英国ケント大学の学生が開発したiPhone用アプリ「Stay on Route」の記事を興味深く読んだ。これは、電車の乗り過ごしを防止するアプリで、視覚に障害を持つ開発者の友人が、電車を利用するたびに降りる駅を間違えないよう、常に緊張を強いられるという悩みが開発のきっかけという。なるほど、都市に暮らす視覚障害者にとって「電車の乗り過ごし」は万国共通の悩みのようだ。
もちろん、ほぼ全盲の筆者も同様だ。
晴眼の同行者がいたり駅員の補助をお願いしていれば問題はないが、単独で電車を利用する場合は、乗り過ごしとの戦いが始まる。障害があるなしに関わらず乗り過ごしはダメージが大きなトラブルだが、移動や情報が制限される障害者にとってはそのダメージの大きさは計り知れない。知らない駅に放り出されるなんて、想像するだけでゾッとしてしまう。
乗り過ごしを防ぐには、情報の確認が不可欠だ。目が見えれば車窓の風景や停車直前のホームにある駅名を確認したり車内の電光掲示板などから情報を得ることは容易だが、視覚障害者は車内アナウンスや停車駅の校内放送といった限られたタイミングでしか情報を得ることができない。うっかり眠ってしまったりスマホの音声に集中してしまうと、たちまち現在の状況を見失ってしまう。
だがこれをリカバリする手段は現状用意されておらず、そこで「Stay on Route」のようなアプリに注目が集まっているというわけだ。このアプリは日本国内では使えないが、似たようなアプリはいくつか存在する。
そこで筆者が試した範囲で、Voiceoverユーザーでも使えそうなアプリを2つほどご紹介しよう。
今どの辺走ってるの?「NAVITIME」で確認。
電車でついうっかりウトウトしてしまい、気がつくといま電車がどのあたりを走行しているかわからなくなる。恐怖の瞬間だ。
特に駅と駅の間が離れている路線や特急・急行電車だと、なかなか車内アナウンスもされず精神衛生上よろしくない。もし乗り過ごしたとしても、早めに情報を得ることで何かしらの対策を立てられるかもしれない(まあ、コの時点でかなり蒼ざめているのだが)。
スマートフォンで現在の位置情報を調べるには通常「マップ」や「Google Maps」のような地図アプリを用いるが、電車の走行位置を素早く調べるといった用途には情報が多すぎるため、向いていない。そこで使ったアプリが「NAVITIME」だ。
NAVITIMEは、公共交通機関の乗り換えや歩行ナビなどを行う総合的なナビゲーションアプリ。このアプリには現在地から最寄りの駅を検索する機能が用意されており、これを用いることで今乗っている電車が大体どのあたりを走行しているかを素早く知ることができる。
アプリを起動したら「地点検索」タブを開こう。ここに「周辺駅」という項目があり、ここに現在地から近い駅が距離とともにリストアップされている。この距離をしばらくVoiceoverで読み上げさせていると、電車の移動とともに距離が変化していくのがわかる。つまり、移動とともに距離が減っていく駅が、今乗っている電車が向かっている駅と判断できるわけだ。
ちなみに「乗換NAVITIME」でも「乗換案内」タブを開いて「駅/バス停を入力」をダブルタップすれば同様のことができる。
ただこの機能で表示している駅は現在地から直線距離をもとにスキャンしているため、近くの別路線の駅を同時に表示することも多い。またある程度駅の名称が頭に入ってい無いと意味がないので、事前に利用する路線に関する情報を覚えておく必要があるだろう。
開発/NAVITIME JAPAN CO.,LTD. 価格/無料(App内課金あり)
降車駅の到着を通知してくれる「ツクツク」。
さて、ウトウトして不安になる程度ならNAVITIMEで安心感を得られるが、最も恐ろしいのはガッツリ眠りこけてしまった時の乗り過ごしである
そこでご紹介するアプリが「ツクツク」。
降車駅に近づいた時に通知してくれるアプリだ。
乗り過ごし防止アプリには、到着時間を指定するタイプのものと、位置情報を用いるタイプのものがあるが「ツクツク」は後者の位置情報を利用するアプリ。「NAVITIME」にもアラート機能はあるが、「ツクツク」は通知したい駅を登録するだけで、あとは自動的に通知してくれるシンプルな操作性が特徴。Apple Watchやウィジェットにも対応している。もちろん、完全ではないがVoiceoverでも利用できる。なおApp内課金で登録する駅数制限解除と広告の削除が可能だ(各120円)。
アプリを最初に起動するとまず設定ウィザードが開く。ここで一箇所、Voiceoverでは設定内容を判別でき無い部分があるが、ここは後で設定できるので適当に選んで進めればOK。ウィザードでの設定が終わりメイン画面が表示されたら、まず「Settings」ボタンを操作して通知の設定を確認・変更する。筆者が変更した設定は以下の通り。
- 通知回数:20回に設定(デフォルトでは50回)。
- 通知間隔:2秒に設定(デフォルト)。
- 追跡設定:バッテリー節約に設定。
- 音声案内:有効にして「イヤホンのみ」に設定。
なおアプリ上でも説明されているが「追跡設定」は「位置情報追跡」の方が精度が高いが、反面バッテリーの消費が大きいため、バッテリー節約設定でうまく動作しない場合に試してみよう。
設定が終わったら「追加」ボタンを操作して通知させる駅を登録する。無料版で登録できるのは2駅まで。
- 駅名を検索してダブルタップして選択肢「次へ」をタップ。
- 通知する距離(目的の駅にどれだけ近づいたら通知するか)を指定する。500m、1Km、3Km、5Km、10Kmから選んで「保存」をタップ。
- トップ画面に登録した駅と現在地からの距離が表示される。
これで準備は完了。電車に乗車したら、登録した駅リストから通知したい駅のスイッチを「オン」にすれば、電車が目的の駅に設定した距離内に入ったタイミングで通知される。音声を有効にしている場合は、通知と同時に「まもなくXX駅に到着します」とアナウンスされる。通知を止めるには、通知を消去すればOK。
筆者は小田急線の急行で新宿までの往復を移動しながらアプリを試してみた。通知する距離は「1Km」で設定下が、停車駅へ向かって減速するくらいのタイミングできちんと通知された。ただ路線の環境によっては精度にばらつきがあるらしいので、とりあえず普段利用している路線で試した方が良いかもしれない。Wi-Fiをオンにしておくと測位精度が向上するとのことだ。
このアプリの良さは、何と言っても、到着のアナウンスをBluetoothヘッドセットできけるという点だろう。iPhoneをサイレントに設定しているとバイブレーション頼みなので、個人的には結構見過ごしやす買ったりする。筆者は大体電車内ではヘッドセットを使っているので、通知がダイレクトで伝わってくるし、さらに骨伝導ヘッドセットだと頭部に心地よい振動が加わるので寝ていても(たぶん)気がつくのではないだろうか。
開発/Yoshihiko Eto 価格/無料(App内課金あり)
頼り切るにはリスクはあるけど、備えあれば、ということで。
ここで紹介したアプリはいずれも位置情報サービスを用いるため、トンネルや地下鉄など位置情報の取得が難しい場合は使え無いかもしれ無い。今度地下鉄でテストしてみようとは思う。
また位置情報サービス、特にGPSを用いる場合にきになるのがバッテリーの消費量。今回試したケースでは、iPhoneをフル充電して出かけ、やく1時間後に目的地に到着した時点でバッテリー残量は80%くらいに減少していた。長時間の移動で利用する場合、やはりモバイルバッテリーなどの準備が必要かもしれ無い。
今回筆者が試した範囲では動作は良好で実用的なアプリと思えたが、利用する環境や時間帯などによってうまく動作し無い可能性も十分に考えられる。あまり頼りすぎるのもリスキーかもしれ無い。
ただうっかり電車で寝てしまったといった不測の事態に備えるための「おまもり」として準備しておくだけでも安心感はあるのではないだろうか。
まあ、電車では寝無い、これに尽きるかな……。
※この記事のアプリはiOS 12.3.1のiPhone 7でテストしました。
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