2020年1月28日火曜日

視覚障害者の写真撮影と「Seeing AI」の活用。


インターネットを通じたコミニュケーションにおいて「写真」を抜きに語ることはできないだろう。Instagramを例に出すまでもなく、個人・マスメディアにかかわらず写真は情報を伝達するための重要な要素となっている。どんなに言葉を尽くしても、写真の持つ情報量とインパクトは圧倒的だ。

そしてそれは、視覚障害者にとっても同じこと。
旅行に出かけたら、美しい風景やグルメを写真に納めてSNSで共有したり、子供の写真をプリントして離れて住む父母に送ったりしたい。たとえ自分ではその写真を見ることが出来な意としても「伝えたい気持ち」は見えている人々と同じなのだ。それは見える人々とのコミュニケーションの一つでもあり、もしかしたら未来にやってくるかもしれない「見る技術」を手にした自分に宛てた贈り物かもしれない。

ただスマホやデジカメの液晶画面が見えない視覚障害者が、単独で写真を撮影するには、被写体の距離などをざっくり推測し「カン」で撮影するしか方法がなかった。写真を撮るというニーズがあるにもかかわらず、それを支える技術はほとんど用意されていない。
「視覚障害者と写真」というと、どうしてもWeb上にある画像の代替テキストなど「写真からの情報を受け取る」部分にばかりに注目が集まりがちだ。もちろんそれも重要ではあるのだが、視覚障害者が写真を発信するという面には比較的スポットが当てられてこなかったように思える。それは「見えなければ写真は必要ない」という思い込みもあったのではないだろうか。

2019年12月のアップデートで日本語化されたMicrosoftの「Seeing AI」は、視覚障害者と写真との関わりを大きく変える可能性をモッているiPhone/iPad用アプリだ。
このアプリには、撮影した写真に写っている人物やオブジェクトを画像認識AIで解析し音声で伝えてくれる「シーンプレビュー」というモードがある。そして重要なのが、このモードに含まれる「写真の探索」と呼ばれる機能だ。これは写真をタッチし認識された顔やオブジェクトがどの場所に写っているかを音声で確認することができるというもの。
視覚障害者の写真撮影では、被写体をフレーム内に収めることが最も難しい。カメラレンズの向きをいくら確認しても、ちょっと傾いただけで失敗写真が出来上がってしまう。
撮影した被写体がAIで認識できることが前提だが、Seeing AIのこの機能を使えば、少々手間はかかるものの、単独である程度被写体がフレームに収まった写真を撮影できる可能性が出てきたのだ。

ということで本エントリーでは、Seeing AIを用い、画面を見ずに写真を撮影する、2通りの方法を紹介しよう。一つはSeeing AI単体で撮影する方法、もう一つが標準「カメラ」アプリと組み合わせる方法だ。

※本エントリーで用いたiOSのバージョンは13.3、Seeing AIは3.3。Voiceoverの使用を前提に書いている。解説している機能などについては筆者が独自に調べたものであるため、アプリやOSのバージョン、環境により異なる結果になる場合がある。

Seeing AI単体で写真を撮影する。


この方法では、主にSeeing AIの「シーンプレビュー」機能を用いて写真を撮影し、構図を確認。撮影した写真を共有したり保存して活用できる。大まかな手順は以下の通り。

  1. Seeing AIを起動し「シーンプレビュー」を選択。
  2. 「撮影」をタップして写真を撮影する。
  3. 写真が解析され、認識された風景やオブジェクト、人物が説明される。
  4. 「写真を探索」をタップし、タッチで被写体の位置を確認する。
  5. 目的の被写体がフレームに入っていなければもう一度撮影する。

この段階では、まだ写真はiPhone内に保存されておらず、「戻る」をタップすると撮影した写真は失われてしまう。写真を保存するには写真を他のアプリへ共有するか、ライブラリへ登録する必要がある。

「共有」をタップして共有先アプリを選択することで、写真をSNSへアップロードしたりクラウドストレージへ保存することができる。試しに「ファイル」アプリへ写真を共有しiCloudで同期したMac側で確認したところ、写真のサイズは1920 × 1080ピクセル、容量はPNG形式で約3.6 MBだった。

また「写真を保存」をタップすると、撮影した写真がiPhoneのフォトライブラリへ保存される。写真アプリを開くとアルバムに「Seeing AIの写真」という名前のアルバムが作成され、そこへ写真が保存されていることが確認できる。
「写真」アプリでは解析された説明文を確認することはできないが、Seeing AIの「メニュー」>「写真の参照」を開くと、説明文を確認したり写真の探索も実行できる。この画面から「共有」ボタンで「ファイル」へ共有したところ、サイズは768 × 1365ピクセル、容量はPNG形式で約1.4 MB。「写真」アプリから共有した場合でも、解像度は同じだった。

試した範囲で分かるのは、「写真」へ登録すると写真のサイズが縮小されてしまうということ。かといってSeeing AIの「シーンプレビュー」画面から共有すると解析された説明文が残らないのでちょっと悩むところかもしれない。

標準カメラとSeeing AIを組み合わせる。


この方法では、写真の撮影をiOS標準の「カメラ」アプリで行い、その写真をSeeing AIで解析、構図を確認して活用する。主な手順は以下の通り。

  1. 「カメラ」アプリで写真を撮影する。iOSの音声アシスト機能が使える。
  2. Seeing AIを起動し「メニュー」>「写真の参照」をタップ。
  3. 写真がリストアップされる。デフォルト設定では撮影が新しい順に並んでいる。
  4. 先ほど撮影した写真をタップして開く。
  5. 写真が解析され、認識された風景やオブジェクト、人物が説明される。
  6. 「写真を探索」をタップし、タッチで被写体の位置を確認する。
  7. 目的の被写体がフレームに入っていなければもう一度撮影する。

Seeing AIの「共有」をタップし写真を「ファイル」へ送信、iCloudで同期したMacで確認したところ、サイズは4032 × 3024ピクセル、容量はPNG形式で約12 MBだった。同じ写真を「写真」アプリから共有しても解像度は同じだった。このサイズであれば、プリントやトリミングして利用する場合でも、クオリティ的には十分だろう。

Seeing AI単体で撮影する場合と比べると、やっぱり「ちょっと面倒」なのがデメリットだろうか。あらかじめカメラで複数枚撮影しておき、Seeing AIでまとめてチェックした方が効率的かもしれない。なおSeeing AI側から失敗した写真を削除することもできる。
ちなみに「写真の参照」画面では、写真を表示している画面で3本指左右スワイプすることで写真をどんどん切り替えながらイメージの解析ができるので覚えておくと便利だ。

ちょっと手間でも「カメラ」を使った方が良いかも。


視覚障害者がSeeing AIを用いて「残したい写真」を撮影する2通りの方法を示した。
撮影してタッチで確認するとなるとある程度時間が必要なため、活用できるシーンは限られるかもしれない。だがこれまで当てずっぽうで撮影してきたことを考えると、可能性は感じられるのではないだろうか。

これらの方法を比べてみると、大きく異なるのが保存される写真の解像度だ。「カメラ」を用いた場合、4倍以上の解像度で写真を残すことができる。解像度が高ければ、後で見える人に頼んで加工してもらう場合でも画質の劣化を最小限に抑えられる。

「カメラ」を使用するメリットはもう一つある。それは撮影中の音声アシスト機能が利用できることだ。Voiceoverを有効にしていると、カメラアプリは被写体がフレームのどのあたりに入っているかを(かなり大雑把だが)音声で教えてくれたり、iPhoneの傾きを微調整するよう指示してくれる。特に被写体が人物の場合は顔検出機能が働き、フレームに何人が入っているかまで教えてくれる。現在のところSeeing AIの「シーンプレビュー」モードではこのような機能は提供されていない。将来的にこのようなアシスト機能が進化すれば、もっと素早く確実な撮影ができるようになるだろう。

ちょっとした風景をそのばで知りたい時はSeeing AIだけで解析するのが手軽で便利だが、後で活用するための写真をできるだけきれいに撮影するなら少々面倒でも「カメラ」で撮影し、Seeing AIを用いて解析・確認する方が良いだろう。

視覚障害者にとって、写真撮影にはまだまだ高いハードルがあるのは事実。だがカメラのアシスト機能やSeeing AIの登場は、このハードルを少しだけ下げてくれた。
これまで困難だったと思われていたことがテクノロジーによって可能になる。
音声を使った写真撮影はその良い例の一つといえるだろう。

今後はより高度な撮影アシスト機能や、構図やトリミングをオートで行ってくれる機能などが求められるだろう。そのような技術は、カメラをしっかりホールドできない運動障害を持つ人々や、高齢者をはじめとしたカメラに不慣れな人々にも恩恵を与えるのではないだろうか。
結構、見えてるのにフレーミングが苦手な人、多いと思うよ。

カメラの進化といえばどうしても画素数やレンズ品質など、クオリティに偏りがちのように思えてならない。だが写真撮影のアクセシビリティに関しては、まだまだ改善するよちがあるのではないだろうか。障害を持っていてもカメラが苦手でも、誰もが写真をもっと楽しめる、そんな時代がきて欲しいと思うのだった。


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