猛威を奮うCovid-19は世界中の風景を一変させた。
あらゆる商業施設や観光地は閉鎖され、かつては賑やかだった繁華街やターミナル駅からは人影が消えた。その様子は驚くべき光景としてメディアなどで報道されており、これらの記録は後世に渡り世界規模のパンデミックがもたらす影響を伝える貴重な資料となるだろう。
そしてCovid-19の影響を伝えられるのは写真や映像だけではない。「音」もまた、この人類が直面している現実を記録するための重要な要素のひとつとなるはずだ。
全盲である筆者も、2月頃から音の変化に気がついていた。街中から外国人観光客のハイテンションな声が聞こえなくなり、あれだけ混雑していた駅では明らかに人混みの気配が消えていった。
現在(4月中旬)はもうほとんど外出することはなくなったが、自宅周囲を通りかかる人々や交通量もすっかり減り、あたり一面ひっそりとしている。その代わりに聞こえてくるのは数々の野鳥のさえずりだ。全盲者にとって「音」は世界そのもの。Covid-19は馴染んでいた風景を確実に変えてしまったようだ。
果たしていま、世界はどのような音で満たされているのだろうか?
英国オクスフォードに拠点を置く「Cities and Memory」は、世界各地のさまざまな場所で録音されたサウンドを幅広く収集し、無料公開しているサイトだ。有名な観光スポットやイベントの様子、さらに鳥や滝といった自然の音に至るまで、世界にあるあらゆる音源をWebブラウザやPodcastで楽しむことができる。さながら「音で世界旅行」を体験できるといった感覚だろうか。各地で実際に録音されたリアルな音源だけでなく、それを素材としたサウンドアートが楽しめるのもこのサイトの特徴のひとつだ。音源は世界地図のほかカテゴリからアクセスすることもできる。
そしてこのサイトでは現在「#StayHomeSounds」と銘打たれた特設ページで、Covid-19によりロックダウンされた世界各地からの音源を収集するプロジェクトが進行している。このページにある世界地図上のマークをクリックすれば、各地の様子を伝えるコメントとともに掲載されたサウンドを聴くことができる。
なおスクリーンリーダーではこの地図へアクセスすることはできないが、このページ下部にあるレベル3の見出し「「Submit your sounds here」へジャンプし、少し読み進めていくと「Audioboom player」というグループが見つかるので、ここへフォーカスすればリスト形式でCovid-19関連のサウンドを聴くことができるはず。
また「Comparing the sounds of the global lockdown - before and after」という特集記事では、同じ場所で録音された音源をロックダウンの前後で聴き比べることができる。Covid-19が世界の「音風景」をどのように変えたのかがよくわかる。
#StayHomeSoundsで聴こえてくるのは、医療従事者へ向けられた歌声やエール、自宅に閉じ込められた人々の生活、人影が消えた都市に戻ってきた自然の音、そしてあらゆる喧騒が焼失して静まりかえった街の様子。などなど。
このサウンドライブラリからは、写真や映像以上にこのウィルスが世界に及ぼした変化をリアルというか生々しく感じ取ることができる。それはそこに暮らす人々の感情や息遣いが込められているからだ。
変わり果てた街の中で投稿者は、どんな気持ちでボイスレコーダーの録音ボタンを押したのだろう。音という制限されたメディアだからこそ、伝わってくる感情があるようにも思える。
この騒動が終息した後、果たして以前のような喧騒は戻ってくるのだろうか? それとも以前とも現在とも異なった、新しい音の世界が生まれるのだろうか? いずれにせよこの音声アーカイブはCovid-19流行という大きな出来事で変わりゆく世界とそこで暮らす人々の感情を記録する貴重な資料となるだろう。数年後いや10年後、どのような気持ちでこのアーカイブを聴くことになるのだろうか。
なおこのプロジェクトではサウンドアーカイブに追加するCovid-19関連の音を世界から募集している。外出するのが難しい昨今ではあるが、街頭だけでなくStay Home中の様子でも貴重な証言となるはず。機会があればぜひ投稿してみてはいかがだろうか。
「Covid-19と音」に関してはこんな翻訳記事も書いているのでお時間があればお読みください。