画像引用元:medicalxpress.com
米国の医学研究所Mass General Brigham傘下の医療機関、Mass Eye and Earに所属する視覚リハビリテーションの研究チームは、AI駆動カメラと振動リストバンドを組み合わせた視覚障害者向けの障害物検知ウェアラブルデバイスを開発しました。
白杖もしくは盲導犬ユーザーを対象とした実験では、このデバイスがアクティブであった場合、そうでない時と比べ障害物と衝突するリスクが37%軽減されたという結果が得られました。この研究結果は学術誌JAMA Ophthalmologyに掲載されています。
周囲の障害物を検知して視覚障害者の安全な歩行を支援するデバイスは、市販されている製品も含め様々なものがありますが、その有効性について客観的に証明されている製品はほとんど存在していないとMass Eye and Earの研究チームは語ります。
そこで今回の研究では実際の社会生活の中でデバイスの潜在的な効果を調査するためランダム化比較試験(RCT)と呼ばれる実験手法が採用されました。
実験に用いられたデバイスのプロトタイプは、首から下げる広角カメラと両手首に装着するBluetooth振動リストバンド、そしてこれらを接続するメインユニットを備えたバックパックで構成されています。
メインユニットは画像認識AIを用い、カメラの視野に入ってくる物体とその周囲の物体の相対的な動きから衝突の危険性を分析します。左右どちらかに衝突の危険を検知すると対応するリストバンドを、また障害物が正面にある場合は両方のリストバンドを振動させてユーザーへ警告します。
このデバイスでは物体の相対的な動きを分析し、衝突の危険性のある障害物の接近だけを警告します。つまりこれは、どんなに近くにある物体であっても、衝突の危険性がなければそれを無視し不必要な警告を行わないということを意味します。
研究チームは視覚障害者31名に対し、このデバイスを白杖や盲導犬と併せて使用してもらう実証実験を一ヶ月間にわたって行いました。、
実験に使用されたデバイスは通常通りに障害物を警告するアクティブモードと、警告せずにロギングのみを行うサイレントモードがランダムに切り替わるようになっています。これは医薬品試験におけるプラセボ条件と同様のルールで、ユーザーも研究チームもモードがいつ切り替わるかはわかりません。
実験終了後、研究チームは記録されたログをもとにそれぞれのモードで発生した衝突事故を比較分析し、デバイスの有効性を評価しました。その結果、アクティブモードにおける事故発生率は、サイレントモードと比べ37%低いことがわかりました。
研究チームは今回の実験で得られたデータをもとにデバイスを改善し、将来的にはFDAの認証を受けて製品化を目指すとのことです。
さてこの「37%」という数字、落ち着いてみてみると、デバイスを装着していたとしても3回に2回近くは危険を回避できていないということになります。逆にいえば3回に1回は激突を免れていたわけで、この結果をどう感じるかはこの手のデバイスの経験の有無などによって変わってきそうです。
そもそもこのような支援デバイスはユーザーの障害の程度や習熟度、歩行スキルなどにより効果にはばらつきが生じやすく、この研究結果は被検者数から考えても必ずしも全ての対象ユーザーに当てはまるものではないでしょう。客観的な評価をどのように行なっていくのか、難しい問題です。
ただ個人的に、この結果は少なくとも支援デバイスの限界を表しているようには感じました。このようなデバイスの話を聞くと、どうしてもこれさえあれば健常者と同じように安全に歩けるようになるという希望的妄想を抱きがちです。しかしこの研究結果を見ると、現実は想像していたほど完璧なものではありません。
デバイスはあくまでもユーザーを補助するためのものであり、基本的な白杖歩行などのスキル習得の重要性は今後も変わらないでしょう。故障することもありますしね。
この研究はデバイスそのものより、歩行支援デバイスの現状の有効性を数字として提示したという点で興味深いものと言えるでしょう。
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