2021年10月5日火曜日

オーストラリア。ブラインド・クリケット用スマート・オーディオボールを開発。動きが停止してしまっても電子音でボールの位置を確認することができる。

White prototype cricket ball.

画像引用元:manmonthly.com.au


クリケットという球技をご存知でしょうか。日本でこそマイナーなスポーツですが、発祥地である英国をはじめ、インドとその周辺国、南アフリカ、オーストラリアなどでは国民的スポーツとして熱狂的な人気を得ています。

詳しくはないので解説はできませんが、とにかくピッチャーが投げたボールをバッターが打ち得点を競う、野球ににたルールの球技のようです。英国発祥のスポーツらしく、試合の合間にティータイムが設けられているなど独特の作法があるのも特徴的です。


そしてこれらの地域では、視覚障害者が参加できるスポーツとして「ブラインド・クリケット」が定着しており、ワールドカップも開催されています。オーストラリアでは1922年から競技スポーツとして親しまれている歴史のあるパラスポーツなのです。


ブラインド・クリケットの試合ではボールを視覚的に確認できない選手のため、中に鈴やベアリングが仕込まれているオーディオ・ボールが用いられます。通常のものよりもわずかに大きなこのボールを使うことで、音を頼りにボールを打ったりキャッチすることができるようになるわけです。

同様の仕組みを持つオーディオ・ボールは視覚障害者向けの球技、ゴールボールやブラインドサッカー、サウンドテーブルテニスなどでも採用されていますが、このようなボールには「動きが止まると音がならなくなる」という大きな欠点があります。

競技にもよりますが、この欠点を逆手に取り、あえてボールの動きを止めることで対戦相手から「ボールの存在を消す」テクニックを使いこなすアスリートもいます。しかし大抵の場合、予期せずボールが止まってしまうと、ボールの位置を確認するためにゲームを中断しなければなりません。


そこでオーストラリアのブラインド・クリケット支援団体、Blind Batsの代表であるPaul Szep氏は、スマートフォンアプリから遠隔操作でき、電子的なオーディオが連続して再生されるスマート・ボールのアイデアを思いつきました。この新しいオーディオ・ボールを実現するためには、繰り返されるバットの打撃による衝撃に耐え、ブラインド・クリケットのルールに沿った大きさと重さを守らなければなりません。

このアイデアに応え、世界初のインテリジェントなクリケットボールである「Kookaburra SmartBall」を開発したKookaburra社は、3Dプリントによるプロトタイプ制作を得意とするGoProto社と協力し、ステレオリソグラフィー(SLA)による新しいブラインド・クリケット用のオーディオ・ボールを制作しました。

完成したウレタン素材のプロトタイプは公式ゲームのレギュレーションにも適合しており、近日Blind Batsが開催するゲームでお披露目されるとのことです。


このようなスマートなオーディオ・ボールの開発は他にもモントリオール大学によるオーディオ・アイスホッケーパックなどのプロジェクトが進められています。クリケットと比べこちらはさらに、低温と水分という大きな課題を克服する必要があったようです。


長い歴史を持つ視覚障害者向けパラ球技に、これらのようなテクノロジーがどれだけ受け入れられるのか、興味深いところです。おそらく歓迎一辺倒ではないような気がします。先述のようなアナログなボールならではのテクニックが編み出されている状況では、スマート・ボールの登場は大きなルール変更にも等しいものがありそうですからね。レクリエーションならまだしも、こと競技スポーツに関しては最新のテクノロジーの導入が必ずしもベストではないのかもしれません。

まあそれはさておき、個人的にはこのようなスマート・ボールを活用したビリヤードとか、新しいブラインド・スポーツを考える方が面白そうでは?と思ったりしたのでした。


参考:Smart cricket ball is developed for visually impaired players (manmonthly.com.au)


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