2021年5月16日日曜日

[粗訳] 英国Virgin Trainsの「しゃべるトイレ」の奇妙な物語。

このエントリーは「I Can See You: The Strange Story of Virgin Trains' Oddly-Aware Talking Toilets (thedrive.com)」から一部抜粋し翻訳、要約、加筆したものです。支援技術とは、ほぼ関係ありません。あしからず。


もしあなたが電車のトイレに夢や希望、金魚などを流したいと思ったことがあるなら、ちょっと待って。まずはトイレ側の意見に耳を傾けてください。

数年前英国の鉄道会社は、乗客が列車の配管にゴミを詰まらせないようにするため「しゃべるトイレ」を作るという斬新な解決策を思いつきました。

トイレは初めのうち何の問題もなく、利用者に向かって軽快に禁止事項を読み上げていました。しかし時が経つにつれ、事態は暗転し……不気味な自意識過剰を見せ始めたのです。

トイレはまず「私にはあなたが見える」と言い出しました。その後、その訴えはあきらめの色を帯びはじめ、最後には映画「Her」の悲しいコンピュータのように突然消えてしまったのです。

これは、かつてVirgin Trainsに存在していた「しゃべるトイレ」の奇妙な物語です。


話は、Virgin Trainsがトイレの悪臭問題の解決方法を模索し始めた2013年にまで遡ります。同社は長年トイレのトラブルに悩まされており、乗客から大きな不評を買っていました。この問題を解決するためにはトイレの詰まりを防ぎ、配管を正常に保たなければなりません。

そこで、Virgin Trainsは不遜にも、乗客に向け「おい、それ流すなよ」と音声メッセージを流すというアイデアを考えついたのです。当時のVirgin Trainsには、深刻なトラブルに対し(よくいえば)「親しみやすく」「インパクトのある」手段を採用する傾向があったようです。

やがて同社はイングランド北西部、ウェストミッドランズ、スコットランドを運行する76編成の電車に「トーキング・トイレ」を導入しました。


最初の音声はシンプルで、トイレの蓋に貼られた禁止事項のリストと同じものを、淡々とした声で読み上げるというものでした。


動画1:Virgin Pendolino Train Toilet Talks - YouTube


Please don't flush nappies, sanitary towels, paper towels, gum, old phones, unpaid bills, junk mail, your ex's sweater, hopes, dreams or goldfish down this toilet.

どうかこのトイレにおむつ、生理用品、ペーパータオル、ガム、古い電話、未払いの請求書、迷惑メール、元彼のセーター、希望、夢、金魚などを流さないでください。


禁止事項のリストに若干の違和感はあるものの、口調は丁寧で事務的です。文字だけだとスルーされがちな注意喚起も、自動音声なら多くの人々に訴える効果はありそうです。この音声の評判は上々で子供たちにも大ウケ。視覚障害者にも役立ちました。

しかしトーキング・トイレの進化はこれだけでは終わりませんでした。Virgin Trainsは2017年、一部列車のトイレのアナウンスを映画「Daddy's Home 2」のプロモーションとして俳優Will Ferrellに担当させたのです。


動画2:Will Ferrell in train toilet, November 2017 - YouTube


I'm Will Ferrell. The star of the new movie Daddy's Home 2. you'll be pleased. 

You can't see me, but I can see you. Only joking! I'm just joking.

please don't try to flush a nappy, sanitary towel, paper towels, unwanted Christmas jumpers, turkeys, Christmas lights over granddad's down. thank you. 

私はWill Ferrellです。新作映画「Daddy's Home 2」の俳優です。皆さんに喜んでいただけると思います。

あなたには私が見えませんが、私にはあなたが見えます。冗談!冗談ですよ。

どうかトイレにおむつ、生理用品、ペーパータオル、不要なクリスマスジャンパー、七面鳥、サンタのクリスマスイルミネーションなどを流そうとしないでください。ありがとう。


トイレでいきなり「I can see you]なんて言われたら相当びっくりですね。そもそも映画のプロモーションで俳優にトイレを演じさせるという規格そのものが、よく考えてみるとかなりシュールです。


それはさておき、これらのアナウンスは、トイレ詰まりを防ぐという目的においては一定の成果をあげたようです。それでも一部の乗客は「奇妙なもの」を流すことをやめませんでした。Virgin Trainsが公開したプレスリリースによると、列車のトイレの配管からは、眼鏡、結婚指輪、おむつ、マンチェスター・ユナイテッドのスカーフと一緒になったブラジャーなどが発見されたそうです。

この厳しい現実に何か思うところがあったのでしょうか。2018年に更新されたアナウンスには、これまでとは明らかに様子がおかしい、諦めのような感情がにじみ出ていました。


動画3:Virgin Trains Iconic “Talking Toilet” - YouTube


Hello. It's me, the toilet. I just wanted to ask if you wouldn't mind not flushing wet wipes, sanitary towels or nappies? The usual stuff's totally cool, 

I mean, I knew what I was getting myself into when I applied...to be a toilet, yeah it's a great job. You know, I used to be a public toilet and let me tell you, this is a step up! Ahhh. Anyway, uh. Carry on,

こんにちは。私です、トイレです。ウェットティッシュや生理用品、おむつなどを流さないようにしてもらえませんか?通常のものは問題ありません。

そう、私がトイレになった時、自分が何をしようとしているのかわかっていました……これは素晴らしい仕事です! そう私の前職は公衆トイレでした。言わせてください、これはステップアップです! あぁ……でもね……あぁ、どうぞ続けてください。


低姿勢かつうんざりした口調は、何か悲哀を感じさせます。あんなに金魚だとか七面鳥だとか入れていた禁止事項のところでジョークを入れなくなったあたりも気になります。トイレの精神的な余裕の喪失が窺えます。むしろ同情を誘っているようにも聞こえます。

ただこの正直な音声は2年足らずで引退を余儀なくされました。というか2年近くもこの音声が流れていたことを想像すると、何か味わい深いもの覚えます。


その後、Virgin Trainsは2019年、何を思ったのかトーキング・トイレの音声を広く一般から募集するというコンテストを開催したのです。

応募総数は5200人以上にもおよび、その中からManchester在住のMattさんが、トイレの声を演じるという、これ以上ない輝かしい栄冠を勝ち取りました。


動画4:The new Virgin Trains toilet...Matt from Manchester - YouTube


Well actually it's Matt from Manchester. I entered a competition to be the voice of this loop, and look, I'm famous. 

This live our special dietary requirements he can't handle wet white, now these all sanitary towels, to pop those in a bit. Enjoy journey Celia.

えっと、マンチェスターのMattです。このループの声を担当するためにコンペに参加したんだけどさ、見て、僕はもう有名人だね(以下同でもいいので略)


ところがこの音声が登場してまもない2019年12月、Virgin TrainsはAvanti West Coastへ路線を譲渡する形で鉄道事業から撤退。、Avantiは設備の大幅な改修を行い、その過程でトーキング・トイレは、あっさりその姿を消しました。


トイレを詰まらせる乗客とトーキング・トイレとの戦いは、Virgin Trainsの消滅とともにあっけない結末を迎えたのでした。この数年余りの間、トーキング・トイレの主張がどこまで英国の人々の心に刻まれたのかは知る由もありません。彼らの魂は今どこを漂っているのでしょうか……。

それにしてもとかく無難な仕様になりがちな音声案内、しかも公共交通という設備で、ここまで ふざけた姿勢を貫くというのはいかにも英国らしさを感じます。当初の「トイレ詰まりを防ぐ」という目的からどんどん逸脱していき、最後はコンテストですからね。もしVirgin Trainsが続いていたとしたら、一体トイレはどんな言葉を語っていたのでしょうか。もう今となっては想像するしかありません……。


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