターの位置関係に重要な意味のあるシーンでは、聴覚から瞬時に位置関係を把握できる立体音響が効果的でしょう。反面、情報量が過多になりやすいというデメリットもありそうです。


3.一人称視点のダイアログ「I-voice」

従来の音声ガイドの解説は原則として客観的な視点から描写することが求められてきたため、感情や心理状態、特定の行動などを言葉として伝えることは困難でした。例えば俳優の微妙な表情の変化から滲み出るニュアンスは、客観的な描写だけでは伝えきれないでしょう。

EADはこのような内面的な情報をそのキャラクターから発せられる「モノローグ」として表現する「I-voice」と呼ばれる手法を提案しています。客観的なナレーションと区別するため、I-voiceにはリバーブなどの音響効果を加えます。


2017年、ヨーク大学、BSc in Film and Television Productionの学生は「Pearl」と題した20分間のショートフィルムを制作しました。この映像には立体音響とI-voiceによるナレーションが加えられています。以下の動画はその予告編です。EADが目指している拡張された音声ガイドの雰囲気を垣間見ることができるでしょう。


Enhancing Audio Description - Pearl Intro (Binaural Mix Plus iVoice) - YouTube


EADの研究は、オーディオフィルム(音声のみで表現されたドラマ)やオーディオゲーム、インクルーシブ演劇、そして2016年に公開されたドキュメンタリー映画「Notes on Blindness]などの作品からインスピレーションを受けています。

研究者はこれらの先鋭的なサウンドデザインを持つメディアと比較すると、現在主流の映画やテレビの音声ガイドはアクセシブルな技術の導入に関して非常に消極的であると語っています。


現状、音声ガイドの多くはオリジナル映像作品とは文理されたプロセスで制作されています。このような状況では新しい技術の導入は困難であり、音声ガイドが内包する「情報量の壁」を解消する事は並大抵のことではありません。

EADは拡張された音声ガイドを実現するため、、映像制作プロセスに音声ガイドの制作工程を組み込み、両者が協調して映像のサウンドデザインを行えるような環境の構築を提唱しています。


この拡張音声ガイド、実現するにはかなりハードルが高そうですが、音声ガイドにもまだまだ進化の余地はあると妄想が膨らむ研究ではあります。いつかは映画館で体験してみたいものですね。


参考:How audio can improve accessibility for TV and film audiences | ProSoundNetwork.com


2020年4月24日金曜日

オンラインライブイベント「One World」で「Be My Eyes」が視覚障害者の視聴を支援。


2020年4月18日(現地時間)、世界保健機関(WHO)と米国の非営利団体Global Citizenは全世界でCovid-19と対峙している医療従事者を支援するチャリティ・バーチャルライブショー「One World: Together At Home」を、YouTubeなどのストリーミングサービス及びテレビ放送を通じて配信した。(概要と曲リストはこちらを参照のこと)

残念ながら筆者が調べた範囲では、ライブ配信時に視覚障害者向けの音声解説は提供されなかったようだ。今回のOne Worldは音楽ライブがメインなので目が見えなくても十分に楽しむことはできた。だがアーティストの衣装やパフォーマンスの様子を音声で解説してくれれば、この記念すべきイベントをより深く共有することができただろう。

ただ放送では音声解説はなかったものの、別の手段で視覚障害者への情報提供が行われた。名乗りを挙げたのが「Be My Eyes」。
これはスマートフォンのテレビ電話を用いて目が見えるボランティアが視覚障害者の「目の代わり」をするマイクロボランティアサービスである。晴眼の一般ボランティアに加え、提携した企業や非営利団体の専門サポート(スペシャライズドヘルプ)と視覚障害者をピアツーピアで接続し支援を提供している。執筆時点では日本を含む150以上の国、180以上の言語で370万人のボランティアと21万人の視覚障害者が登録している。

今回のライブイベントでBe My EyesはGlobal Citizenと提携し、英語圏においてスマートフォン用Be My Eyesアプリのスペシャライズドヘルプ機能を通じ、One Worldの音声解説をリアルタイムで提供した。
視覚障害者はOne Worldの放送を聴きながら同時にBe My Eyesアプリを通じて専門のボランティアに接続し、One Worldライブ配信画面の説明を聞いたり、質問したりすることができた。同社はこのライブ配信のために専属ボランティアを募り体制を整えたという。

Be My Eyesといえば「パッケージの賞味期限を見て」とか「パソコンの画面を見て」といったような短時間のサポートで利用されることが多いが、このように特定のコンテンツに対して長時間の支援を提供する用途もあるのだなあと感心した次第。

副音声などのバリアフリー情報は本来であればコンテンツ提供側が用意すべきものだが、緊急かつ非常事態中では時間的・人員的、さらに技術的に難しいケースもあるだろう。今回のBe My Eyesの試みは、そのような場合でも情報保障を確保できるという点において興味深い取り組みと感じた。ただ「画面の説明」は他の同時通訳とは異なりどうしても接続したボランティアの説明スキルに左右されやすいような気がする。まあ今回は映画の音声解説のような厳密な内容ではなく、友人や家族に質問しながら楽しむくらいの体験が目的なのかもしれない(想像だけど)。

ただマンパワーによるリアルタイムの音声解説というソリューションは映像のアクセシビリティ向上の一つの可能性を持っているように思える。今回はBe My Eyesを用いていたが、その他のライブ配信サービスでリアルタイムに音声解説を提供する方法なども考えられるだろう。似たような試みとしては、映画や演劇で活弁士がライブで音声解説を加えるという手法も実際に行われている。
将来的にはAI画像認識を用いた自動音声解説技術の登場も考えられるが、当面はどうしても人間の力が必要になるはずだ。音声解説のチャネルを増やすことで、視覚障害者がより多くのコンテンツを楽しめるようになることを望みたいし、そうなるべきだ。

なおBe My EyesはOne Worldのメインである2時間のライブ音声に、ボストンの放送局WGBHの協力による音声解説(英語)を加えたオーディオをYouTubeで公開した。出演者の名前や衣装などの簡単な音声解説が加えられている。


ちょっとした情報だが、これがあるのとないのとでは、やはり大きな違いがある。そして何よりもコンテンツを提供する側から視覚障害者にも楽しんでもらいたいという送り手の意思が示されたことが重要だ。従来のやり方では難しくても、工夫とアイデアがあれば実現できるという一つの好例だろう。

なおBe My EyesはOne Worldに続き、BET.comが開催したチャリティライブ放送でも同様のサポートを行なった理、英国および米国ではRNIBなど4つの視覚障害者団体と提携し専門サポートの提供を開始した。マイクロボランティアにとどまらない、視覚障害者支援のプラットホームとしてその存在感がさらに増しそうだ。
日本への本格進出にも期待したい。


支援技術関連記事まとめ(2022年11月)※お知らせあり。

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