2021年12月18日土曜日

視覚障害者へリアルタイムの触覚情報を伝達する「点図ディスプレイ」にまつわる最近のトピックス(※2022/3/12 追記)。

A person using Dot Pad next to a keyboard on a desk

画像引用元:Closing The Gap


(※2022/3/12 追記)Dot Padについて、詳細な記事がTechCrunchお呼びNewz Hookから出ました。やっぱりAPHから発表された点図ディスプレイはDot Padと関係があるようです。記事では明確にされていませんが、それなりのお値段になるのかな? iOS15.2で導入された触角グラフィックスAPIにも対応するらしいので、互換性的にも問題はなさそうです。無事に発売されることを祈ります。


点図ディスプレイとは、ピンの上げ下げによってデジタル画像データをドット絵のように表現し、それに触れた視覚障害者へ写真やグラフなどの視覚的な情報を伝達するために用いられるデバイスです。点字ディスプレイのグラフィック版、という漢字ですね。

点図プリンターと比べると解像度的には及びませんが、リアルタイムに情報が得られ、印刷コストや騒音の問題も軽減されるなどのメリットがあります。これまでにもGraphitiドット・ビューといった製品が開発されてきましたが、価格的にも個人が利用するにはかなりハードルの高いものでした。(いずれも現在は販売終了)


WebやSNS上の画像は、代替テキストによってある程度の情報は得られますが、形や大きさなど言葉だけではイメージしにくい場合も多く、またグラフや地図などの視覚を前提としたコンテンツは指で触れなければ情報の本質を理解することは難しいと言えます。視覚が使えない人々にとって、触らなければ伝わらない情報は確実に存在するわけです。

多くの視覚障害者がデジタル形式で情報を得ている現在、個人むけのリーズナブルかつ高解像度な点図ディスプレイの登場が、待ち望まれているのです。


余談ですが近年ではタッチパネルに応用できる仮想触覚技術や動的な凹凸を表現できる素材の開発など触覚に関するイノベーションが進められています。ただ現状これらの技術で正確な触覚グラフィックスを表現することは難しく、まだしばらくは従来の機械式の点図ディスプレイが主流となると思われます。このような状況の中、新しい点図ディスプレイに関する情報がいくつか報じられています。



Dot Watch」をはじめとする点字デバイスの製造で知られる韓国Dot Incorporationは現在、点図も表現可能な新しいマルチライン点字ディスプレイ「Dot Pad(Tactile Display (KP2-300A)」を開発中であるとClosing The Gapが伝えています。

記事によると、Dot Padは30セル×10ライン、トータル300個のセルを備え、点字に加えグラフや数式など視覚的な情報をピンの上げ下げによって表現できるとのこと。(プロモーション動画

スペックから想像する限り、点字ディスプレイとしてはかなりスリムで「触覚タブレット」と呼んでも差し支えない製品のように思えます。開発自体は数年前から進められていたようですが、現時点で明らかになっている情報はまだ少なく発売時期も未定。肝心の価格も含め今後の発表を待ちたいところです。


また同様の製品としては、米国American Printing House(APH)と視覚障害者向け機器製造メーカーHumanWareのコラボレーションによる、点図対応の新たなマルチライン点字ディスプレイの開発が2021年6月末に発表されており、さらに12月8日にはカナダ政府が推進するアクセシブル・テクノロジー・プログラムから20万ドルの支援を受けたことが伝えられています。

この製品、リリースには技術パートナーとしてDot社の名前も挙げられているのですが、先述したDot Padとの関連性は不明。こちらも続報待ちですね。


さらにマルチライン点字ディスプレイの魁として知られる、英国Bristol Braille Technology社の「Canute 360」がしばらく中断されていた注文を再会したというニュースも報じられています。

これは厳密にいうと点図ディスプレイではなく、40セル×9ライン=360セルを備えるスタンドアロン動作の点字書籍リーダーです。ですがあらかじめ点訳ソフトで変換した触覚グラフィックスデータを転送すれば、点図を表示することも可能とのこと。

また将来的にはUSBケーブルでPCなどに接続し、点字/点図ディスプレイとして利用できるようになる可能性もあります(技術的には可能なようです)。

点図表示用としては設計されていないため触覚グラフィックスを表示させる使い道には向いていないかもしれませんが(特にリフレッシュ速度)、現在入手可能な唯一のマルチライン点字ディスプレイが3,000ドル弱で購入できるという事実は、やっぱり大きな魅力。触覚デバイスとしての可能性を秘めた端末であることは間違いないでしょう。


さてこれまでにも視覚障害者向けのいわゆる「触覚タブレット」的なデバイスは、発表こそされてはいるものの、今のところ製品化まで漕ぎ着けたプロジェクトを(私の調べた範囲では)見つけることはできませんでした。ですが点字デバイス製造の実績があるDotやHumanWareといったメーカーが名乗りをあげたことにより、新たな個人向けデジタル触覚ソリューションの実現性が一気に高まってきたように思います。価格が心配ですが……。


手軽かつ欲しいタイミングで触覚情報が得られるようになれば、現在音声が中心の視覚障害者の情報環境が格段に広がることが期待されます。例えば通販サイトで商品のデザインを次々と確認したり、絵画やコミックなどビジュアルが重視されるメディアも、音声や言葉だけでは得られないニュアンスを感じることができるでしょう。

数年後には触覚タブレットをナデナデしながらWebやSNSを閲覧する視覚障害者の光景が、当たり前になるのかもしれませんね。


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