Aurrigoの自動運転車「アーサー」(画像引用元)
障害を持つ人々にとって「移動」はとても深刻な問題だ。鉄道など一部の公共交通機関では少しずつアクセシビリティは改善されつつあるが、自宅から駅、駅から目的地といった、いわゆる「ファースト&ラストワンマイル」の移動手段は限られている。
タクシーやバスなどを利用するにも障害者の乗車拒否問題が頻繁に聞かれる昨今、とても安心して単独では出歩くことはできない。公共交通機関が整備されていない地方ではなおさらだろう。障害者や高齢者のモビリティ問題は喫緊に解決すべき問題に思える。
そしてこのような問題を解決するかもしれない技術が、ドライバーレスで人々をあちこちに運んでくれる「自動運転車」。数あるテクノロジーの中でも、最も注目度の高いものの一つだろう。今この時も国内外でさまざまな方式、レベルの自動運転車が開発され実証実験が行われている。
ただ「自動運転車は障害者にも便利」というフレーズはよく聞くわけだが、世界中で行われている実証実験やコンセプトカーで、そのメリットを前面プッシュしているという情報に出会ったことはあまりない。それゆえ障害を持つ身としては、せっかくの期待の技術なのにアクセシビリティが全く考慮されず、実用化されたのに残念な気持ちになるのではないか?と漠然とした疑念も持っていた。
せっかく素敵な未来が実現したのに「見えない人には乗れません」「車椅子の人は乗れません」では困っちゃうよね。
英国コベントリーに本拠地を置くスタートアップAurrigo社は、Blind Veterans UKの協力を得て、視覚障害者が参加する自動運転車の実証実験を行うと発表した。この実験は英国ブライトン近郊で4月から6カ月間に渡って実施される。
これまでも視覚障害者を対象にした自動運転車の体験会などは実施されていたが、障害者が操縦者となる本格的な実験は世界でも初の試みという。
Blind Veterans UKの創設者、Sir Arthur Pearsonの名にちなんで「アーサー」と名付けられた4シートの無人運転車は、視覚障害者や盲導犬ユーザーが利用しやすいよう、座席の配色を見やすいものにしたり、証明や手すりなどに工夫が施されているという。
Aurrigo社の訓練を受けた視覚障害者を乗せたアーサーは、毎時15マイル(時速役24キロメートル)の速度でブライトン近郊にあるBlind Veterans UKの敷地内にある主要な施設を巡回走行する。
この走行で自動運転の安全性や正確性はもちろん、障害を持つ操縦者と自動車のコミュニケーションなど、従来の実験では行われてこなかった課題や改善点をあぶり出すのが目的という。乗り降りのしやすさや車内の居住性なども含まれるかもしれない。個人的にはトラブルが発生した場合の対処法など、イレギュラーなケースにどう対応できるのかに興味がある。
またこの実験で重視される課題の一つが「音声に夜コントロール」。
同社は2019年1月に米国ラスベガスで開催されたCES 2019でIBMの「Watson」を採用した自動運転車を発表している。音声による制御は視覚障害者向けというよりも、自動運転車の標準的なインターフェイスとして考えられているようだ。
Aurrigo社はこの実験で寄せられたフィードバックを元に、自動運転車の改良を進め障害者のモビリティ問題の長期的な解決策を模索したい考えだ。それは結果的に自動運転車をより幅広い人々に優しいアクセシブルなものに近づける。障害者にとって使いやすい技術はすべての人々にとっても快適で安全、というユニバーサルな視点を自動運転車にいち早く取り入れようというわけだ。この実験で得られた成果が、将来的に自動運転車になくてはならないスタンダードな技術として定着する可能性も少なくないだろう。
自動運転車の技術は発展途上で解決すべき課題はまだまだ多い。いつでもどこでも自由に乗れるようになるまでには、しばらく時間が必要だろう。今後もこの分野にはAIをはじめとする最新のテクノロジーが注ぎ込まれるはずだ。だが人間が乗るものである以上、ユニバーサルな視点を前提とした技術開発は必要不可欠ではなかろうか。本当に必要としている人々に、いち早く届く技術であってほしいな。
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