画像引用元:Ars Technica
点字や触図といった触覚から情報を得るメディアは視覚障害者に対する情報提供手段として長い歴史を持ち、非常に重要なものではあります。
しかしその一方、特にデジタルの分野では音声と比べ活用の幅が限定的であることは否めません。これには点字の識字率の低下もありますが、機材や制作に必要なコストもその一因となっているようにも思えます。、その象徴ともいえるのが、点字ディスプレイの価格でしょう。
近年ではセル(点字1文字の単位)数を減らし価格を下げた製品も販売されてはいますが、実用的なセル数を持つ点字ディスプレイはそこらのハイエンドPCを軽く超えるお値段。自治体による補助も重複障害者限定であったり点字のスキルが求められるなど非常にハードルの高いものとなっているのです。
点字ディスプレイを構築するためには、幅5ミリ、高さ8.5ミリ程度という僅かな面積のセルに6つのピンを上げ下げする仕組みを設計し、それをセル数分だけ並べなければなりません。
現在流通している点字ディスプレイでは圧電素子や磁気によりピンを隆起する方式が採用されていますが、いずれにせよ精密かつ複雑な部品を大量に用いなければならず、どうしてもコストが跳ね上がるわけです。
触覚を通じた情報伝達手段をより多くの視覚障害者へ提供するためには、大量のピンを制御できる低コストな技術が求められているのです。本ブログでも1つのアクチュエーターで40セルを更新するCanute 360や、電圧により記録した形状を再現する素材液晶エラストマーといった新技術の話題を取り上げてきましたが、ここでまた新しい点字ディスプレイに関する研究が発表されました。
「Valveless microliter combustion for densely packed arrays of powerful soft actuators」と題された研究では、機械的な機構を一切用いず、「ガスの燃焼」でピンを持ち上げるという、斬新かつ非常にワイルドな方法が提唱されています。
この研究では、ピンを隆起させるためにメタンと酸素の混合ガスを燃焼させ膨張する柔軟なポリマー素材のバブルとそれに燃料を供給するパイプ、そして着火に用いる2本のワイヤーと言う非常にシンプルな構造が考案されました。
ワイヤーに電流を流すとバブルに溜められたガスが爆発し、大きく膨らみます。その圧力でピンを押し上げ、点字を表現する仕組みです。膨張したバブルはすぐに収縮してしまいますが、押し上げられたピンはマグネットの磁力によりその状態がキープされるわけです。構造がシンプルであるため、点字ディスプレイだけでなく、グラフィックスをピンで表現する触覚ディスプレイにも応用が効きそうです。
ここで気になるのは、どのようにしてピンを下げるのか? 実は現状、読み終えたら手動でピンを押し下げなければならないとのこと。ちょっとスマートな感じではありませんが、研究チームはあまり問題とは考えていないようです。あくまでもコスト重視ということでしょうか。
ただ製品化を考えると燃料となる混合ガスの安全性や燃焼時に発生するノイズ、バブルの耐久性など課題は多いようにも思えます。何せ、のべつ幕なしにガス爆発を続けるデバイスですからね。少なくとも使う時は換気が必要ですね。
それでもシンプルな構造を持つこの技術が触覚ディスプレイのコストを下げる可能性を持っていることは確かでしょう。個人向けは難しくても、大掛かりな触覚ディスプレイを学術・教育機関向けに開発するのも面白いかもしれません。
まあ実現性は低いのかもしれませんが、爆発を活用するという大胆なアイデアは面白いですし、なにより触覚ディスプレイというニッチなジャンルに対し、新しい研究が行われているという事実に、心強さを感じたりするのでした。
参考:Braille display demo refreshes with miniature fireballs | Ars Technica
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