2022年8月7日日曜日

[メモ] 全盲的:日本科学未来館見学記(2022-7-10)

ランチでいただいた「NEXTメンチカツサンド」の写真です。代替ミートで作られたメンチカツと千切りキャベツがパンに挟まれてお皿の上に鎮座しています。


※このエントリーは「AIスーツケース体験記@日本科学未来館」の続きです。


AIスーツケース体験会も午前中のうちに無事終了。せっかくなので日本科学未来館の中を一通りうろうろしてみることにしました。

この日は日曜日ということもあり、館内は大勢のチビッ子たちで大賑わい。圧倒的な場違い感の中で全盲のおじさんがどこまで楽しめるものなのか。気がついた点など記憶の限りメモして見ます。


まずは3Fと5Fにある常設展示エリアを見学。

一部の常設展示では主に視覚障害者向けに「触れられる展示」が用意されているとのことで、未来館のサイエンスコミュニケーターの方に案内していただきました。私がこの日に体験できたものは以下の通りです。


  • (5F)子宮内の胎児が成長する過程を原寸大のレリーフモデルに触れて学べる展示。これはAIスーツケース体験会のコースに含まれていました。
  • (3F)細菌やウィルスの大きさを触れて比較できるレリーフ展示。
  • (3F)さまざまな細菌の形を確認できる3dモデル。
  • (3F)人間の臓器に存在する細菌の分布を表現した点図触覚グラフ。


いずれも視覚情報を触図や3Dモデルとして表現したもので、視覚障害者にとっては馴染み深いフォーマットです。子供や車椅子ユーザーなどでも触れやすいよう、少し低い位置に展示されているという配慮もありました。

点字などテキストによる解説は用意されておらず、コミュニケーターの方から説明を受けながら触れるという見学スタイルです。ちなみに3Fで触れられた細菌の3Dモデルですが、ふわふわの可愛いマスコットとして1Fミュージアムショップで販売されているので、最近、細菌が気になる人は要チェック。


全体から見れば視覚障害者向けの触れられる展示はまだごく一部です。ただ他の展示が全く楽しめないかといえばさにあらず、他にも結構いろいろ面白いものがありました。

例えば国際宇宙ステーションを模した展示では反響音で展示ブースの独特の狭さを感じたり、無重力空間ならではの場所、例えば低い天井などについている手すりに触れられたりします。また3Fのとある場所では、空調の効いた空間の中から突然土の匂いがふわりと感じられました。この不意打ち感、これはどうやら自然界に存在する細菌についての展示だったようです。土の感触も確かめられました。

触図や模型による情報提供は重要ですしさらなる充実を望みますが、上記のような手で触れたり音声による説明以外の感覚(空間の響き、床の完食、匂いや温度など)で体験できる仕掛けが充実すれば、視覚障害の有無にかかわらず楽しめるのではと思ったりしました。


他にもデモしているロボット君に触れさせてもらったり、ネットワークの仕組みを表現したピタゴラ装置的な展示から発せられる音に耳を傾けるなど、あちらこちらに興味をそそるものがありました。ガラス越しの展示も少なくはありませんが、触れたり音が出る仕掛けも多いため、見えなくても比較的退屈しません。

ただやはり体系的に展示内容を理解しようとすると補足説明は必要で、視覚障害者向けにポイントを抑えたツアーのようなものがあると良いのになとも思いました。


ひとつ残念というかもったいないなと感じたのがアプリを使った音声ガイドについて。

未来館の各エリアでは、公式アプリ「Miraikanノート」を用いた音声ガイドが提供されています。展示コーナーにあるマーカーにアプリをインストールしたスマートフォンをかざすと音声ガイドが流れる仕組みなのですが、このアプリ、ボタンに的確なラベルが付けられておらずスクリーンリーダーでは使いにくいのです。

この件をアクセシビリティ・ラボの方へお伝えしたところ、どうもこのアプリ、現在はメンテされていないようで、代わりとなる新しいアプリを鋭意検討中とのことでした。

またアプリといえば未来館では「インクルーシブ・ナビ」も利用することができます。これは目的地を指定すると利用者の状況に応じた道案内を提供してくれる屋内ナビゲーションアプリ。現時点で視覚障害者モードには対応していないため私には使えませんでしたが、車椅子ユーザーやベビーカー利用者には便利かもしれません。

ちなみにインクルーシブ・ナビについては2019年末に書いた私のレポート

がありますのでご参考まで。ただし仕様変更などあるかもしれませんので、その辺りあしからずです。


見学の合間には、7Fの未来館キッチンへ突撃。

どうせならそれっぽいものをとオーダーしたのは「NEXTメンチカツサンド」。原材料に大豆ミートなど植物性の食材のみを使っているという、この日の一押しメニューです。

ちなみに未来館キッチンのシステムは基本アナログ的。印刷されたメニューを見て有人カウンターからオーダーすると無線端末が渡されます(ここは少しだけハイテク)。あとは端末に通知が届いたらウケトリカウンターから食事をピックアップするという流れです。飲み物もセルフサーブなので全盲だけだとちょっと苦戦するかもしれません。食べ物の持ち込みは可能なので、お弁当持参の方が無難かも?

さて話は戻りNEXTメンチカツサンド、率直に申し上げれば「代替肉だなあ」というよりは「大豆ミートだなあ」という感想です。おいしくなくはないのですが独特のクセが微妙にあり、ちょっと濃いめのソースでなにかを突破しようとしている意志を感じました。

ここでふと代替食品と視覚情報の関係について思いを巡らせて見ます。例えば今回のような代替肉の場合、みためがお肉に近ければ近いほど味覚に対してポジティブな影響があるのではないかと思うわけです。 そう考えると代替食品って、外観から影響を受けにくい視覚障害者にはハードルが高いのではないか……直感として視覚と味覚の間には密接な関係があるような気がします。


さて全盲の視覚障害者のひとりとして日本科学未来館は、若干物足りなさを感じつつも楽しめる博物館でした。

少なくとも見えなくなってから訪問した場所の中では体験できるコンテンツも多く、わくわくする独特な雰囲気も良かった。何より全盲の浅川氏が館長というのは気後れせずに訪問できた要因の一つであるのは間違い無いでしょう。ただその分ハードルが上がっていたため細かいところが気になったりもしたわけですが。

個人的に自然科学系の博物館には、単純に展示物をみるというだけでなく実際に経験して学習する楽しみを求めているので、今後のアクセシブルな展示の充実に期待したいところです。特に映像コンテンツにはぜひ音声解説をつけて欲しいなあ。

また展示をアクセシブルにするだけではなく、むしろそれを実現するためのテクノロジーそのものを目的に障害者が集まる、最新支援技術のショーケース的な場所になるのも面白いのではないかと妄想したりもしたのでした。


ただ現状では全盲が一人でふらっと遊びに行くためには交通アクセスを含めまだ障壁が多いようにも感じます。単独で得られる情報がちょっと少ない。見える人と一緒に行った方が安心だし楽しめるかもしれません。

現在日本科学未来館ではアクセシビリティの向上について継続的に取り組まれているとのこと。今後は展示やイベントにおけるアクセシビリティはもちろんのことですが、同時にアクセスの改善やWebなどを通じた情報提供など、包括的なバリアフリー環境の整備が望まれます。


ともかく日本科学未来館は全盲のおじさんの記憶にさまざまな印象を残した良い施設でした。やっぱりミュージアムは楽しいなというのが最終的な感想です。展示のアップデートや興味のあるイベントがあればまた訪問したいと思います。

それにしても、ゆりかもめにノルト、なぜか一気にピクニック気分になりますね。ちょっとした大人の遠足的な、夏の1日でした。

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