2020年8月27日木曜日

音声でデジタルマップを探索する「SAS Graphics Accelerator」を試す。


SAS Instituteが公開している「SAS Graphics Accelerator extension(SGA)」は、Web上のグラフやマップを変換し、聴覚フィードバックによる情報伝達を実現するChrome機能拡張だ。グラフィカルな情報を音声で表現することで、視覚障害者の情報取得を支援する。
先日のエントリーで取り上げたが、試してみたらちょっと興味深かったので、使い方などをもう少し詳しくレポートする。

SGAのインストールとサンプルマップの変換。


SGAを利用するにはGoogle Chromeが必要。情報の読み上げのためにスクリーンリーダーを有効にしておく。またステレオヘッドホンを用意しておくと音声が判別しやすくなるので幸せになれるかも。今回はmacOS Catalina上のGoogle Chrome 85で検証した。
なおマップをSGAで変換するには、一定のルールにそって作成されたGoogleマイマップを用意しておく必要があるが、今回は公開されているサンプルマップを使用した。

  1. このページから、Chrome機能拡張「SAS Graphics Accelerator extension」をインストールする。
  2. Map Libraryを開き、探索したいマップを開く。ここではなんとなく「Perkins School for the Blind 3」を選んでみた。
  3. Googleマイマップが開くので、マップ中にある「Accelerate map]ボタンを押す。
  4. 新しいタブで変換されたマップが開く。スクリーンリーダーのカーソルがマップにフォーカスすると効果音とともに現在表示されている施設数が読み上げられる。マップにフォーカスしない場合はTabキーもしくはShift+Tabキーを数回押してフォーカスする。

音声を使ってマップを探索する。


変換されたマップでは「レンズ」と呼ばれる円形の領域に地図が表示されている。マップは北が常に上で、レンズの中心が現在地となる。現在地からレンズの外周部へ向かって、時計の針のように「バーチャルケーン」と呼ばれる直線が伸びている。
ユーザーは聴覚フィードバックを聞きながら、キーボードやゲームコントローラーを使ってマップ内を移動したりバーチャルケーンで施設を探索していく。

  1. バーチャルケーンはゲームコントローラーで時計の針のように360度グルグル動かすことができる。バーチャルケーンがマップ内の施設に触れるとその名称とともに現在地からの直線距離と方向を読み上げ、そしてSonification(現在地とその施設の位置関係を表現したサウンド)が再生される。例えば「Beechwood Parking Lot、354 yards at 2 o'clock」といった感じ。
  2. Sonificationは、その施設が現在地から遠いほど低く、近いほど高い音になる。また施設が現在地の9時方向にある時は音が左から、3時方向にある時は右方向から再生され、近づくほど音が中心から聴こえてくる。さらに施設が6時方向にある時は、12時方向にある時と比べ金属的なサウンドが再生される。
  3. キーボード操作の場合は「ROLL UP」「ROLL DOWN」キーを押して時計回り/反時計回りでマップ内の施設情報を順番に読み上げる。
  4. 施設名が読み上げられたら、矢印キーを使いその施設へ向かって移動する(マップは現在地を中心にスクロール)。移動するとSonificationとともに移動した方向と距離、現在レンズに表示されている施設の数が読み上げられる。例えば100 yards north、「showing 65 of 65 objects」といった感じ。施設までの距離はスペースを押して確認する。
  5. 移動する方向はSonificationを聴いて判断する。要するに音が最も高く、左右のバランスが取れた場所が目標施設の位置になる。また「Enter」キーを押すと、その施設へ直接ジャンプできる。

使ってみた感想など。


SGAで面白いのは「バーチャルケーン」の存在だろう。ゲームコントローラーを用いることで、レーダー(もしくは魚群探知機?)のように周囲の施設を探索できる。キーボード操作と比べ施設同士の位置関係がわかるので、お手元にコントローラーがあれば試してみるのも一興かと。

SGAマップの使い道として考えられるのは、外出前のメンタルマップ構築だろう。このようなツールである程度施設の位置関係を把握しておくことでスムーズな移動ができるし、迷ってヘルプを依頼する場合にも目的地を指定しやすくなるだろう。
筆者が想定した使い方としては、まずデフォルト状態でマップ内の施設をぐるりと探索し、おおよそのメンタルマップを作成。あとは起点となる施設(ゲートや交通機関(へ移動し、ズームと併用してそこから他の施設の位置関係を細かく調べていく、という感じだろうか。まあ言うは易し、いざやろうとしても結構難しい。Sonificationから的確にメンタルマップへ反映させるにはそれなりに訓練が必要ではと思った。個人的に。

SGAマップで探索できるのは、マップに設置された施設の位置関係のみで、一般的な触地図のように道路や地形などは探索できない。ただ分かれ道や交差点、視覚障害者でも確認できるランドマーク(白杖で気が付くもの、音が出るもの)をマップに登録しておくことである程度、移動ルート情報を提供できるかもしれない。

SGAは機能的にシンプルだが、音声でエリア全体を把握することができる点が面白い。考えてみると視覚障害者にとって、触地図以外で「マップ全体を見渡しどのあたりにどんな施設があるか」をざっくり調べられるソリューションって案外少ない気がする(Blind Squareの「見回す」機能が似てるかな?)。
SGAはSonificationをマップへ応用する実験的な試み(と筆者は受け取っている)が、作成するマップ次第では結構実用的かもしれないと思ったりした。地図、特にデジタルマップのアクセシビリティ技術の一つとして面白かった。今度はグラフのSonificationも試してみたい。

参考:マップで使用できる主なショートカットキー。


SGAのマップで使用できるショートカットキーは以下の通り。
なおゲームコントローラーでの操作方法など詳細はヘルプページを参照のこと。

=:マップ表示を拡大する
-:マップ表示を縮小する
0:マップの拡大率と現在地をデフォルトにリセットする

ROLL DOWN:時計回りにマップ内の施設を探索
ROLL UP:反時計回りにマップ内の施設を探索
矢印キー:マップ内を移動する
スペース:目標施設の情報を読み上げる。
/:現在地の座標など詳細な情報を読み上げる
Enter:目標施設へジャンプする
J:施設の一覧ウィンドウがポップアップしマップに含まれる施設名が一覧される。キーワードを入力し絞り込みも可能。施設名を選びEnterキーでその場所へジャンプする。

I:方向の読み上げ設定を変更(クロックポジション、角度、法学)
U:距離単位を変更(ヤード、メートル)
S:Sonificationのオン/オフ
c:読み上げる情報量を変更
L:ポイント属性を変更



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