2018年12月2日日曜日

「shikAI」実証実験@辰巳駅・参加レポート。


これが噂のQRコード@東京メトロ・辰巳駅

視覚障害者の安全な歩行に欠かせない点字ブロック


バリアフリーが進み、街中の至る所で点字ブロックを見かけるようになってきた。特に鉄道施設ではホームから改札、トイレ、エレベーター、出口までの導線がほぼ完全に点字ブロックで接続されている。視覚障害者にとって、とても心強い存在なのは間違いない。

しかし、筆者のような重度視覚障害者が点字ブロックを頼りに単独歩行で目的地に到達するには、あらかじめ点字ブロックがどのようにつながっているのかを頭に入れておく必要がある。余程シンプルなルートなら別だが、改札や出口が複数あるような駅では、脱出するまでかなりの時間と労力を要するだろう。
もちろん点字ブロックには、ホームや階段からの転落防止といった意味もあるし、歩行スキルによっては初見の場所でも様々な感覚を駆使してたやすく目的地を目指せる視覚障害者もいらっしゃるとは思うのだが、筆者のスキルと経験の範囲では、ことナビゲーション性という意味においてはあまり機能していないケースも少なくないと感じる。

プログレステクノロジーズ株式会社と東京メトロの共同プロジェクト「shikAI」は、この駅構内の点字ブロックというインフラを活用した、視覚障害者向けのナビゲーションシステムである。
先日のサイトワールドでの体験に引き続き、東京メトロ・辰巳駅で実施されている実証実験に参加してきたので、その雑感をレポートしよう。


shikAIナビゲーションシステムとは


このシステムは、駅構内の警告ブロックに設置された「QRコード」と、ナビゲーションアプリを導入したスマートフォン(現時点ではiPhone)で構成される。
アプリで改札口やトイレ、ホームなどの目的地を設定すれば、あとは警告ブロックのQRコードをスキャンすれば、目的地まで音声でナビゲーションしてくれる。

もう少し詳しく書くと、QRコードをスキャンすると、目的地ルートを経由する最寄りの警告ブロックまでの距離と方向をアナウンスするので、それに従い白杖で点字ブロックを辿って歩く。次の警告ブロックに到達したら、またQRコードをスキャン。この作業を繰り返していけば、最終的に目的地へたどり着き、その旨を通知してくれる。
なおホーム上では、ホームの端に近づいたタイミングで、その旨アナウンスされる。

歩行の指示では、信仰方向と距離、そして点字ブロックの左右どちらを辿るかを教えてくれる。次の分岐点をより見つけやすくする工夫だ。なお信仰方向の判断は、QRコードをスキャンしたタイミングでスマホが向いている方向から算出されるため、出来るだけ体に対してスマホをまっすぐ前に向けてホールドしておく必要がある。

もしも指示された警告ブロックをうっかり通過してしまったり、点字ブロックから外れてしまったとしても、心配は無用だ。最寄りの警告ブロックを見つけてスキャンすれば、その地点からのルートが案内される。
利用する側としてはこのフレキシブルさは安心感があるが、システム側のアルゴリズムは相当複雑ではないかと想像してしまう。

なおルートは点字ブロックを辿るルートになるため、フロア移動が必要なケースでは階段を使用する事になる。エスカレーターは原則点字ブロックが接続されていないためだ。階段の使用が困難な場合は、いったんエレベーターへ目的地を設定し、エレベーターを降りたら目的地を再設定する、といった手順が必要になるようだ。


実証実験@辰巳駅で感じた諸々


今回はサイトワールド に続いて2回目の体験だった。システムのバージョンはあまり変わっていないようだが、実際の駅構内ならではの気づきも多く興味深かった。
体験したのは、出口階段を降りた地点の警告ブロックを起点に、地上行きエレベーター>改札を通ってホームの乗車口>改札、というルート。その後、アンケートに答えるという流れで、所要時間はおよそ1時間ほど。

サイトワールドでは床面の点字ブロックの判別がわかりやすかったが、実際の駅構内では地面の状態が必ずしもスムーズではなく、点字ブロックの状態もまちまち。さらに旧式の線状ブロックが混在しているため、慣れるまでは少し苦労した。

あとこれは筆者の資質の問題なのだが、とっさに「左」「右」をアナウンスされると、どちらが右でどちらが左かわからなくなり、慌てて逆に進んでしまうことがあった。いやこれは自分だけかもしれないが。例えば分岐点で進むべき方向をバイブレーションで通知してくれたりするとよりわかりやすいのではないだろうか。

筆者の白杖歩行スキルが未熟ということもあるが、駅構内の構造や点字ブロックの敷設状況が全く頭に入っていない状態でQRコードが設置されている警告ブロックを探知し、スマホでスキャン、音声を聞き分けて進む方向と距離を把握するには、少し練習が必要と感じる。
もちろんスマホ(ここではiPhoneとVoiceover)の操作にも慣れておく必要があるため、shikAIの普及には利用者の訓練が不可欠だろう。個人的にはshikAIを利用するためにスマートフォンに興味を持つ視覚障害者が増えることは良いことだと思う。

またスマホを用いるため、どうしても片手が塞がってしまうのは工夫の余地があると感じた。例えば階段を上り下りする際に手すりを持ちにくい、といったケースが考えられる。担当していただいた方に聞いたところ、警告ブロックをスキャンする時だけサッとスマホを構えられるホルダーのようなものもアイデアとしてあるとのこと。

実験が行われている辰巳駅にはホームドアが設置されており、比較的乗降客が少ない。だが通勤ラッシュの時間帯や乗降客の多い駅、ホームドアのない駅ならではの課題もあるかもしれない。また、このシステムが本格的に導入され、一般にもこの仕組みが認知された場合、もしかしたら不届き者がイタズラでQRコードを破損したり、最悪コードの改竄なども考えられる、かもしれない(考えすぎ?)。
一般の駅利用者を含めた安全面にも万全の対策が必要だろう。


視覚障害者が自由に、そして安全に移動できる未来に期待


いろいろと書いてしまったが、スマホという汎用デバイスを用いること、すでにインフラとして定着している点字ブロックを活用すること、そして導入・ランニングコストで優位性の高いQRコードを用いるという点において、数ある視覚障害者のナビゲーションシステムの中でも、shikAIは最も実現性、および持続性の高いソリューションの一つであるのは間違いない。
屋内ナビゲーションといえば、どうしてもBLEビーコンなどの無線技術を考えるが(shikAIも当初はビーコンを用いていた)、コストやメンテナンスのめんで課題が多いのも事実。点字ブロックとQRコードに着目した発想は、まさに目から鱗!

視覚障害者が初めての鉄道施設を利用する場合、現状では駅員やガイドヘルパーの手引きに頼らざるを得ないが、近年の人手不足やヘルパー不足により自由に移動できるとは言い難い。特に時間的な制約はどうしてもつきまとう。
shikAIのようなシステムが普及すれば、少なくとも点字ブロックがつながっている範囲なら視覚障害者が単独でも自由に移動できる未来が期待できるかもしれない。
屋外ナビゲーションでは「みちびき」の運用開始により高精度な測位を活用したシステムの可能性も高まる。shikAIのような屋内ナビゲーションとシームレスに接続されれば、視覚障害者の移動に立ちふさがる障壁は大幅に解消されるのではないだろうか。

もちろん、視覚障害者に限らず、マルチリンガル対応による外国人への情報提供や、複雑な乗り換えを案内するなどさまざまな用途にも活用できる技術だろう。

実証実験の目標も達成間近とのこと。今後もこのプロジェクトの動向には、ワクワクしつつ注目して行きたい。絶賛応援してます!

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