いまだに根強い「視覚障害者」=「全盲」というイメージ。
だが実際には視覚障害者の中でも全盲は少数派。多くは視力や視野に何かしらの障害を持つ「ロービジョン」と呼ばれる状態である。ロービジョンの「見えにくさ」は、眼鏡屋コンタクトレンズで矯正できる「見えにくさ」とは全く異なる質のものなので、なかなか理解されにくいのはある程度止むを得ないことかもしれない。
だがこの無理解さゆえ、ロービジョンを捕まえて「白杖もちなのに○○してた」という言説が絶えないという現実がある。そのような誤解を防ぐためにも「ロービジョンの見えにくさ」がいかに日常生活を困難にしているか、という情報を広めることが重要だろう。
今回紹介する「視覚障害シミュレーター」も、そのようなロービジョン周知に役立つツールになるかもしれない。
iPhoneのカメラを通して視覚障害者の見え方を体験
■iPhoneアプリ
開発/Aira Tech Corp. 価格/無料
Aira Vision Simは、iPhoneのカメラを通して視覚障害者の「見えにくさ」を体験できるアプリだ。現在14の眼疾患のビジョンをシミュレートする。開発したのは北米などで視覚障害者の遠隔サポートサービスを提供しているAIRA社。
アプリを起動して疾患名称をタップすると、カメラからの映像をリアルタイムで処理。その疾患で生じるビジョン(の一例)を再現する。スライダを調節して、見えにくさのレベルを変更することも可能だ。
例えば白内障の霞目、糖尿病性網膜症のランダムな視野欠損、緑内障の周辺視野欠損、黄斑変性症の中心視野欠損など、これだけでも一言で視覚障害といっても無数の「見えにくさ」が存在することがわかるだろう。もちろんこれらはほんのごく一部でしかない。
また「Ditail」をタップするとその疾患の情報(特徴や原因、患者数など)を知ることもできる。
シミュレートする眼疾患と再現内容は以下の通り。
- Bardet Biedle Syndrome:バルデー・ビードル症候群(周辺視野の欠如)
- Cataracts:白内障(かすみ眼)
- Corneal Dystrophy:角膜ジストロフィー(かすみ眼)
- Diabetic Retinopathy:糖尿病性網膜症(ランダムな視野欠損)
- Glaucoma:緑内障(周辺視野の欠如)
- Leber's Congenital Amaurosis(LCA):レーバー先天性黒内障)ぼやけた視力)
- Leber Hereditary Optic Neuropathy (LHON):レーバー遺伝性視神経症(中枢性視力の喪失)
- Macular Degeneration:黄斑変性症(中心視力の喪失)
- Neuromyelitis Optica (Devic's Disease):視神経脊髄炎(デビック病)(中心視力の喪失)
- Optic Nerve Hypoplasia:視神経低形成(ぼやけた視力)
- Optic Neuritis (Neuropathy):視神経炎(ニューロパシー)(かすみ眼)
- Retinal Detachment:網膜剥離(コーナービジョンの喪失、黒い点)
- Retinitis Pigmentosa (RP):網膜色素変性症(周辺視野の欠如)
- Stargardt Disease:シュタルガルト病(中心視力の欠如)
iPhoneのカメラを用いて実際の風景で見えにくさを体験できるのは、説得力がある。
普段歩いているルートや家の中がどのように見えるのかを体験すれば、視覚障害者がどのようなサポートを必要としているか、想像しやすくなるかもしれない。
もちろん同じ疾患でも別の見え方になるケースも多い。実際に筆者は緑内障だがまず中心視野から見えなくなっていった。あくまでも奨励の一つ、という前提をお忘れなく。
Webブラウザから体験できるロービジョン・シミュレーター
■Webアプリ
こちらはWebブラウザで視覚障害者の「見えにくさ」を体験できるシミュレーター。
「EXPLORE」をクリックするとシミュレーターが起動。眼疾患をクリックするとそれぞれの典型的なビジョンを再現する。このシミュレーターはVRビューが用意されており、ウィンドウをマウスでドラッグするか矢印キーで360度ビューを移動、クリックで見たいポイントを指定できる。
シミュレートする眼疾患は以下の通り。
- GLAUCOMA:緑内障
- CATARACT:白内障
- DIABETIC RETINOPATHY PRESBYOPIA:糖尿病性網膜症
- GLARE:眩輝(眩しさ)
- MACULAR DEGENERATION:黄斑変性症
- HEALTHY SIGHT:正常なビジョン
Aira Vision Simと比べるとシミュレートする疾患は少ないが、ブラウザから手軽に体験できるのが特徴と言える。
ロービジョンは世界をどのように見ているのか
これまで視覚障害者=全盲というイメージを持っていた方も、これらのシミュレーターを体験すれば、そのバリエーションが多岐に渡っていることに気がつくだろう。「見える」と「全く見えない」の間には、無限のグラデーションで「見えにくい」が存在しているのである。
もちろんこれらのシミュレーターで体験できる「見えにくさ」はほんの一部に過ぎないし、眼球使用困難症のように、たとえ視力や視野が正常でも、その感覚を使えない、もしくは使える時間が極端に短い症例もある。
そのような現実を踏まえつつ、このようなシミュレーターで視覚障害者が世界をどのように見ているのか、その一端を垣間見てもらえれば、少しは視覚障害者、とりわけロービジョンに対する理解も深まるのでは。そんな風に思うのだった。
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