2021年10月11日月曜日

「Flying Guide Dog(空とぶ盲導犬)」は、ドローンと真相学習アルゴリズムで視覚障害者をナビゲーションし信号機も識別する。

視覚障害者にとって盲導犬は「引っ張られる」という連続したフィードバックによる安全・確実な誘導手段として安定した評価を得ています。あの安心感と比べると、やはりスマートフォンなどによるスポット的な音声・振動ナビゲーションは習得が難しく確実性に欠けると言わざるを得ません。もちろん便利ではあるんですけどね。

テクノロジー(主にロボット工学)によって盲導犬のようなナビゲーションの実現を目指す研究はこれまでにも数多く行われてきました。例えば四足歩行ロボットを応用したものなど。そのような中、着目されたのが空中を軽快に飛行する「ドローン」です。


ドイツ、カールスルーエ工科大学(KIT)の学生、Haobin Tan氏らによる研究チームは、ドローンによる視覚障害者のナビゲーションシステムに関する研究「Flying Guide Dog: Walkable Path Discovery for the Visually Impaired)PDF)」を発表しました。


この研究で用いられたドローンはDJI社の「Tello」。被検者はドローンから送られた映像を処理し飛行を制御するノートPCを収納したバックパックと音声ガイダンスを聴くための骨伝導ヘッドセットを装着します。

ドローンは被検者を先導する形で飛行し、装着されたロープで視覚障害者を引っ張りながら誘導する仕組みです。「Flying Guide Dog」の名のとおり、まさに空飛ぶ盲導犬、と呼べる雰囲気のシステムです。


ドローン制御のアルゴリズムには、画像の要素にラベルを付与する真相学習技術の一つであるSemantic Segmentationを採用。ノートPCはドローンが撮影した屋外環境の映像から歩道や横断歩道などのオブジェクトを検出し歩行可能なルートや避けるべき障害物を決定。それをもとに飛行方向や速度をリアルタイムに調節します。

また研究チームは、交通信号機の認識に特化した独自のデータセット「Pedestrian and Vehicle Traffic Lights(PVTL)を構築。視覚障害者が安全に横断歩道を渡れるよう、歩行者用信号機の色を判別巣る機能も加えました。

ドローンは赤信号を認識するとその場でホバリングし、信号が青に変わるまでの間待機すると同時に、骨伝導ヘッドセットを通じその情報をユーザーに伝達します。


研究チームはプロトタイプを制作し、目隠しをした被検者を対象に実証実験を行いました。その結果、Flying Guide Dogのナビゲーション能力について、一定の有用性が認められたというフィードバックが得られました。特にロープで引っ張られる誘導方法は習得が容易で直感的に使えるという点で高く評価されました。

一方、用いられたドローンはバッテリー容量が小さく、飛行時間はわずか13分あまり。さらに本体重量が軽いため風にも弱いという欠点も明らかになりました。この問題を解決するためには、より長時間バッテリー駆動可能な大型ドローンを用いる必要があると研究チームは語っています。将来的には制御アルゴリズムの改良とともに、組み込みAIコンピューターを用いシステム全体の軽量化を進めるなど改良を加えていくとのことです。


これまでにもドローンを視覚障害者のナビゲーションに応用する試みはいくつか見られましたが、AIを導入することで(まだ限定的ではありますが)その実現に一歩近づいた印象があります。

しかし現実味を帯びると同時に、ドローンによる視覚障害者の誘導が社会的に需要されるのだろうか?といった問題も出てきます。衝突・墜落による危険性や騒音といった課題も考えられるでしょう。

この問題に関してはドイツの研究者Mauro Avila Soto氏らによる「Look, a guidance drone! Assessing the Social Acceptability of Companion Drones for Blind Travelers in Public Spaces」と題された社会実験が参考になるかもしれません。この実験はドローンに限らず、新しい支援テクノロジーが社会に対しどのような影響(ポジティブ、ネガティブともに)を及ぼすのか、という視点を与えてくれます。

個人的には、こんなドローンに連れられて広い公園などをぶらぶらお散歩してみたいと思いました。できれば音声ガイドなどしてくれれば、さらに最高な気がします。


参考:[2108.07007] Flying Guide Dog: Walkable Path Discovery for the Visually Impaired Utilizing Drones and Transformer-based Semantic Segmentation (arxiv.org)


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