ぼんやりタイムラインを眺めていたら、触察本(触れて楽しむ絵本や書籍)を扱った講演会に関する横須賀美術館のアーカイブページが流れてきました。
そういえば私も2019年の夏、この講演を聞きに行ったことを思い出したのです。
フランスを拠点に触れる絵本などを制作している絵本工房「Les Doigts Qui Rêvent(夢見る指先)」。その創設者であるフィリップ・クロデ氏を招き、世田谷美術館で開催された講演会です。とても暑いひだったことを覚えています。
さて、講演では触察本の歴史に始まり、工房の制作活動に至るまで様々な話題を聞くことができました。印象的だったのは、目の見えない子供が触図からどのように情報を受け取っているのかというお話。視覚と触覚との認知メカニズムの違いが具体的な例を挙げながら解説され、普段無意識だった感覚が言語化される面白さがありました。
特に指先から得られる情報は「テクスチャ、形、大きさ、位置、方向、、関係性」という6つの要素から構成されるというお話は、触図を製作する側のみならず私のような視覚障害者としても意識しておくと触図に対する感覚も変わってくるような気がします。
そしてもう一つ、この講演会で強く印象に残っているのが、夢見る指先工房が製作した触察本の数々。講演が始まる前の短い時間でしたが、さまざまな工夫が凝らされた絵本に触れることができました。その中でも個人的にインパクトがあったのがこれ。
画像引用元:Les Doigts Qui Rêvent
「赤頭巾ちゃん」の触察本です。
この本の登場人物は、赤頭巾ちゃんはフワフワな赤い円、狼はざらっとした黒い円、といったように、具体的な姿としては描かれていません。
物語の全ての要素が抽象的な記号として解釈され、テクスチャが与えられ、ページに配置され、ストーリーが紡がれているのです。そしてさらにこの本には一切のテキスト(点字)もありません(凡例を除く)。驚くほどミニマルなデザインなのです。
でも不思議、単純な図形に触れているだけなのに赤頭巾ちゃんはキュートだし、狼は憎たらしい。おそらく複雑な形をトレースする工程が省ける分、想像力が自由に膨らみ物語に没入しやすいつくりとなっているのでしょう。
この本には他にも狼のお腹がジッパー付きの袋になっている場面など、触察本ならではの楽しい仕掛けが、ふんだんに盛り込まれています。
まるで前衛アート作品のようなこの本に触れていると、触察本とは印刷本の単なる代替品ではなく、触覚体験を追求したオリジナリティに溢れる表現であることに気がつきます。
この本に触れていた時間はせいぜい数分間程度だったでしょう。しかし指先には2年経った今でも、この本の強烈な印象が残っているのです。私が触察本や触図に興味を持つ一つのきっかけともなった体験でした。
余談ですが緑に囲まれた世田谷美術館は居心地の良い空間でした。床の感触がよかった。気候が良ければ砧公園を散策するもよし、二子玉川でお買い物するもよしですね。この日は帰りタクシーが掴まらず、猛暑のなかガイドさんと用賀の駅まで歩く羽目になりましたけど……。
参考:フランス さわる絵本出版社創立者 フィリップ・クロデ氏来日講演 | バリアフリー絵本
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