2020年4月25日土曜日

Covid-19に直面した世界の音を収集する「#StayHomeSounds」。


猛威を奮うCovid-19は世界中の風景を一変させた。
あらゆる商業施設や観光地は閉鎖され、かつては賑やかだった繁華街やターミナル駅からは人影が消えた。その様子は驚くべき光景としてメディアなどで報道されており、これらの記録は後世に渡り世界規模のパンデミックがもたらす影響を伝える貴重な資料となるだろう。
そしてCovid-19の影響を伝えられるのは写真や映像だけではない。「音」もまた、この人類が直面している現実を記録するための重要な要素のひとつとなるはずだ。

全盲である筆者も、2月頃から音の変化に気がついていた。街中から外国人観光客のハイテンションな声が聞こえなくなり、あれだけ混雑していた駅では明らかに人混みの気配が消えていった。
現在(4月中旬)はもうほとんど外出することはなくなったが、自宅周囲を通りかかる人々や交通量もすっかり減り、あたり一面ひっそりとしている。その代わりに聞こえてくるのは数々の野鳥のさえずりだ。全盲者にとって「音」は世界そのもの。Covid-19は馴染んでいた風景を確実に変えてしまったようだ。
果たしていま、世界はどのような音で満たされているのだろうか?

英国オクスフォードに拠点を置く「Cities and Memory」は、世界各地のさまざまな場所で録音されたサウンドを幅広く収集し、無料公開しているサイトだ。有名な観光スポットやイベントの様子、さらに鳥や滝といった自然の音に至るまで、世界にあるあらゆる音源をWebブラウザやPodcastで楽しむことができる。さながら「音で世界旅行」を体験できるといった感覚だろうか。各地で実際に録音されたリアルな音源だけでなく、それを素材としたサウンドアートが楽しめるのもこのサイトの特徴のひとつだ。音源は世界地図のほかカテゴリからアクセスすることもできる。

そしてこのサイトでは現在「#StayHomeSounds」と銘打たれた特設ページで、Covid-19によりロックダウンされた世界各地からの音源を収集するプロジェクトが進行している。このページにある世界地図上のマークをクリックすれば、各地の様子を伝えるコメントとともに掲載されたサウンドを聴くことができる。

なおスクリーンリーダーではこの地図へアクセスすることはできないが、このページ下部にあるレベル3の見出し「「Submit your sounds here」へジャンプし、少し読み進めていくと「Audioboom player」というグループが見つかるので、ここへフォーカスすればリスト形式でCovid-19関連のサウンドを聴くことができるはず。

また「Comparing the sounds of the global lockdown - before and after」という特集記事では、同じ場所で録音された音源をロックダウンの前後で聴き比べることができる。Covid-19が世界の「音風景」をどのように変えたのかがよくわかる。

#StayHomeSoundsで聴こえてくるのは、医療従事者へ向けられた歌声やエール、自宅に閉じ込められた人々の生活、人影が消えた都市に戻ってきた自然の音、そしてあらゆる喧騒が焼失して静まりかえった街の様子。などなど。

このサウンドライブラリからは、写真や映像以上にこのウィルスが世界に及ぼした変化をリアルというか生々しく感じ取ることができる。それはそこに暮らす人々の感情や息遣いが込められているからだ。
変わり果てた街の中で投稿者は、どんな気持ちでボイスレコーダーの録音ボタンを押したのだろう。音という制限されたメディアだからこそ、伝わってくる感情があるようにも思える。
この騒動が終息した後、果たして以前のような喧騒は戻ってくるのだろうか? それとも以前とも現在とも異なった、新しい音の世界が生まれるのだろうか? いずれにせよこの音声アーカイブはCovid-19流行という大きな出来事で変わりゆく世界とそこで暮らす人々の感情を記録する貴重な資料となるだろう。数年後いや10年後、どのような気持ちでこのアーカイブを聴くことになるのだろうか。

なおこのプロジェクトではサウンドアーカイブに追加するCovid-19関連の音を世界から募集している。外出するのが難しい昨今ではあるが、街頭だけでなくStay Home中の様子でも貴重な証言となるはず。機会があればぜひ投稿してみてはいかがだろうか。

「Covid-19と音」に関してはこんな翻訳記事も書いているのでお時間があればお読みください。


2020年4月24日金曜日

オンラインライブイベント「One World」で「Be My Eyes」が視覚障害者の視聴を支援。


2020年4月18日(現地時間)、世界保健機関(WHO)と米国の非営利団体Global Citizenは全世界でCovid-19と対峙している医療従事者を支援するチャリティ・バーチャルライブショー「One World: Together At Home」を、YouTubeなどのストリーミングサービス及びテレビ放送を通じて配信した。(概要と曲リストはこちらを参照のこと)

残念ながら筆者が調べた範囲では、ライブ配信時に視覚障害者向けの音声解説は提供されなかったようだ。今回のOne Worldは音楽ライブがメインなので目が見えなくても十分に楽しむことはできた。だがアーティストの衣装やパフォーマンスの様子を音声で解説してくれれば、この記念すべきイベントをより深く共有することができただろう。

ただ放送では音声解説はなかったものの、別の手段で視覚障害者への情報提供が行われた。名乗りを挙げたのが「Be My Eyes」。
これはスマートフォンのテレビ電話を用いて目が見えるボランティアが視覚障害者の「目の代わり」をするマイクロボランティアサービスである。晴眼の一般ボランティアに加え、提携した企業や非営利団体の専門サポート(スペシャライズドヘルプ)と視覚障害者をピアツーピアで接続し支援を提供している。執筆時点では日本を含む150以上の国、180以上の言語で370万人のボランティアと21万人の視覚障害者が登録している。

今回のライブイベントでBe My EyesはGlobal Citizenと提携し、英語圏においてスマートフォン用Be My Eyesアプリのスペシャライズドヘルプ機能を通じ、One Worldの音声解説をリアルタイムで提供した。
視覚障害者はOne Worldの放送を聴きながら同時にBe My Eyesアプリを通じて専門のボランティアに接続し、One Worldライブ配信画面の説明を聞いたり、質問したりすることができた。同社はこのライブ配信のために専属ボランティアを募り体制を整えたという。

Be My Eyesといえば「パッケージの賞味期限を見て」とか「パソコンの画面を見て」といったような短時間のサポートで利用されることが多いが、このように特定のコンテンツに対して長時間の支援を提供する用途もあるのだなあと感心した次第。

副音声などのバリアフリー情報は本来であればコンテンツ提供側が用意すべきものだが、緊急かつ非常事態中では時間的・人員的、さらに技術的に難しいケースもあるだろう。今回のBe My Eyesの試みは、そのような場合でも情報保障を確保できるという点において興味深い取り組みと感じた。ただ「画面の説明」は他の同時通訳とは異なりどうしても接続したボランティアの説明スキルに左右されやすいような気がする。まあ今回は映画の音声解説のような厳密な内容ではなく、友人や家族に質問しながら楽しむくらいの体験が目的なのかもしれない(想像だけど)。

ただマンパワーによるリアルタイムの音声解説というソリューションは映像のアクセシビリティ向上の一つの可能性を持っているように思える。今回はBe My Eyesを用いていたが、その他のライブ配信サービスでリアルタイムに音声解説を提供する方法なども考えられるだろう。似たような試みとしては、映画や演劇で活弁士がライブで音声解説を加えるという手法も実際に行われている。
将来的にはAI画像認識を用いた自動音声解説技術の登場も考えられるが、当面はどうしても人間の力が必要になるはずだ。音声解説のチャネルを増やすことで、視覚障害者がより多くのコンテンツを楽しめるようになることを望みたいし、そうなるべきだ。

なおBe My EyesはOne Worldのメインである2時間のライブ音声に、ボストンの放送局WGBHの協力による音声解説(英語)を加えたオーディオをYouTubeで公開した。出演者の名前や衣装などの簡単な音声解説が加えられている。


ちょっとした情報だが、これがあるのとないのとでは、やはり大きな違いがある。そして何よりもコンテンツを提供する側から視覚障害者にも楽しんでもらいたいという送り手の意思が示されたことが重要だ。従来のやり方では難しくても、工夫とアイデアがあれば実現できるという一つの好例だろう。

なおBe My EyesはOne Worldに続き、BET.comが開催したチャリティライブ放送でも同様のサポートを行なった理、英国および米国ではRNIBなど4つの視覚障害者団体と提携し専門サポートの提供を開始した。マイクロボランティアにとどまらない、視覚障害者支援のプラットホームとしてその存在感がさらに増しそうだ。
日本への本格進出にも期待したい。


2020年4月23日木曜日

[粗訳] 希望に満ちた鳥のさえずり、不吉なサイレン。パンデミックで耳に入ってくる無数の音たち。


※本エントリーは「Hopeful birdsong, foreboding sirens: Myriad sounds magnified in pandemic | The Japan Times」をざっくり翻訳したものです。

コロナウイルスの危機は「音」の世界を劇的に変えた。
日常生活の不協和音は影を潜め、残された音に重みを与えた。そしてかつてはありふれていた音の中に、多くの人々が思いがけず慰めと希望と恐怖を見出している。
パンデミックの渦中にあるアメリカで「音」は喜びや悲しみの中、共有された経験となった。「目は魂への窓」といわれるが、孤立が続く中「耳」もまた私たちの心につながっているようだ。

「9.11の後、静かになった通りで、私は救急車の音を聞きたかったことを覚えています。その音は生存者がいることを意味していたからです。それが聞こえないと不安でした。でも今はこの妙に静かになった通りで救急車の音を聞くと、心が痛みます。」
マンハッタンのアッパーイーストサイドに住んでいる元ウォールストリーター、Meg Gifford氏(61歳)は語った。

ヨーロッパのホットスポットでは、夜な夜なベランダから歌声が響く。
ニューヨークでは、午後7時になると家に閉じこめられていた人々が窓から身を乗り出し音をたて、街はひととき歓声と拍手に包まれる。

少しの間だけ外出が許されたニューヨークの通りや公園で、耳に入ってくるゾッとするような言葉の断片。静けさは人々を熟練した盗聴者に変える。

「まだまだ長びきそうね。」
女性が言い聞かせるように呟く。
「お友達に触っちゃダメだよ。どこにも触らないで、覚えておくんだよ。」
父親が注意する。
「ええ、でも今は全然商売にならないんですよ。」
ビジネスマンが、誰かに説明している。
「見てママ、鳥よ。」
女の子が木を見上げて指を差す。

感染流行都市の一つであるサンフランシスコ。
テンダーロイン地区にある、まだ営業しているパン屋の上、そして閉店を命じられたレストランの隣で一人暮らしをしているMarkus Hawkins氏(58歳)は、視覚に障害を持つミュージシャンでありマッサージ・セラピストだ。
彼の生活は音によって導かれていたが、それが劇的に変わった。街の大部分が静けさに包まれている中、彼を取り巻く世界は急激に騒々しいものになった。
「あぁ厄介なことになりました。」彼は言う。
パン屋から響くひっきりなしにドアがバタンと閉まる音。2、3分おきにカチッと音がするフリーザーや冷蔵庫のコンプレッサー。この恐ろしい騒ぎが24時間続く。ロックダウン前には気にも留めなかったのに。

夜になると、彼の心を落ち着かせていたホワイトノイズ、つまりレストランの換気扇の音が聞こえなくなる。彼は会話を聞く。たくさんの会話を。なぜなら
「それらをかき消す音が失われたからです。」

Kamil Spagnoli氏は、小学生2人を持つ42歳の視覚に障害を持つシングルマザーだ。
彼女は杖を使って、マンハッタンの東に位置するストーニー・ブルックを歩く。ウイルスが街を襲い彼女と子供たちを孤立させた時、彼女は毎日頭上に4から5機の医療ヘリの音を聞いた。
「あれは、治療を受けていたのでしょうか?」彼女は首を傾げる。
「今はもう何も聞こえません。」
彼女もまた、普段頼りにしている音を失った状態で暮らしている。通りを横切る時、交通の流れに耳を傾けるが静けさに危険を感じるという。
「今は交通量がとても少ないのです。どこにも行けません。」
彼女は言った。
「目では周りの様子が分かりません。音のフィードバックが必要です。」

アメリカにおける初期のホットスポットの一つ、シアトル。
フェリーの運行本数が少なくなったことで、、これまで時計のように時間を刻んでいたお馴染みの汽笛が少なくなった。ここにも、音と静けさの中で奏でられる不安がある。

遠くから聞こえる消防車は、呼吸困難に陥った人を助けに駆けつけているのだろうか?
今は空っぽになってしまったこの街の人気スポット、スペース・ニードル。週末の賑やかな人混みは、いつもどってくるのだろうか?
アメリカにおける流行初期、ウイルスが陰湿に拡散する前の国内の震源地となっていたシアトル郊外のカークランドにあるライフケアセンターでは129人以上が発症し3ダース以上の人が亡くなった。
救急車が老人ホームに向かう坂道を上るときのサイレンの音は、外に集まった愛する人たちを恐れさせた。数週間後、脅威が過ぎ去った後、救急車の数は少なくなり、他の地域へ向かうようになった。でもどこへ? 事態は緊急かつ大きすぎて正確にはわからない。

心を落ち着かせてくれる音もある。
春がやってくると鳥のさえずりが盛んに聞こえてくる。アメリカンゴールドフィンチの風変わりな鳴き声、フクロウのような鳩の鳴き声、ヒヨドリゲラの鳴き声など、セントラルパークは都市部の熱心なバードウォッチャーに憩いの場を提供している。

ロックダウンされた地域の教会ではイベントや儀式が行われていないにもかかわらず、鐘を鳴り響かせることで、幸福な時も騒乱の時にもほとんど気づかなかった多くの人々の信仰心を高めている。
オハイオ州立大学の准教授Isaac Weiner氏は、この現象に歴史的な皮肉を感じている。彼は2013年に出版した著書「Religion Out Loud: Religious Sound, Public Space, and American Pluralism.」で、教会の鐘が、何世紀にもわたって論争を巻き起こしてきた歴史を研究してきた。
「疫病や伝染病が流行していた頃、多くの教会が自主的に鐘を鳴らさなかったという伝統があ離ました。」Weiner氏は言う。
「鐘の音が回復期の病気を悪化させると恐れられていたのです。」

感染者や重症患者が増え続けている今、鳴り響く鐘は医療従事者への感謝を呼び起こすための確固たる呼びかけとして機能している。耳を傾け続けよう。


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