視覚障害者にとって「触覚」から得られる情報は貴重だ。
だが、ことICTの世界では、触覚の排除が進められている。スマートフォンからは物理ボタンがどんどん消滅し、自動販売機や券売機はタッチパネルに。最近ではクレジットカードの暗証番号やサインですら、あのツルツルした平べったいディスプレイでやらされることが多くなってきた。
これはおそらくメンテナンスフリーにすることで経済効率化を目指した結果なのだと想像されるが、見えない人間にとってはいい迷惑である。もちろん音声フィードバックによる代替手段も考えられているが、ユーザーの立場からいえばダイレクトに機能へアクセスできる物理ボタンと比べると非効率的である。
もう我々のもとに触覚は戻ってこないのだろうか?
そんな悲歎の日々の中、興味深いニュースが飛び込んできた。
米国テキサス州ヒューストン、ライス大学の研究者は、物質に形状を自由にプログラムしてモーフィングさせる技術を開発した。変形する触覚ボタンや点字を浮き上がらせる、といったガジェットへの応用も期待されている。
これは、LCE)liquid-crystal elastomer、液晶エラストマー)と呼ばれる物質を応用したもの。もともとLCEは電圧を加えると変形するという性質を持ち、人工筋肉やアクチュエイターなどへの実用化を目指して世界中で研究が進められている。LCD(液晶ディスプレイ)が電圧により分子配列を変化させることで光の透過性をコントロールするように、LCEは物質の形状を変化させるもの、という雰囲気のようだが筆者の理解力ではここまでが限界である。難しいよ。
ライス大学の研究では、LCEをプログラムしたい形状の型に入れ、紫外線を照射して硬化させる。LCEは通常の温度ではこの形状を保つが、摂氏80度に加熱すると表面が平滑になり形状は消滅。だが物質の温度が下がるとプログラムした形状が再現される。同じ物質に複数の形状をプログラミングし、切り替える事もできるというのが、既存の形状記憶物質と大きく異なる特徴だろう。
研究者は今後、体温レベルの低温や光を使用したモーフィング、さらには変形させたい部分だけを反応させることを目指しているという。ロボットや機能に合わせて変形する触覚ボタン、低コストな点字ディスプレイなどへの応用も想定しているようだ。支援技術をはじめ、幅広い分野に活用できるだろう。
この技術が確立すれば、もしかしたら近い将来、ディスプレイの表面がぽこぽこ変形しまくるスマートフォンが登場するかもしれない。従来の故障しやすい機械式の物理ボタンや、動作音が木になる点字ディスプレイに大きな変革をもたらす期待の技術だ。妄想が過ぎるとも思うが、夢はみたもん勝ちである。
関連リンク:
スマホに新しい触覚をもたらす!?夢の新素材。
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