見えない・見えにくい人々にとって「買い物」は非常に難易度の高いクエストだ。
お店へ移動する。商品を探す。決済する。
どのプロセスも高いスキルを要しリスクが伴う。
そのような意味において「ネット通販」は視覚障害者にとって、なくてはならないサービスのひとつだ。
視覚障害者がネット通販を利用する場合、多くはスクリーンリーダーを利用してアクセスすることになるが、そこで問題になってくるのがECサイトにおけるWebアクセシビリティ。米国ではada法に基づいてアクセシブルでないWebを公開している企業や組織が訴えられまくっているが、その中にはECサイトが多く含まれている。障害者がアクセスできないECサイトは、バリアフリー化されていないリアル店舗と同じ、という考えに基づく動きだ。
そんなこんなでECサイトにとってアクセシビリティは重要、という意識が浸透しつつある。これは視覚障害者の「買い物をする権利」を守るということでもある。
Alibaba傘下で中国最大のECサイト「淘宝網(タオバオワン)」は2018年10月、視覚障害者のショッピング体験をより快適にする技術を導入した。
淘宝網では、日々膨大な出店者から大量の商品が掲載されているが、その画像の多くには代替テキストが用意されていなかった。さらに多くの商品ページで重要な情報が画像内にテキストを埋め込む形で提供されていたという。
そこで淘宝網はアップロードされた画像からOCR(光学文字認識技術)を用いてテキストを自動的に抽出し、スクリーンリーダーユーザーがより簡単に商品情報へアクセスできる昨日を導入した。導入から2ヶ月後の段階で、1日あたり約1億もの画像が読み取られているという。
OCRによる文字認識は一部のスクリーンリーダーを使えばローカルで処理することもできるが、サイト側で処理することで手間も省け、スマートフォンなどOCRが利用できない環境でもスムーズに情報を入手できるようになる。
このような多くのコンテンツ提供者が関わる巨大サイトでは、アクセシビリティを徹底するのは非常に困難だ。それをプラットホームベースで一気に解決してしまおう、というわけだ。
同様の試みとしては、FacebookやInstagramが写真の自動代替テキスト機能を提供している。こちらはテキストではなく写真の解析を行う。
AIによる画像解析はまだ発展途上の技術だが、代替テキストが皆無という状態が解消されるだけでも大きな前進。このような動きは人力でアクセシビリティを確保するには限界があることの証なのかもしれない。
AlibabaはWebサービスのアクセシビリティ工場に力を入れており、スマートフォンに触覚ボタンを追加する安価なシリコンシート「Smart touch」の提供も予告されている。
それだけAlibabaは障害者を重要なマーケットとして認識しているということだろう。確かに全人口から見れば障害者は少数派ではあるが、バリアを除去することでその周辺を含めた潜在的な需要を掘り起こすことに繋がるのではないだろうか。まあ、中国は絶対数が多いということもあるのだろうけれど。
閑話休題。
全盲の筆者もたまにネット通販を利用しているが、画像から情報が得られないことで失敗したりストレスを感じることも多い。やはり一般的に「写真を見ればわかるでしょ?」という情報は文字情報として記載されない傾向にあるようだ。
特に商品のデザインに関する要素は漠然とした説明しか得られないことが多く、寸法や重量からイメージしたり、商品名でググって外観デザインに言及したレビューを探すなどするしかない。でもどんなに情報を集めてもこれじゃない感MAXな商品が届く悲劇が繰り返されてしまうのである。
先日もBluetoothイヤホンを購入したのだが、イメージよりだいぶゴツいものが届いてがっかりしてしまった。もちろんそんな理由で返品はできないし。
デザインだけでなく、ボタンの位置だとか素材の質感なども商品説明だけではわかりにくいポイント。安価な商品ならまだ諦めもつくが、ねが春物だとそうわいかない。結局Webで購入したい商品を下調べして、お店に行って実物に触れて……ということになる。そこで「ポチらなくて良かった!」と思うことも多い。実に危ない。
商品写真の代替テキスト、理想としてはこのような失敗がなくなるくらいの情報が欲しいところ。でもデザインを言語化するのは難しいのも理解できる。自分も欲しい商品のデザインを説明しろ、と言われても困るしね。
一般的なWeb画像と比較してECの商品画像は求められる情報量が圧倒的に多いし利用者の損得にも関わってくる。触図プリンターやディスプレイのような機器が入手しやすくなれば話は変わってくるだろうが、テキスト頼みの現時点ではこの溝を埋めるのはそう簡単ではなさそうだ。
視覚障害者が安心して買い物できるひはまだまだ遠い。
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