「The Last of Us Part II」がThe Game Awardsで7部門を受賞。
現地時間2020年12月10日、この一年間のビデオゲームを総括する年次イベント「The Game Awards」がオンラインで開催された。イベントの模様はYouTubeなどを通じライブ配信され、視覚障害者向けのオーディオ解説付き配信も実施された。
授賞式では「The Last of Us Part II」がGame of the year、そして今年新設されたInnovation in Accessibilityを含む7つの賞を獲得。ストーリー的には賛否両論が渦巻いた作品ではあるが、卓越した技術力と表現力、そして革新的なアクセシビリティが多くの支持を集めた結果となった。
一方TLOU2の開発会社であるNaughty DogのCrunch(開発者の過酷な労働問題)を挙げ、一部の受賞がふさわしくないとの意見も出ている。ゲーム業界の健全化のためには今後このような、作品の裏に隠れている問題にも注目が集まってくるのかもしれない。また受賞作品の選出方法や授賞式より比重が高まっている新作発表の在り方などイベント自体に対する批判もある。
とはいえThe Game Awardsがアクセシビリティにスポットを当てた意義は大きい。
Game Awardsでは今回初めてゲームの包括性向上に尽力し続けている人々を称賛する「FUTURE CLASS]を発表。このリストにはアクセシビリティコンサルタント,BRANDON COLE氏、Ubisoftのアクセシビリティマネージャー,CHERRY THOMPSON氏、アクセシビリティ活動家,IAN HAMILTON氏、四肢麻痺を持つゲーマー,RANDY FITZGERALD氏、盲目ゲーマーにしてアクセシビリティコンサルタント,STEVE SAYLOR氏などゲームアクセシビリティに関わる人々も多く含まれている。
今回「TLOU2」が大賞を獲得したことで、今後アクセシビリティがゲームの評価基準の一つとして重要な要素となることを期待したい。そのためにはゲーム開発側だけでなくメディアやゲームレビュアー、一般ユーザーのリテラシーの高まりが欠かせないだろう。アクセシビリティは人権であり特別な追加機能ではないメディアとして備えられなければならない基礎。この意識、ゲーム業界にも浸透して欲しいな。
「Cyberpunk 2077」に噴出する問題とアクセシビリティ。
2020年12月10日、今年最後のAAAタイトルといわれている「Cyberpunk 2077」がリリースされた。CD PROJEKT RED(CDPR)が8年もの開発期間をかけ、度重なるリリース延期を乗り越えようやく登場したこのSF大作には世界中から大きな注目が集まっていた。しかしいざ蓋を開けてみると、ゲームの本編以前でさまざまな問題が噴出している。以下ダイジェストでお送りします。
レビュアーによりゲーム本編中に感光性てんかん発作を引き起こす視覚効果が用いられていることが指摘される。
英国の慈善団体epilepsy ActionがCDPRに対し改善を求める声明を発表。
CDPRはゲーム中にてんかん発作に関する警告メッセージを追加し、永続的な解決法を検討中と発表。
Microsoftはこの問題を受けゲームの審査基準の見直しを検討。
ゲーム中に登場する一部の表現がtransphobia(トランスジェンダーに対する差別的態度)を強化していると批判される。
ちなみにtransphobia問題は去年のE3でも指摘されていた。
てんかん発作を指摘した女性レビュアーや transphobiaを批判する人々に対し多くの攻撃的な誹謗中傷が集まっていることが判明。
他にもバグの続出やCrunch問題など話題に事欠かない。
特に女性やトランスに対する攻撃はゲームコミュニティにはびこる根深い問題を露呈している。以前から女性や障害者などマイノリティをターゲットにしたハラスメントが問題視されてきたが、Cyberpunk 2077という注目作がこの事実を思いがけず衆目の前に炙り出したといえるかもしれない。
アクセシビリティに関してはCDPRの技術情報ページでその詳細が公開されている。これによると色覚多様性やクローズドキャプション、カメラやモーション調整、コントロール関連のオプションなどが用意されていることがわかる。残念ながら現時点ではHUDのテキストサイズの変更やナレーションなど視覚障害者むけのオプションは存在しないようだ。
アクセシビリティ・コミュニティからの反応もいくつか出ている。Game Accessibility Nexusによるアクセシビリティレビューはこちら。またCan I Play That?でモビリティレビューを執筆するGrant Stoner氏はTwitterでアクセシビリティの不備を指摘。加えてWindows版において「Joy2Key」などキーレイアウトを変更するアクセシビリティツールが無効化されてしまうという問題も報告されている。認知アクセシビリティに関わる表現(暴力、残虐、性的など)に関する情報はこの記事でCDPRからの警告文を引用する形で解説されている。
さまざまな情報を総合すると、近年のAAA作品として「Cyberpunk 2077」のアクセシビリティはまだ貧弱と言わざるを得ない状況のようだ。
そしてなによりCDPRがリリースの直前までアクセシビリティに関する情報を一切公開しなかったことが批判されている。8年もの間わくわくするような情報が流されていたにもかかわらず、その間障害を持つゲーマーはこの作品が自分にとってプレイ可能なものなのかを判断することができなかった。
同社は度重なるユーザーからの問い合わせにもゼロ回答を貫いたという。この姿勢はアクセシビリティを軽視しているとみなされても仕方がない。もちろん開発会社にとって発売前ゲームの情報はトップシークレットであることは理解できるが、ことアクセシビリティに関する情報はもう少しフレキシブルな対応が求められるだろう。これは開発中から積極的にコミュニティと連携を続けたUbisoftなどとは対照的な感じだ。
とはいえCDPRが全く包括性を無視しているというわけではなさそうだ。同社はMicrosoftとともにLimbitless Solutions社とコラボレーションし、作品内に登場するロボットアームをモチーフとした3Dプリント義手を制作するプロジェクトを進めている。この調子でゲーム本編の包括性向上にも取り組んで欲しいものだ。
Cyberpunk 2077はその期待値に違わず順調なセールスを記録しているという。ゲームメディアからの評価も好意的なものが多く、おそらくゲーム史に名を刻むヒット作品となる可能性は高いだろう。それだけにアクセスを拒まれているゲーマーの心情は察してあまりある。
今後のアップデートでどれだけアクセシビリティが高まるのか。CDPRの情報開示姿勢とともに対応を見守りたい。
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