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2021年9月27日月曜日

キーワードは「ガス爆発」? 触覚ディスプレイの低価格化を目指す新しい研究。

Two images that show the change in surfaces triggered by combustion.

画像引用元:Ars Technica


点字や触図といった触覚から情報を得るメディアは視覚障害者に対する情報提供手段として長い歴史を持ち、非常に重要なものではあります。

しかしその一方、特にデジタルの分野では音声と比べ活用の幅が限定的であることは否めません。これには点字の識字率の低下もありますが、機材や制作に必要なコストもその一因となっているようにも思えます。、その象徴ともいえるのが、点字ディスプレイの価格でしょう。

近年ではセル(点字1文字の単位)数を減らし価格を下げた製品も販売されてはいますが、実用的なセル数を持つ点字ディスプレイはそこらのハイエンドPCを軽く超えるお値段。自治体による補助も重複障害者限定であったり点字のスキルが求められるなど非常にハードルの高いものとなっているのです。


点字ディスプレイを構築するためには、幅5ミリ、高さ8.5ミリ程度という僅かな面積のセルに6つのピンを上げ下げする仕組みを設計し、それをセル数分だけ並べなければなりません。

現在流通している点字ディスプレイでは圧電素子や磁気によりピンを隆起する方式が採用されていますが、いずれにせよ精密かつ複雑な部品を大量に用いなければならず、どうしてもコストが跳ね上がるわけです。

触覚を通じた情報伝達手段をより多くの視覚障害者へ提供するためには、大量のピンを制御できる低コストな技術が求められているのです。本ブログでも1つのアクチュエーターで40セルを更新するCanute 360や、電圧により記録した形状を再現する素材液晶エラストマーといった新技術の話題を取り上げてきましたが、ここでまた新しい点字ディスプレイに関する研究が発表されました。


Valveless microliter combustion for densely packed arrays of powerful soft actuators」と題された研究では、機械的な機構を一切用いず、「ガスの燃焼」でピンを持ち上げるという、斬新かつ非常にワイルドな方法が提唱されています。

この研究では、ピンを隆起させるためにメタンと酸素の混合ガスを燃焼させ膨張する柔軟なポリマー素材のバブルとそれに燃料を供給するパイプ、そして着火に用いる2本のワイヤーと言う非常にシンプルな構造が考案されました。

ワイヤーに電流を流すとバブルに溜められたガスが爆発し、大きく膨らみます。その圧力でピンを押し上げ、点字を表現する仕組みです。膨張したバブルはすぐに収縮してしまいますが、押し上げられたピンはマグネットの磁力によりその状態がキープされるわけです。構造がシンプルであるため、点字ディスプレイだけでなく、グラフィックスをピンで表現する触覚ディスプレイにも応用が効きそうです。

ここで気になるのは、どのようにしてピンを下げるのか? 実は現状、読み終えたら手動でピンを押し下げなければならないとのこと。ちょっとスマートな感じではありませんが、研究チームはあまり問題とは考えていないようです。あくまでもコスト重視ということでしょうか。


ただ製品化を考えると燃料となる混合ガスの安全性や燃焼時に発生するノイズ、バブルの耐久性など課題は多いようにも思えます。何せ、のべつ幕なしにガス爆発を続けるデバイスですからね。少なくとも使う時は換気が必要ですね。

それでもシンプルな構造を持つこの技術が触覚ディスプレイのコストを下げる可能性を持っていることは確かでしょう。個人向けは難しくても、大掛かりな触覚ディスプレイを学術・教育機関向けに開発するのも面白いかもしれません。

まあ実現性は低いのかもしれませんが、爆発を活用するという大胆なアイデアは面白いですし、なにより触覚ディスプレイというニッチなジャンルに対し、新しい研究が行われているという事実に、心強さを感じたりするのでした。


参考:Braille display demo refreshes with miniature fireballs | Ars Technica


     

2021年7月22日木曜日

「夢見る指先」:フィリップ・クロデ氏講演会@世田谷美術館(2019年のお話)。

ぼんやりタイムラインを眺めていたら、触察本(触れて楽しむ絵本や書籍)を扱った講演会に関する横須賀美術館のアーカイブページが流れてきました。

そういえば私も2019年の夏、この講演を聞きに行ったことを思い出したのです。

フランスを拠点に触れる絵本などを制作している絵本工房「Les Doigts Qui Rêvent(夢見る指先)」。その創設者であるフィリップ・クロデ氏を招き、世田谷美術館で開催された講演会です。とても暑いひだったことを覚えています。


さて、講演では触察本の歴史に始まり、工房の制作活動に至るまで様々な話題を聞くことができました。印象的だったのは、目の見えない子供が触図からどのように情報を受け取っているのかというお話。視覚と触覚との認知メカニズムの違いが具体的な例を挙げながら解説され、普段無意識だった感覚が言語化される面白さがありました。

特に指先から得られる情報は「テクスチャ、形、大きさ、位置、方向、、関係性」という6つの要素から構成されるというお話は、触図を製作する側のみならず私のような視覚障害者としても意識しておくと触図に対する感覚も変わってくるような気がします。


そしてもう一つ、この講演会で強く印象に残っているのが、夢見る指先工房が製作した触察本の数々。講演が始まる前の短い時間でしたが、さまざまな工夫が凝らされた絵本に触れることができました。その中でも個人的にインパクトがあったのがこれ。


Le Petit Chaperon Rouge(赤頭巾ちゃん)

画像引用元:Les Doigts Qui Rêvent


「赤頭巾ちゃん」の触察本です。

この本の登場人物は、赤頭巾ちゃんはフワフワな赤い円、狼はざらっとした黒い円、といったように、具体的な姿としては描かれていません。

物語の全ての要素が抽象的な記号として解釈され、テクスチャが与えられ、ページに配置され、ストーリーが紡がれているのです。そしてさらにこの本には一切のテキスト(点字)もありません(凡例を除く)。驚くほどミニマルなデザインなのです。

でも不思議、単純な図形に触れているだけなのに赤頭巾ちゃんはキュートだし、狼は憎たらしい。おそらく複雑な形をトレースする工程が省ける分、想像力が自由に膨らみ物語に没入しやすいつくりとなっているのでしょう。

この本には他にも狼のお腹がジッパー付きの袋になっている場面など、触察本ならではの楽しい仕掛けが、ふんだんに盛り込まれています。


まるで前衛アート作品のようなこの本に触れていると、触察本とは印刷本の単なる代替品ではなく、触覚体験を追求したオリジナリティに溢れる表現であることに気がつきます。

この本に触れていた時間はせいぜい数分間程度だったでしょう。しかし指先には2年経った今でも、この本の強烈な印象が残っているのです。私が触察本や触図に興味を持つ一つのきっかけともなった体験でした。


余談ですが緑に囲まれた世田谷美術館は居心地の良い空間でした。床の感触がよかった。気候が良ければ砧公園を散策するもよし、二子玉川でお買い物するもよしですね。この日は帰りタクシーが掴まらず、猛暑のなかガイドさんと用賀の駅まで歩く羽目になりましたけど……。


参考:フランス さわる絵本出版社創立者 フィリップ・クロデ氏来日講演 | バリアフリー絵本



2021年7月19日月曜日

[iPhone] 画像認識AIを用いて触覚グラフィックスに音声アノテーションを加える2つのアプリ。カメラで指先を検出し触れている部分を音声で説明。

a finger with a marker on dwelling on a braille label on a tactile graphic

画像引用元:、Tactile Graphics Helper


写真やイラストといったグラフィカルな情報を視覚障害者へ伝達する手段として、これらの情報を触覚で感じられる凹凸で表現した「触図」が活用されてきました。しかし単純な凹凸に触れるだけでは確実かつ素早く情報を読み取るのは難しく、補足情報の必要性が訴えられてきました。

これまでも触図の中に点字を用いた説明がつけられることはありましたが、点字が読めない大多数の視覚障害者にとっては役に立ちません。


そこで触図の理解を向上させるアプローチの一つとして、触れた部分に応じ音声による説明を加える「音声アノテーション」と呼ばれる手法が研究されてきました。例えば動物の触図に触れながらそのパーツに関する説明を聞いたり、触地図上の地名や地形などの情報を聴覚から得ることができれば、触覚のみの場合と比べ学習のパフォーマンスが大きく高まります。

これを実現する手段として、触れている部分を晴眼者が口頭で説明する対面方式や、センサーや電子たぐを用いて触れた部分に対応した音声を再生する仕組みなどが用いられてきました。ただこれらは人材の確保や制作コストなどの面で手軽に利用できるソリューションではありません。さらに2020年以降のパンデミックにより対面によるサポートが停止され、リモート環境で触覚教育を実現する方法が模索されています。


そこで低コストかつ視覚障害者が単独で利用できる仕組みとして考えられているのが、画像認識AIを用いる手法です。簡単にいうと、触図に乗せた指先をAIが認識しその位置に応じた音声を再生させるという仕組みです。以前エントリーした「TouchVision」もその一種といえるでしょう。

そしてこの仕組みをiPhoneで利用できるようにしたのが「Tactile Images READER」と「Tactile Graphics Helper」です。

どちらのアプリも基本的な仕組みはほぼ同じ。

三脚や撮影台などにiPhoneを固定し、説明に用いるマーカーを仕込んだ専用の触図を全体がファインダーに入るように設置します。あとは人差し指で触図をなぞっていくと、画像認識AIが指先を検出。触図のマーカーの部分に指が触れたタイミングで説明が再生されます。

専用の触図を用意する必要はありますが、電子的な仕組みを埋め込む場合と比べコストは圧倒的に低く、セットアップさえ済ませれば視覚に障害があっても単独で利用できるというメリットがあります。


Tactile Images READERを開発したのは、ルーマニアに拠点をおくThe Urban Development Association。2010年から触覚グラフィックスによる視覚障害者の教育と芸術鑑賞に関する活動を行っています。

公式Web「Tactile Images Encyclopedia」では、Tactile Images READERに対応したオリジナルの触図を制作できる編集ツールを公開しているほか、サンプルや豊富な触図ライブラリからデータをダウンロードすることもできます。

触図そのものの提供は行っていませんが、編集・ダウンロードしたデータをもとに触図を制作するための、チュートリアルページも用意されています。

同社はこれら一連の仕組みを視覚障害者向けeラーニングプラットホームとして位置付けており、Covid-19により遠隔教育を呼びなくされている視覚に障害のある子供の境域にこのシステムを活用しようと考えているようです。また現在流通している製品の数分の1程度の価格で入手できる触図プリンターの開発も進めているとのことです。


一方、Tactile Graphics Helperを開発したSmith-Kettlewell眼科学研究所は、眼に関する疾病とその予防、および視覚リハビリテーション技術などを幅広く研究している米国の非営利団体です。

Tactile Graphics Helperを利用するためにはまず指先を識別するためのマーカーを用意する必要があります。公式Webから二次元コードをダウンロードし印刷、テープなどで指先に固定して利用します。

また対応する触図は現時点で元素周期表、二種類の地図、人体骨格図の四種類。これらの触図は公式Webから注文できるほか、動作体験向けに配布されているPDFファイルを印刷して利用することもできます。

現在アプリはベータ版。将来的には指先マーカーを廃止し、ユーザーが任意の触図に説明マーカーを加えられるようなツールを提供する予定とのことです。


筆者はプリンターを所持していないため実際にこれらのアプリを試すことはできませんでしたが、iPhoneと撮影台さえあれば触図に音声アノテーションが加えられるという手軽さには大きな魅力を感じました。

視覚障害者にとって触図は重要な情報入手手段である一方、技術革新がなかなか進んでいない分野でもあります。スマートフォンを活用した新しい触図体験はコストの面から見ても視覚障害者の情報入手手段として実現性が高く期待できるものになるような気がします。


2021年7月7日水曜日

視覚に障害のある子供たちのための新しい触覚プロトコル「ASFG」。2本指のジェスチャーで立体モデル上を探索。

illustrations engageant des simulations format portrait

画像引用元:Mirage News


視覚障害者が写真やイラストなどのグラフィカルな情報を得る手段として用いられるのが「触図」です。触図は一般的に、元となる素材の形(輪郭)をそのままエンボス加工して制作され、読者はその凹凸を指先でなぞりながら頭の中に形をイメージすることでその内容を理解します。もしくは理解を試みます。

私もこれまで様々な触図を体験してきましたが、事前に情報が与えられていない状態でその内容を理解するのは非常に難しいというのが率直な印象です。中と失明者の私でもそうなのですから、視覚的な経験の無い、もしくは浅い子供たちにとっては触図から正確な情報を得るにはかなりの訓練と経験が必要でしょう。


触覚は視覚と比較し、テクスチャや高低差を認識することは得意でも、空間的な情報を認知することは難しいと言われています。

これまでもこの感覚のギャップを埋め触覚によるエクスペリエンスを向上させるため、情報提供を工夫したり、異なる触感の素材を組み合わせる、触れる場所に応じてサウンドを再生するなど、様々なインタラクションに関する研究が行われてきました。


スイス、ジュネーブ大学(UNIGE)とフランス、リヨン第2大学の研究チームは、視覚に障害のある子供が視覚的なイメージをより早く、正確に理解するための新しい方法を考案しました。

ASFG(Action Simulations by Finger Gestures)と名づけられたこの手法は立体的に構築された触覚モデルの上を、人差し指と中指を「脚」に見立て、「歩く」「走る」「ジャンプする」といったアクションで探索します。

視覚障害者にとって脚による運動は外部の環境と対話するための重要な手段です。このアクションを2本の指でシミュレーションすることで立体モデルの触覚とこれまでの運動によって得られた空間認識の経験を結びつけ、理解度を高めようというのがASFGの基本的な考え方です。


実験では階段や滑り台など7つの立体モデルと、同じモチーフの触図を用意し、視覚に障害のある子供と晴眼の子供に対し、従来の触図とASFGを用いた立体モデルの探索との間で理解度を比較しました。

その結果触図を指先で触れるよりも、立体モデルをASFGを用いて探索する方が理解度が高く認識に必要な時間も短いことがわかりました。またASFGによる探索では視覚に障害のある子供と晴眼の子供の間には大きな差は見られませんでした。

研究チームはこの実験結果を、視覚の有無にかかわらず運動によって構築された空間認知能力が触覚を補った可能性を示していると考えています。そしてASFGという手法は視覚に障害のある子供たちのイメージ識別能力を改善する新しい触覚教材のデザインの可能性を示唆していると述べています。


触覚モデルの上を2本指でヨチヨチ探索するという動作は子供たちにとっては手遊びのように楽しいものですし、目の見える、見えないにかかわらず同じ経験を共有できるという意味ではインクルーシブな教材を開発する上でのヒントとなるでしょう。

また従来のエンボス加工を用いる触図についても、ASFGに最適化したストーリーせいのある工夫を施すことにより理解度が向上する可能性も考えられます。

盲目の大人としても、例えば触地図などをこの方法で探索すると理解度が向上するかもしれません。今度駅にいったら試してみようと思います。まあ白杖を抱えたおじさんが駅でヨチヨチやってる姿が周りにどう見られるかは、未知数ですけどね。


参考:Exploring 3D miniatures with action simulations by finger gestures: Study of a new embodied design for blind and sighted children



2021年6月10日木曜日

根の前の風景を指先で「見る」感覚置換デバイス「ASenSub」。

ASenSub

画像引用元:ScienceDirect


イスラエル、ワイツマン科学研究所の神経生物学部門に所属するAmos Arieli博士とEhud Ahissar教授は、インターンであるYael Zilbershtain-Kra博士とともに、視覚情報を触覚に変換し、装着者へ伝達するウェアラブル感覚置換デバイス「ASenSub」のプロトタイプを開発しました。


このデバイスはユーザーの手に取り付けられた小型カメラが捉えた映像を処理し、その情報をもとに、同じ手の三盆の指先に仕込まれた96本のピンを上げ下げします。ピンの高さは映像の明るさに対応して変化し、暗いほど高くなります。

例えばデバイスを装着し、白い紙に描かれた黒い三角形の上で指をなぞるように動かすと、ピンの隆起によりその形を指先に感じ取ることができます。研究者によると、このデバイスで感じられる感覚は、実際にエンボス加工された触図の上で指を動かした時の感覚に近いものであると語っています。

イメージとしては目の前にある風景が瞬間的に触図に変換され、そのまま指を動かしてその形を確かめられるという感じでしょうか。周囲の世界を指先で触れて探索するという感覚は、想像するだけで面白いですね。


ASenSubの目指すところは、Active-Sensingと呼ばれる人間の自然な知覚システムの再現です。例えば人が物を見る時は視線を絶えず細かく動かしみたい対象物を特定しますし、指でものに触れる場合は指先を動かしながら触れているものを確認します。つまり人間の知覚において能動的な運動と得られる感覚の結びつきが重要というわけです。

研究者はASenSubを開発するにあたり、単純に視覚情報を触覚に変換するだけではなく、Active-Sensingの考え方に基づき、「視線を動かしてものを見る」という動きを「指を動かしてものに触れる」という動きに置き換えるアルゴリズムを開発しました。指先や視線を動かし、見たいものを探すというプロセスを仮想的に再現することで、触覚に変換された視覚情報をより直感的に得られるようになるわけです。情報を変換するだけではなく、そこへ情報をえようとする人間の「動き」を加えた点がこの研究の興味深いところです。


なおこのデバイスはあくまでも人間の知覚に関する研究を目的として開発されたものであり、実用化には小型化など越えるべき技術的課題が多いようです。しかしこのActive-Sensingという考え方は他の支援技術、特に感覚置換デバイスを設計する上で、結構重要なヒントを与えてくれるような気がしました。


参考:Active sensory substitution allows fast learning via effective motor-sensory strategies - ScienceDirect

参考:Sight through Touch: Secret Is in Hand Movements | Mirage News



2021年6月7日月曜日

ドイツ発。視覚障害者に「色」の概念を伝える[触覚カラーコンパス」。

Farbkompass von TAKTILES

画像引用元:taktiles.de


「触図」はイラストやグラフなどを立体的に印刷し、それに触れることで視覚的なイメージ情報を視覚障害者へ伝えるものです。しかしこれらは基本的にイメージの「形」は表現できても「色」を伝えることはできません。


ドイツに拠点を置くTaktilesdesignが考案した「Taktile Farbkompass(触覚カラーコンパス)」は、様々な質感の素材を組み合わせることで、色を触感として表現したテンプレートです。

手のひらサイズの丸いディスクの両面には様々なテクスチャによって合計11種類の色が表現されており、点字でその色の説明などを記載したレリーフが添えられています。

表現されている色とテクスチャは以下の通り。


  1. イエロー 堅く織られたリネン生地から太陽の光を連想させる小さな突起が感じ取れます。
  2. オレンジ オレンジの皮の手触りに基づいた、滑らかな肌触りの触感。
  3. レッド シリコンの粒々は、熟したラズベリーに似た手触り。触れた時の抵抗感はベルベットに似ています。
  4. バイオレット レッドを反転させた、窪みが並んでいる表面。
  5. ブルー 空と海をイメージした、金属的で硬くて滑らかな触感。湖上の波を想起させる水平の線が引かれています。
  6. グリーン 風邪に揺れる牧草地の草をイメージした、柔らかい垂直方向の波線。
  7. ブラック 触れると強い抵抗感のある小さな尖った三角形で黒の重厚感と力強さを表現。
  8. ゴールド 価値と永続性を表す、ガラスのような手触りの小さな延べ棒が並んでいます。
  9. ブラウン 革をベースにした柔らかい触感で、大地や生命を表現しています。
  10. シルバー 斜めに粗いヘアライン加工された金属素材を用いて、ニュートラルでクールなイメージを表現しています。
  11. ホワイト 滑らかで硬い磁器のような素材に螺旋状の模様が多数あしらわれています。


テクスチャは単なる幾何学的なものではなく、それぞれの色から想起される自然や物質からイメージされる触感を持っている、つまり触感そのものに意味を持たせてあるところが特徴的です。

Taktilesdesignによると、これらのテクスチャは金属や木材などあらゆる素材に印刷することができ、公共スペースに設置する地図などに適用することで視覚障害者への情報提供に活用できるとのこと。特に教育においてはこのテクスチャを埋め込んだ絵画などの触図を制作することで、効率的に色の概念を理解できるようになるかもしれません。もちろん美術館などの触図に用いれば、視覚障害者の芸術鑑賞をもっと豊かなものにしてくれるでしょう。


色の情報を触覚として伝える方法としては、他にも以前記事に書いた「Scripor Alphabet」があります。これは10種類の色を点字に似た触覚コードに置き換え、これを組み合わせることで様々な色を表現するというものです。Scripor Alphabetが表現する色は「赤、黄、青、オレンジ、緑、紫、茶色、グレー、白、黒」の10色ですが、触覚カラーコンパスと比べてみると、色のチョイスに共通点があるあたり興味深いところです。

触図に関しては共通化も視野に入れた研究が進められつつありますが、触覚による色の表現についても、将来的にはある程度の国際的な規格が考えられても良いのかもしれません。


参考:Neue Verbindung zwischen Tastsinn und Farbwahrnehmung, Taktilesdesign GmbH, Pressemitteilung - lifePR



2021年4月14日水曜日

米国。触図の研究、制作、普及、教育の促進を目指す二つのイニシアチブを発表。


A visitor explores the surface of a tactile image of 'The Mona Lisa'.(画像引用元)。


視覚的な情報を立体的に印刷する「触図」は絵画やグラフなどの言葉では説明が難しいビジュアルイメージを、視覚障害者へ伝達する手段として活用されています。

その有用性については広く認められている一方、これまで触図に関する大規模な研究や積極的な普及活動はあまり行われてこなかったと言われています。

そんな状況の中、米国で立て続けに触図に関する二つの取り組みが発表されました。


NFBなど3者、触図の制作と普及を推進するパートナーシップを締結。


2021年1月25日、National Federation of the Blind(NFB)は、触図印刷サービスTactile Images、およびストックフォトサービスGetty Imagesとのパートナーシップを通じ、触図の普及と啓発を促進するイニシアチブを発表しました。

このコラボレーションではGetty Imagesが管理する4,500万枚以上の画像からNFBがキュレーションしたイメージをもとにTactile Imagesが触図を制作。美術館、博物館、科学センター、図書館、学校、政府機関などへ提供することで視覚障害者の文化・教育におけるアクセシビリティの向上とインクルージョンの強化を目指します。

加えて三者は共同で全米を巡回する触図の展覧会の開催を通じ、視覚障害者に対する情報手段としての触図の啓発活動を行うとのことです。


Tactile Imagesの触図製品は視覚的な素材を立体的に加工することで、タッチによる感覚刺激を通じ視覚障害者へ情報を提供します。

同社の技術では触図に埋め込まれたセンサーによりタッチした部分に応じた音声ナレーションを用いたインタラクティブな仕掛けや香りを発生させるパーツを組み込むことで触覚、聴覚、嗅覚を組み合わせた多感覚なエクスペリエンスを実現。この複合的な感覚体験は触覚を強化し、視覚障害者に対しメンタルイメージの構築を効果的にサポートします。


このイニシアチブの一環として、50,000人以上の視覚障害者を対象に、触図で真っ先に体験したい写真やアートのモチーフに関する調査が実施されました。

その結果、人物写真では「ルイ・ブライユ」「マーティン・ルーサー・キング・ジュニア」「アルバート・アインシュタイン」。風景では「ホワイトハウス」「グランドキャニオン」「自由の女神」、そして報道写真として「月面着陸」「公民権運動」「9.11同時多発テロ」といったイメージが多く挙げられたとのことです。

この調査からも分かるように、見えている人々の間では当たり前のように広く共有されているイメージでも、視覚障害者にとってはいまだに未知の領域である事実がわかります。晴眼者とコミュニケーションする上でも視覚的な情報が共有されているかどうかでその質は大きく異なってくるでしょう。触図の普及が、このような情報格差を狭める一つの鍵となるかもしれません。


なおTactile ImagesのWebサイトではGetty Imagesから触図に変換したいイメージを検索したり、現在開催されている巡回展などの情報が掲載されています。


参考:Tactile Images Partners With Getty Images and the National Federation of the Blind to Deliver More Than 45 Million Images to the World's Blind and Disabled Population (prnewswire.com)


触図を研究、促進するコンソーシアムを設立。


2021年3月4日、National Braille PressとLightHouse of San Francisco、およびアラバマ大学ハンツビル校は、共同でアクセシブルな触図に関する研究を行う組織であるthe Accessible Graphics Consortium(AGC)の設立を発表しました。


AGCは研究、製造方法の改善、カリキュラムの開発を通じ触図の普及を目指すことを目的としており、まずはSTEAM(Science、Technology、Engineering、Arts、Math)の各分野に対応した教員養成プログラムの作成に注力し、ベストプラクティスの収集、分析、推進、コミュニティへの発信を行います。


また、これらの取り組みをサポートするための諮問委員会を設置。ステークホルダーには、American Printing House(APH)、National Federation of the Blind(NFB)、American Foundation for the Blind(AFB)、teachers of the visually impaired (TVIs)といった視覚障害関連組織、さらに学術研究者、カリキュラム開発者、点字や触図の大手ベンダーなどが含まれます。


触図はこれまでも世界各地の支援組織や個人によって制作されてきましたが、総合的な形としての研究はほとんど行われてこなかったとのこと。点字が視覚障害者にとって重要なカリキュラムとなっている一方、触図は統一されたノウハウが共有されておらず過小評価されてきたと言います。確かに視覚リハビリテーションの中で「触図の読み方」みたいなトレーニングはあまり見かけたことはありませんしね。


このコンソーシアムは視覚障害者のための触図の制作、教育、リーディングスキルの学習に統一的なアプローチをもたらすことで、視覚障害コミュニティの触図に対するアクセシビリティの向上を目指すとのことです。もしかしたら触知案内図に関するISO 19028のような統一規格の提案なども考えられているのかもしれません。これはあくまでも想像。


参考:National Braille Press, LightHouse of San Francisco, University of Alabama Huntsville Launch the Accessible Graphics Consortium (prweb.com)



2020年6月8日月曜日

絵画の筆跡を3Dスキャンする技術は「触れる美術観賞」を実現する。


絵画は、画家特有の筆跡であったり、重ね塗りされた絵具の厚み、カンバスの微妙なテクスチャなどの「質感」を持っている。これらの情報は画像データや印刷物では必ずしも正確に伝えることはできない。
ネットや画集で手軽に世界中の名画が見られるにもかかわらず、美術館の特別展に長蛇の列ができたり、世界中の美術館をめぐる人々が多いのは、そのような理由もあるのだろう。
だがいざ「本物」を見ようとしても、その絵画が貴重であればあるほど作品と鑑賞者との距離は遠くなり、その作品の持つ質感を感じとることが難しくなる。ましてや視覚に障害を持つ人々にとってはその質感を体験する手段は存在しない。
新しく開発された「絵画の3Dスキャン」技術は、リアルとバーチャルでまったく新しい絵画鑑賞の世界を切り開くかもしれない。

米国ペンシルベニア州立大学アビントン校とニュージャージー工科大学の研究チームは、optical coherence tomography (OCT)と呼ばれるレーザー技術を用いて、絵画の高精細な3Dスキャンを実現する技術を開発した。
この技術により、絵画表面の凹凸、つまり筆跡や絵具の盛りといった立体情報を高精度な3Dデータトして保存することができるようになるという。

OCTはマイクロメートルの分解能で画像を撮影できるレーザーベースのイメージング技術。一般的には生物医学の用途で用いられることが多いが、表面の凹凸と下層構造を同時にスキャンすることができることから美術分野への応用が考案された。
だがOCTはスキャンできる面積が非常に狭い。そのため研究チームは移動しながら連続スキャンするロボット技術と、スキャンされた画像をパッチワークのようにつなぎ合わせて補正するソフトウェアを独自開発。これらを組み合わせることで広い面積の絵画の3Dスキャンが実現した。

この技術を用いれば、例えば火災や自然災害、経年劣化などで作品が破損してしまった場合にこのデータをもとに忠実な修復が可能になる。この研究にあたっては、美術史や美術品の保存に関する専門家とも密接に連携したという。

またスキャンしたデータから立体レプリカを制作することでこれまで近寄って鑑賞できなかった数々の名画に触れて楽しむことができるようになる。もちろん絵画の一部分だけにクローズアップしたモデルも簡単に作成可能だ。
そしてこの技術は特に視覚に障害のある人々に大きな恩恵を与えるだろう。これまでも作品に描かれたモチーフの輪郭を触図として制作し、全体像を伝える試みは行われていたが、絵画の質感を感じとることは難しかった。この技術を応用すれば、触感から得られる情報はさらに多様になるだろう。

研究チームのリーダーであるYi Yang氏は、コンピューター画面でさまざまな角度から見ることができる絵画の3Dモデルは、オンラインの美術教育においても大きな効果を発揮するだろうと述べている。
近年、Covid-19感染拡大により閉鎖を余儀なくされている美術館がインターネット上にバーチャルミュージアムをオープンする動きが見られるが、絵画を単なる画像としてだけでなく、立体的に閲覧することができれば、より作品への理解度は深まるだろう。ひいては障害などで普段から美術館を訪問できない人々にも、絵画の豊かな質感を感じる機会になるはずだ。

Covid-19流行の影響で「触れる」行為が避けられている昨今ではあるが、この騒動を乗り越えた未来には「触れる美術鑑賞」が当たり前になる時代がやってくるのかもしれない。


2020年3月8日日曜日

ルーマニア発。指先で「色」を感じる触覚文字「Scripor Alphabet」。

Scripor Alphabet(画像引用元

ルーマニア教育省は2020年2月、視覚に障害を持つ人々のための「色を表記する触覚アルファベット」を世界に先駆けて導入することを発表した。視覚障害者が触覚を用いて直感的に「色」が持つニュアンスを受け取れることにより、教育や社会生活における様々な利便性の向上が期待できるという。
この触覚文字は、考案したルーマニアの画家であるTudor Scripor氏にちなみ「Scripor Alphabet」と名付けられた。

Scripor Alphabetは、立体的なアイコンとドットを組み合わせ「赤、黄、青、オレンジ、緑、紫、茶色、グレー、白、黒」という10種類の色を表現する触覚文字である。
中間色やグラデーション、色の濃淡は複数のScripor Alphabet文字を並べて表現する。例えば「赤」と「白」を並べることで「ピンク」を表現したり、「緑」と「黒」を並べれば「ダークグリーン」を示すことができる。さらに同じ色を繰り返すことでその色のトーンも表現できるという。
つまり基本的な10種類の色のイメージを学習すれば、あとは組み合わせで様々な色を感じ取れる、という仕組みのようだ。

この触覚文字は色の伝達に特化して設計されているため言語に依存せず、世界中どこでも利用することができる。まずはルーマニア国内の公共施設や交通機関に設置する触地図にこの文字を採用するとのことだが、他にも例えば美術作品の触図や衣料製品のタグなどにScripor Alphabetを付ければ、通常の点字よりも的確に色の情報を伝えられる可能性がある。また世界に普及すれば視覚障害者間の共通言語としても機能するかもしれない。

色をより深く理解することは、視覚障害者が晴眼者中心の社会にコミットする上で欠かせないスキルだ。ファッションのコーディネートしかり贈り物のパッケージしかり、SNSにアップする写真やブログのデザインしかり。見える人々を相手にするには色に対するある程度の配慮が必要だろう。それだけ晴眼者にとって色が持つインパクトは大きい。
だが色を目で見ることができない視覚障害者にとって、「色」は非常に厄介な問題でもある。極めて視覚的といえる情報である色を、点字や音声、つまり言語に置き換えることにはそもそも限界があるためだ。それはスマートフォンなどの電子機器を用いて色を判別する場合でも同様で、むしろ識別される色数が細かいほど色をイメージすることは難しくなる。
現実には同じ「赤」でも「少し黄色掛かった赤」や「黒ずんだ赤」など無限の色が存在するわけで、それを言葉だけで表現し伝えるにはどうしても無理があるだろう。
Scripor Alphabetがどこまで細かい色のニュアンスを表現できるかは分からないが、目が見えない者に色情報を伝える新たな手段として、非言語的なアプローチが試みられていることは面白い。

Tudor Scripor氏と彼のチームは7年間にも及ぶScripor Alphabetの開発の末、ジュネーブ発明・イノベーション展の教育・文化・芸術部門で金賞、およびドイツ発明者協会の特別賞を受賞している。

参考:


2019年2月13日水曜日

視覚障害者のスマホ学習に欠かせない「触図」の意外なアイデア。



視覚障害者のスマホ利用に欠かせないのが音声読み上げ機能。iOSには「Voiceover」、Androidなら「Talkback」と呼ばれる機能が標準で用意されている。
音声読み上げ機能を使ったスマホ操作の基本は、画面内の項目を左右スワイプで順番に読み上げ、ダブルタップで決定、ということになっている。だが、そんなまだるっこしい操作をやっている視覚障害者はたぶん少数派ではないだろうか。
大抵は画面内にあるボタンなどの項目の位置を覚えておき、その場所を直接タップしながら使っているはずだ。音声だけでスマホを使うと言っても、頭の中にはある程度スマホの画面をイメージしなければスムーズにスマホを操作することはできない。
スマホを使う視覚障害者は、画面を見ていないように見えて、実は脳内の画面を「見て」いる。

そのため、新しいアプリを使い始めるときなどは操作に時間がかかって仕方がない。ほぼ全盲の筆者は画面を覚えていないアプリに出会ったら、まず画面全体をまんべんなくナデナデしてボタンなど各要素の位置をチェックし、頭の中に画面のイメージを構築するようにしている。
ただそれは、ある程度スマホのインターフェイスのセオリーを理解しているからできることではないかとも思ったりする。

見えない・見えにくい人が一からスマホを覚えるには、この「画面のイメージ」をいかに持てるようになるかがポイントだろう。これが、物理ボタンで機能を確認できる機器と比べたときの大きなハードルではないかと感じている。
そのハードルを下げるべく活用されているのが触図だ。
視覚障害者向けのスマホ教室では、スマホのホーム画面やよく使うアプリの画面構成を触れて理解するための「触図」がよく用いられる。
触図は3Dプリンターで印刷した立派なものからボール紙にシールを貼った簡易的なものまで様々な作り方があるが、いずれにせよレクチャーする画面の分だけ制作するのは結構手間もコストもかかるし、フレキシブルさに欠ける。

Vision Australiaのアクセシビリティ・スペシャリスト、Tony Williams氏のアイデアは、まさに目から鱗というかコロンブスの卵的というか。彼が用いたのは「レゴブロック」。
彼は正方形のブロックを使って、iPadのホーム画面に並んだアイコンやドックを再現。iPadを初めてVoiceoverで使うユーザーが配置されたブロックの凹凸に触れることで、画面をイメージしやすくするという。

確かにレゴブロックなら説明する画面に合わせて臨機応変に触図を組み替えられる。あらかじめ作って置いた触図だと実際のiPhoneの画面と細かい部分で違いが出ることも多くそれが混乱の元にもなりがちだ。ブロックなら画面に合わせてそのばでカスタマイズできるので説得力も出やすそうだ。ブロックに点字シールなどを貼付するなどの工夫も良いかもしれない。
レゴはブロックの大きさや高さのバリエーションも豊富だし、熟練すれば画面の推移をリアルタイムに近いタイミングで伝えつつレクチャーできるようになるかも。
そして何よりブロックをいじるのは楽しい。油断してるとうっかりブロックで遊び始めてしまいそうではあるが、それもまたよし。
触図をお土産にできないのが難点かな?

それにしてもレゴが秘めているポテンシャルは侮れない。触覚コミュニケーションツールとして視覚障害者は基本セットくらいは手元に置いといてもいいかもね。
何事も工夫次第ですなあ、と思ったお話でした。

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