視覚障害者の体内に埋め込み視力を回復させる「人工視覚」。
この言葉から、どのようなイメージを抱くだろうか。まるでSF小説に出てくるサイボーグのような未来的なものを想像するかもしれない。だが人工視覚は、今現在進行中の技術であり、すでに実用段階に突入した製品もある。
そのような人工視覚技術の一つ、「Orion」は、脳に埋め込まれた電極とスマートグラスを接続し、人工的に視力を回復させる、現在研究中のデバイスである。網膜に電極を埋め込むタイプの人工視覚はすでに実用化されているが、網膜の奥にある視神経などが原因で失明した患者には効果がない。
そこで「orion」は、眼球や視神経を一気にバイパスし、脳の視覚を司る部分を直接刺激することで視覚を実現しようとしている。人間が者を見る仕組みを考えると、最終的には「脳」にたどり着くわけで、ある意味「究極の人工視覚」ともいえる。極端な話、中途失明であれば眼球を摘出した患者でも原理的には同じ高価が得られるという。
現在Orionは、6人の被験者に大して実証実験を行なっており、そのうちの1人、Esterhuizen氏の体験が記事として公開されていた。Orionについては以前、海外記事を翻訳したものをエントリーしたが、実際にどの程度の者が見えるのか?という部分についてはよくわからなかった。
今回の記事では、その謎が少しだけ判明したのでまとめてみよう。
- 電極は脳の片方にのみ埋め込まれているので、見えるのは片方のめだけ。
- 60個の電極1つ1つの強さを、被検者ごとに数ヶ月に渡り調整する。
- 電気刺激によって感じられるのは、光の点。色や形はわからない。動きはわかる。
- 被検者はカメラの映像と感じる光の関係をトレーニングする。点字を読むのに似ている?
- 見える点の解釈により、光の強さ、物体の動き、ある程度の奥行きを判別できる。
- 人物や物体は初め1つの点として感じられ、近づくと複数の点が見える。
という感じのようだ。
これを読む限り現在Orionで見ることができるのは、目で見るような自然なビジョンではなく、人工的に生成された「光の点」に過ぎない。
被検者はカメラからの映像を元に感じ取る光の関連性をトレーニングし、その結果シンプルな光で者や道路の境界線を識別したり、自動車などの障害物を避けたりできるようになる。
つまり全く新しい「視覚の解釈」を学ぶことで、視力を獲得していくということだ。Orionで見る世界は晴眼者のそれとは、風景も機能も全く異なるもののようだ。
「人工視覚」という名前を聞くと、どうしても晴眼者と同じような視力が戻るかのような想像をしてしまいがちだが、そのようなクオリティに到達するには、まだ超えなければならないハードルが数多く存在するという。
まず、脳のどの部分を刺激すると、どのような者が見えるのか?という仕組みがほとんど解明されていない。またインプラントする電極の数も、現在の60個から数十万まで増やし、電極のサイズも小型化する必要がある。脳の視野マッピングが解明され、それに対応する電極が改良されて初めて「者が見える」ようになるという。他にも長期間に渡る安全性の担保や装置の寿命、患者の経済的負担など、課題は多い。
一般的にイメージする「視覚」を実現するには、まだまだ長い時間が必要となるだろう。
だがわずかな点出あっても「自分の目で見る」ことが再び可能になるだけでも革命的だ。過度な期待は禁物だが、技術は着実に進化している。
筆者も緑内障による視神経萎縮で失明したので、Orionには期待しかない。一度、体験してみたいものである。
……まあ、そのためには頭蓋骨をパカっと開かないとならないのだが。
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