英国の民間放送局ITV(Independent Television)は、2022年から放送中の新しいドラマシリーズ「Trigger Point」において、従来からの音声ガイドに加え視覚障害者向けの新しい音声説明コンテンツを提供しています。
オンデマンドサービスITV HubおよびYouTubeで公開されている「Meet the Characters - Trigger Point character descriptions(日本からは視聴不可)」と題された短編動画では、主要なキャラクターを演じる5人の俳優が彼ら自身の声で人物の外見に関する説明を行い、同時にキャラクターの静止画とキャプションが提供されています。
ドラマ本編を音声ガイドで視聴する視覚障害者は、この動画を事前に見ることで音声説明の内容を補完・強化することができるというわけです。
加えて俳優自身がナレーションを担当することで、本編の声とキャラクターのメンタルイメージを結びつけやすくなるという効果も期待されます。もちろん本編の音声ガイドは専門のナレーターが担当。俳優と同じ声だとわけわかんなくなっちゃいますからね。これも動画ならではの特徴といえるでしょう。
またロービジョンや感覚過敏など、激しく動いているキャラクターを判別することが難しい視聴者にとっては、静止画で俳優の外見をじっくり確認できるというメリットもあります。
この説明動画は2020年から2021年にかけ、視覚に障害のあるITV視聴者の協力を得て考案されました。説明文は同シリーズのディスクライバーが執筆し、俳優や制作会社の許諾を得た上で制作・公開されています。
このような視覚障害者に向けた事前の情報提供としては、演劇などで舞台装置や衣装に触れながら説明を受けられる「タッチツアー」として実施されている例はありますが、英国においてテレビ放送公式の形で行われるのは今回が初めての取り組みとのことです。
音声ガイドは本編の音声の隙間を縫うようにして挿入されるため、時間的な制約上、加えられる情報量に限りがあります。どうしても映像の動きや情景描写が優先されてしまうため、キャラクターの外見説明にまで手が回らないケースも少なくありません。
本編映像と分けた形で情報を補足する今回の試みは、時間的制約という音声ガイドの弱点を解消する一つのアプローチと言えるでしょう。
近年ではテレビ放送も見逃し配信サービスなどを利用し好きな時間に楽しめるようになってきています。視聴する前にキャラクターや世界観などの呼び的な情報を頭にしっかりインプットすることができれば、音声ガイドによる作品の理解も深まり、より楽しめるものになるのかもしれません。ITVではすでに後続のプロジェクトも進められているようで、視聴者の反応と今後の展開に注目したいところです。
音声ガイドの進化については立体音響など技術的な研究(過去記事)も進められています。これはこれで期待なのですが、ITVの取り組みのように従来の仕組みに一工夫加えることでアクセシビリティを向上させることも可能だし実現性も高いように思うのでした。特に連続ドラマやアニメなどある程度キャラクターのイメージが固定されている作品では結構効果があるような気もしますが、どうでしょう。
参考:Character descriptions on ITV’s Trigger Point – VocalEyes
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