画像引用元:science.org
去る10月15日は世界白杖デー、そして「ヤンキー君と白杖ガール]のドラマ化などの影響もあり、視覚障害者の象徴ともいえる「白杖」に、にわかに注目が集まっています。
そんな状況に合わせたかどうかはわかりませんが、米国で「ロボット白杖」に関する二つの研究が立て続けに発表されました。
従来の白杖にセンサーや通信機能を加え障害物検知やナビゲーション機能などを実装した「スマート白杖」は世界中で開発されいくつかは商用化もされています。ロボット白杖とはスマート白杖の一種であり、ホイールやタイヤなど視覚障害者を支援する物理的な機構を持つものを指します。
2021年9月、米国バージニア・コモンウェルス大学(VCU)工学部コンピュータサイエンス学科のCang Ye教授らの研究チームは、屋内環境で視覚障害者を誘導するロボット白杖に関する研究を発表しました。
GPSなどの衛星測位システムが利用できない屋内で現在地を推定し移動ルートを決定するため、研究チームは白杖にロボット制御に用いられる技術を詰め込みました。
この白杖には物体までの距離を測定するカラー深度カメラ(Intel RealSense D435 RGB-D)、および加速度センサーやジャイロスコープなど複数のセンサーを統合した慣性計測ユニット(IMU)(VectorNav VN-100)が搭載されています。
これらのセンサーから得られた情報をDVIO(Depth-enhanced Visual-Intertial Odometry)と呼ばれるアルゴリズムによって計算し、周囲の環境を3Dマップとしてリアルタイムに構築。これを制御ユニットにあらかじめ保存されている屋内マップデータと照らし合わせ、現在位置を推定します。
ロボット白杖は音声コマンドで指定された目的地までのルートを計算し、石突きに搭載されている電動ホイールを回転させ、障害物を避けながらユーザーを誘導します。石付きが地面に接している時はロボットモード、離れている時は通常の白杖として動作します。
研究チームは今後の実用化に向け、コストの削減と軽量化を進めていくとのことです。
一方、VCUの発表からまもない2021年10月、米国スタンフォード大学のバイオエンジニアリング博士研究員であるPatrick Slade氏らによる研究チームも、同様の仕組みを持つロボット白杖に関する詳細を発表しています。
VCUの白杖が屋内ナビゲーションに特化していたのに対し、こちらは屋外での利用にも対応したものとなっています。
この白杖には物体までの距離を測定するLiDARスキャナ(スラムテックRPLIDAR-A1)、標識やマーカーを識別するカメラ(Raspberry Pi カメラモジュール V2)、屋外で位置情報を取得するGPSモジュール(Adafruit Ultimate GPS Breakout)、そしてユーザーの姿勢や向きを推定する慣性測定ユニット(INU)(Adafruit Precision NXP 9-DOF Breakout Board)が内蔵されています。
これらのセンサーから得られた情報は Raspberry Piで処理され、石突きに取り付けられたNexus Robot社のomni wheelを制御しユーザーを誘導します。omni wheelは通常ユーザーの歩行速度に従いフレキシブルに回転しますが、歩行ルートを外れたり曲がるポイントに到達するとモーターが動作し左右方向へユーザーを誘導します。
ナビゲーション機能としては、屋内ではクローズドループ・アルゴリズム、屋外ではGPSを用いた誘導を行い、いずれのモードでも障害物を発見すると衝突を回避するように歩行ルートを組み替えます。またカメラで捉えたマーカー(停止標識)を認識し、それに向かって誘導する機能も備えています。
研究チームは従来の音声・振動を用いるターン・バイ・ターン方式のナビゲーションと比較し、ホイールの運動によるナビゲーションが直感的でありユーザーの認知的負担を軽減することができると語ります。要するに何も考えずに目的地まで移動できますよ、ということ。歩行実験では音声によるナビゲーションと比べ、ロボット白杖では移動速度が平均で20%向上したという結果が得られました。
研究チームは設計図や制御ソフトウェア、構成パーツに関する情報を公開しており、製作に必要なコストはおよそ400ドル程度とのことです。
さて、立て続けに発表された二つのロボット白杖ですが、細かい違いはある者の搭載しているセンサーの種類やホイールによる誘導方法など共通している部分が多いことがわかります。何か関係あるのかな?とも思いますがそのような記載は見つけられませんでした。もしかしたら実は他にも同様の研究が世界中あちこちで進められているのかもしれません。
当事者として気になるのはその実用性でしょう。ナビの性能に関しては使ってみないことにはなんとも言えませんがどちらの研究チームも指摘しているように最大のネックはその「重さ」にあるような気がします。
スタンフォード大学のロボット白杖の重さはおよそ3ポンド(約1.3 Kg)と既存のスマート白杖と比較すると軽量とのことですが、一般的な白杖(200から400グラム)と比べるとまだまだ思いと言わざるを得ません。いつもの調子で振ってるとあっという間に腱鞘炎になりそうです。
いかにして白杖のフィーリングを保ったままハイテク化するか。スマート白杖という分野を定着させるためにも今後の大きな課題となりそうです。
正直なところこのロボット白杖、どちらかと言えばAIスーツケースやロボット盲導犬に近いものであるように思えます。
従来の白杖を置き換えるものではなく、あくまでも新しいモビリティ支援デバイスとして捉え直した方が幸せになれるのではと思ったりします。
まあ技術者としてこの歴史ある一本の棒にイノベーションの余地を見出しているというのも理解はできるのですが、ここは当事者の声に耳を傾け実情に沿ったリアリティのある技術開発を目指していただきたいものです。
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