画像引用元: Smithsonian Magazine
目に障害のある学生にとって、視覚的なイメージの理解は大きな障壁の一つとなっています。特に化学や数学など理系分野では視覚的要素が強い3次元による画像が多用されており、手で触れられる触図や3Dプリンターによる立体模型を用いたとしても、イメージを的確に理解することは難しく、何より膨大なコストが必要という問題がありました。
米国テキサスしゅうベイラー大学の化学・生化学教授であるブライアン・ショー博士率いる研究チームは、この問題を改善する画期的な技術を開発しました。それは「手」ではなく「口」で触れる、安価な3Dモデルの制作です。
Science Advancesに発表された論文によると、人間の口内には手よりも鋭敏で高解像度な触覚センサーが備わっているといいます。研究チームはタンパク質分子構造の3Dイメージをもとに、食用ゼラチンや人体に無害な歯科用樹脂を用い、グミキャンディーのような一口サイズの3Dモデルを制作しました。
3Dプリンターによって印刷されたこの触覚モデルは米粒からピーナツ大程度の小さなサイズで、素材によって食べることもでき、樹脂を用いたものは洗浄して再利用することも可能。樹脂を用いた場合、制作コストは一つあたりおよそ10セント程度とのことです。これは手で触れる触覚モデルとは比べ物にならないほど低コストです。
396人の学生が参加した調査では、口、手、目それぞれでこのタンパク質モデルをどれだけ正確に認識することができるかを調べました。
その結果、口で立体モデルを認識したときの精度は85.59%で、CGアニメーションを用いた視覚による認識とほぼ同等でした。また口で認識した場合と手で触れた時の精度を比較すると、40.91%の被検者が口の方が高精度と答え、同等と答えた学生は31.82%でした。
この調査結果は唇や舌の感覚を用いることで、手を用いる場合と同等、もしくはそれ以上に正確に立体モデルを理解することができることを示しています。
この実験ではゼラチンを用いた単一素材のモデルを使いましたが、研究チームはタフィーやチョコレートを含む複数の素材を用いたモデルの制作にも成功しています。つまり味覚を通じて立体イメージに含まれる意味、例えば分子構造のプラス・マイナスといった情報を伝達することもできるわけです。
触覚に味覚を加えるという発想もユニークですが、モデルがあまり美味しいと形を認識する前に溶けてなくなってしまわないか、ちょっと心配してしまいますね。
それにしても「口」がそんなに敏感な感覚を持っているとは驚きです。確かに食器などを口に含み舌でなぞってみると、指で触れた時と同様にその形や質感、特に細かい飾りや先端の様子がよくわかるような気がします。なんかこれからは食事のたびに、口内の触覚を意識してしまいそうになりますね。
口に入れて識別するためサイズの限界や衛生面・安全性など様々な課題が考えられますが、「口」という触覚のフロンティアは、視覚障害者の教育や生活に大きな変化をもたらす可能性を感じさせてくれます。口を活用する視覚支援技術としては「BrainPort」くらいしか思い浮かばないのですが、実は結構有望な分野なのかもしれませんね。
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