A visitor explores the surface of a tactile image of 'The Mona Lisa'.(画像引用元)。
視覚的な情報を立体的に印刷する「触図」は絵画やグラフなどの言葉では説明が難しいビジュアルイメージを、視覚障害者へ伝達する手段として活用されています。
その有用性については広く認められている一方、これまで触図に関する大規模な研究や積極的な普及活動はあまり行われてこなかったと言われています。
そんな状況の中、米国で立て続けに触図に関する二つの取り組みが発表されました。
NFBなど3者、触図の制作と普及を推進するパートナーシップを締結。
2021年1月25日、National Federation of the Blind(NFB)は、触図印刷サービスTactile Images、およびストックフォトサービスGetty Imagesとのパートナーシップを通じ、触図の普及と啓発を促進するイニシアチブを発表しました。
このコラボレーションではGetty Imagesが管理する4,500万枚以上の画像からNFBがキュレーションしたイメージをもとにTactile Imagesが触図を制作。美術館、博物館、科学センター、図書館、学校、政府機関などへ提供することで視覚障害者の文化・教育におけるアクセシビリティの向上とインクルージョンの強化を目指します。
加えて三者は共同で全米を巡回する触図の展覧会の開催を通じ、視覚障害者に対する情報手段としての触図の啓発活動を行うとのことです。
Tactile Imagesの触図製品は視覚的な素材を立体的に加工することで、タッチによる感覚刺激を通じ視覚障害者へ情報を提供します。
同社の技術では触図に埋め込まれたセンサーによりタッチした部分に応じた音声ナレーションを用いたインタラクティブな仕掛けや香りを発生させるパーツを組み込むことで触覚、聴覚、嗅覚を組み合わせた多感覚なエクスペリエンスを実現。この複合的な感覚体験は触覚を強化し、視覚障害者に対しメンタルイメージの構築を効果的にサポートします。
このイニシアチブの一環として、50,000人以上の視覚障害者を対象に、触図で真っ先に体験したい写真やアートのモチーフに関する調査が実施されました。
その結果、人物写真では「ルイ・ブライユ」「マーティン・ルーサー・キング・ジュニア」「アルバート・アインシュタイン」。風景では「ホワイトハウス」「グランドキャニオン」「自由の女神」、そして報道写真として「月面着陸」「公民権運動」「9.11同時多発テロ」といったイメージが多く挙げられたとのことです。
この調査からも分かるように、見えている人々の間では当たり前のように広く共有されているイメージでも、視覚障害者にとってはいまだに未知の領域である事実がわかります。晴眼者とコミュニケーションする上でも視覚的な情報が共有されているかどうかでその質は大きく異なってくるでしょう。触図の普及が、このような情報格差を狭める一つの鍵となるかもしれません。
なおTactile ImagesのWebサイトではGetty Imagesから触図に変換したいイメージを検索したり、現在開催されている巡回展などの情報が掲載されています。
触図を研究、促進するコンソーシアムを設立。
2021年3月4日、National Braille PressとLightHouse of San Francisco、およびアラバマ大学ハンツビル校は、共同でアクセシブルな触図に関する研究を行う組織であるthe Accessible Graphics Consortium(AGC)の設立を発表しました。
AGCは研究、製造方法の改善、カリキュラムの開発を通じ触図の普及を目指すことを目的としており、まずはSTEAM(Science、Technology、Engineering、Arts、Math)の各分野に対応した教員養成プログラムの作成に注力し、ベストプラクティスの収集、分析、推進、コミュニティへの発信を行います。
また、これらの取り組みをサポートするための諮問委員会を設置。ステークホルダーには、American Printing House(APH)、National Federation of the Blind(NFB)、American Foundation for the Blind(AFB)、teachers of the visually impaired (TVIs)といった視覚障害関連組織、さらに学術研究者、カリキュラム開発者、点字や触図の大手ベンダーなどが含まれます。
触図はこれまでも世界各地の支援組織や個人によって制作されてきましたが、総合的な形としての研究はほとんど行われてこなかったとのこと。点字が視覚障害者にとって重要なカリキュラムとなっている一方、触図は統一されたノウハウが共有されておらず過小評価されてきたと言います。確かに視覚リハビリテーションの中で「触図の読み方」みたいなトレーニングはあまり見かけたことはありませんしね。
このコンソーシアムは視覚障害者のための触図の制作、教育、リーディングスキルの学習に統一的なアプローチをもたらすことで、視覚障害コミュニティの触図に対するアクセシビリティの向上を目指すとのことです。もしかしたら触知案内図に関するISO 19028のような統一規格の提案なども考えられているのかもしれません。これはあくまでも想像。
0 件のコメント:
コメントを投稿
注: コメントを投稿できるのは、このブログのメンバーだけです。