スクリーンリーダーは、視覚障害者がWebから情報を入手するための必須アイテム。Webに含まれる文字情報を音声に変換して読み上げることで、情報を耳から得る仕組みだ。
ところで、この「スクリーンリーダーで読む」という行為に対し、皆さんはどのようなイメージをお持ちだろうか?
声が不自然だとか、読み間違えが気になりそう、という感想は、実にごもっとも。AI隆盛の昨今、テクノロジーで解決できることは早く対応していただきたいものである。
ただ「目で読むよりも、読むのに時間がかかりそう」というイメージには疑義の念を抱かずにはいられない。本当にスクリーンリーダーでの情報取得には時間がかかるのだろうか?
気になったので調べて見ることにした。
一部のニュースサイトには、各記事に、文字量から想定された「読了時間」が記載されている。おそらく平均的な数値を目安として表記していると考えられるが、この読了時間とスクリーンリーダーでの読み上げ時間を比較して、どれだけ差が発生するか調べてみた。
検証はmacOS 10.13.6のVoiceover、ブラウザはSafariを使用した。
今回調査したのは以下の記事。読了時間は「約10分」。
見出しを見つけるのも「読む」一部
さて、記事へアクセスしたとしても、スクリーンリーダーでは、すぐに本文を読むことはできない。カーソルをナビゲートして、記事のタイトルを探さなければならない。この「本文へ到達するまでの手間と時間」も、スクリーンリーダーでの読了時間に含まれると考えるのが自然。ということで、まずはその時間を調べる必要がありそうだ。
上記の記事において、Voiceoverを使った場合の、記事タイトルへ到達するまでの工程と要した時間を調べてみた。
(1) VO + 矢印キーのみを使う場合
見出しレベル1の記事タイトルまで26回のキー操作。13.51秒。
(2) Webローターの見出しジャンプを使う場合
VO+Command+左右矢印で「見出し」を選び、VO+Command+下矢印2回で到達。6.42秒。
(3) 1文字クイックナビで「見出しレベル1」へジャンプする場合
左右矢印を同時押しし、「1」を2回で到達。4.92秒。
(事前に「VO+’Q’ 」で1文字クイックナビを有効にしておく)
タイトルまでどれだけスムーズに移動できるかは各サイトの構造によって大きく異なるが、一般的には1文字クイックナビゲーションで「見出しレベル1」を探す方法が最も早い。サイトによっては記事タイトルの見出しレベルが「2」だったり「3」だったりするので、その辺りは臨機応変に行こう。このブログも記事タイトルは「み出しレベル3」だったりするので……。
なおどれが記事タイトルか判別できないときは「VO+F2」でSafariのウィンドウ情報を読み上げさせよう。たいてい記事タイトルがウィンドウの名前に指定されていることが多いからだ。
本文の読み上げ時間を調べる
ではいよいよ、本文を読み上げる時間を計測して見る。
見出しレベル1のタイトルを読み上げたら「VO+’A’」で記事の末尾)この記事の場合はプロフィールの最後)まで読み上げさせ、その時間を計測した。
なおVoiceoverのボイス速度は「85%」に設定している。
結果:6分53.1秒
なんと、結構早いではないか。
目安の読了時間よりも、役31%早く読むことができた。
速度85%は慣れないと聞き取りにくいかも知れないが、使いこなしている視覚障害者の中では、まだ遅い方である。
それにしても、タイトルの見出しを探す時間を考慮しても、少なくとも目安の読了時間よりスクリーンリーダーの方が早く読み終わるのは、正直意外な結果だった。ただ、タイトルをなかなか探せずにもたついていると、あっという間に時間を消費してしまいそうなので、その辺りはWebナビゲーションの習熟度が大きく影響思想だ。
続いて、Safariの特徴的な機能である「リーダー」を使った場合。
記事にアクセスして「Command+Shift+’R’」を押す。
即座に「VO+’A’」でキジラストまで読み上げた時間を計測。
結果:6分40.7秒
目安である読了時間よりも役33%早読みである。
今回の記事では、リーダーで省略されるコンテンツが共有ボタンとタグくらいだったのであまり差は出なかったが、広告が多く含まれる記事ならさらに短縮が期待できる。
リーダーで記事本文を一発抽出できれば、Webナビゲーションの技術は関係ない。
ただリーダーが必ずしも有効なサイトばかりではないので、頼りすぎずにナビゲーション操作もしっかり覚えておいた方が良いだろう。
追加調査とまとめ的なもの。
流石にサンプルが1記事ではどうかと思うので、別サイトで調べてみた。調べたのはこの記事。読了時間は「約3分」。
計測結果は「2分14.6秒」(リーダー使用)だった。
リストの項目数を報告したり、「・」を「行頭記号」と読んだりする部分で少しロスはあったものの、これも目安の読了時間よりも約26%早く読むことができた。
記事によっては、冗長なURLや画像に意味なく長い代替テキストやファイル名が指定されているとタイムロスの要因になるだろう。
というわけで、スクリーンリーダーの読み上げは、決して「だだ遅い」わけではないことがわかる。今回はMacを使用下が、Windows + NVDAでも読み上げスピード次第で同様の結果になると想像できる。あとは、いかにスムーズにWebをナビゲートできるかが時間効率をあげるポイントではないかと思う。
もちろん、基準となる読了時間が実態に即しているかはよくわからないし、視覚と聴覚から得られる情報の性質には大きな相違点が存在するので単純な比較はあまり意味はないのかも知れない。
ただもしスクリーンリーダーを使うことがハンデのひとつと感じているのであれば、少なくとも「数字の上」では、スクリーンリーダー使いも晴眼者と互角に情報を入手できるのだ、という自負を持つのも悪くないのではと思うのだった。
無論、まだまだWebにはバリアは多い。
そのあたりは突っ込みつつ情報生活を楽しんでい行きたいものである。
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