2018年11月10日土曜日

サイトワールド2018見学記 その(1)ウェアラブル編


Orcam my eye 2.0 Photo
Orcam myeye 2.0@アメディア

去る2018年11月1日からの3日間、東京・錦糸町のすみだ産業会館サンライズホールで「サイトワールド2018」が開催された。
今年で13回を数えるこのイベントは、世界的にも珍しい、視覚障碍者関連の講演や展示を専門に扱う総合イベントである。
筆者は11月1日と2日に参加してきた。昨年に続き2回目。

メインである展示スペースでは、視覚障碍者向けの日用品の展示即売や点字ディスプレイ、プリンターなどの点字関連デバイス、拡大読書器やデイジー読書機器といった定番ものの展示が中心になっているが、最新のテクノロジーを採用した機器やサービスを実際に体験できるのも大きな魅力である。

というわけで、今年のサイトワールドで気になった展示について、何回かに分けて感想を書いてみたい。


OrCam MyEye 2.0


おそらく、今回のサイトワールドで最も注目を集めたデバイスは、この「OrCam MyEye 2.0(以下MyEye2)」だろう。
これはイスラエルのスタートアップOrcam社が開発した小型ウェアラブルデバイス。
手持ちのメガネのテンプル(つる)に装着して使う。MyEye2はカメラとスピーカーが搭載されており、カメラでとらえた文字や人物、紙幣、バーコードを認識して音声で読み上げる。100円ライター程度の小型軽量の本体のみで動作し、ネットワーク接続も不要。そして本体側面のタッチセンサーとジェスチャーで多くの操作が行えるのが大きな特徴だ。
たとえば読み上げたいテキスト部分を指で指し示すことでその部分を読み上げたり、手を広げるジェスチャーで読み上げをキャンセル、といった具合。
もちろんカメラに映ったものを自動で片っ端から読み上げさせることも可能だ。

筆者も実際に触れてみた。
テキストや顔認識の精度は正直スマホアプリなどの既存デバイスと大差ない感じだが、デバイスのコンパクトさやジェスチャ操作は技術の高さが感じられるし、何よりオフラインで利用できるのは大きなアドバンテージだろう。
バーコードリーダーがどれくらいのアイテム数をカバーしているか不明だが、それ次第では視覚障碍者のショッピングを一気に便利にしてくれるかもしれない。

イベントスペースでの製品発表会(株式会社システムギアビジョン)や、展示ブースでの体験(アメディア、ケージーエスなど)も盛況で、この驚くべきテクノロジーに対する期待の高さが伺える。ただテクノロジーと同じくらい、価格のインパクトも高かった。
おしなべてMyeye2を体験した来訪者は、その技術に感激し、価格を聞いてため息、といった反応であった。

MyEye2でできることは、すでにスマホなどでも実現されており、必ずしも革命的だったり画期的なデバイスではない。コンパクトさとオフライン利用、ジェスチャ操作にどれ砕いの価値を見いだせるか、60万円という価格をどう考えるかで評価は変わってくるように思える。ただ同じ機能でもスマホアプリとウェアラブルでは活用の幅は段違いなのは明白で、視覚障害者の生活を一変させる可能性を秘めているのは間違いない。
たとえば5年間使えば1ヶ月あたり約10,000円、そう考えると高くない?どうかなあ……。なお、テキストの読み上げに機能を絞ったモデル「OrCam MyReader 2」も用意されている。それでもかなりのいいお値段だが。


スマートグラスが大盛況


今年の展示でかなり目立っていたのが、目に装着するウェアラブルデバイス、いわゆる「スマートグラス」だ。昨年はほとんど見かけなかったジャンルだが、さまざまな見えにくさをサポートする個性的なアイウェアが展示されていた。
2017年のCEATEC、2018年のCESでは、一般向けのスマートグラスが多数出展されていたが、その技術を支援デバイスに応用した成果が一気に登場したという印象。
なお視覚障碍者向けスマートグラスの先駆者である「Oton Glass」はサイトワールドでの展示はなかった。ちょっと残念。
出展されていたスマートグラスを簡単に紹介しよう。

1. RETISSA Display

株式会社QDレーザ。網膜走査型レーザーアイウェア。入力した映像を網膜に直接投影するため、近視はもちろん、矯正が難しい角膜疾患でもくっきりとした映像が体験できるという。
逆に言えば、網膜や視細胞、視神経に障害があるユーザーには不向き。
筆者に代わって体験してもらった同行者はかなりの近眼だが、メガネを外して装着してもしっかりと映像を見ることができたという。映像はカメラではなくHDMIから入力するため用途は屋内での映像鑑賞を想定しているようだが、パソコンと接続して画面拡大機能と併用するといった使い方も考えられる。

見られる映像の視野はあまり広くないが、重度の角膜疾患でものがくっきり見られない患者には福音になるデバイスかもしれない。例えばコンタクトレンズでは矯正できない円錐角膜患者などには効果が期待できるのではないだろうか。
白内障でも状態によっては効果が期待できるということだが、レーザーの照射位置が固定されているため、目の状態に合わせてカスタマイズする、といったことはできないようだ。

2. eSight(イーサイト)マイグラス

FQ Japan株式会社。メガネに内蔵されたカメラで撮影した映像を調整して、
レンズの内側にあるディスプレイに表示し、視野狭窄や混濁などでものが見えにくくなったロービジョンの見え方を改善させるスマートグラス。
視界のズームや明るさ・コントラストの調節といった映像の加工、さらに残存視野に合わせて映像を移動させるなど、ユーザーの見え方に合わせて細かくカスタマイズできるのが特徴とのこと。

すべてのユーザーがこのデバイスの恩恵を受けられるわけではないが、適切にカスタマイズし、トレーニングを行うことで、効果が期待できる可能性はあるという。

3. HOYA MW10 HiKARi

HOYA株式会社 メディカル事業部。夜盲症の不便さを解消することを目的にした、暗所視支援スマートグラス。原理はeSightと同様だが、暗所を明るく見るために特別な好感度カメラを採用している。
ブースでは光を遮断した状態で効果を体験することができ、筆者と同行の体験者の感想では、かなりはっきりと物が見えると驚いていた。

こちらもまだ見える範囲(視野)は狭いようだが、夜盲に悩む人にとっては大きな進歩だろう。

4. Gyoro Glass(参考出品)

有限会社 フィット。魚眼レンズを用いたメガネ「Gyoromegane」を進化させたスマートグラスのプロトタイプを展示。魚眼レンズの特徴を生かし、狭くなった視野に、より多くの情報を伝送する、というコンセプトのようだ。

ロービジョン支援技術の定番となるか

一言でスマートグラスといっても、ターゲットユーザーや、視力補助のアプローチによって、かなり個性的な製品が展示されていた。すでに個人でも購入できるものもある。
現時点ではまだ補正した映像の視野が狭かったり、概観が不自然など改善の余地は感じられた。また、おいそれと手が出せない価格もネックではある。
これらの製品が市場に出回ることで、例えば安全性や耐久性といった課題も見えてくるかもしれない。なにせまだ生まれたてのジャンルゆえ、メーカーも試行錯誤の最中、といった雰囲気。

ロービジョンをサポートするデバイスとしては「遮光メガネ」や「拡大読書器」あたりが久しくメインだったが、今後はこれらのようなスマートグラスがその一端を担うようになるのかもしれない。この流れが一過性のブームに終わらず、継続的な開発に繋がることを願うばかり。そのためにも体験したユーザーがどんどんフィードバックしていくことが重要だろう。スマートグラスが視覚障害者に有用であることが証明されれば、日常生活用具の補助対象に繋がる可能性も十分に考えられる。


ウェアラブルは視覚障害者の「目」とな理うるか


サイトワールドというイベントは、どちらかといえば最新技術の発表というよりも、今すぐに手に入れられる技術を中心に扱っているというイメージがある。そこにこれだけのウェアラブルデバイスが一気に登場したということは、いよいよ技術革新の波が障害当事者のすぐそこにまで近づいているという証拠なのかもしれない。

来年は、どのようなウェアラブル端末が登場するのか?
今年体験した製品がどのような進化を見せるのか?
もうちょっとリーズナブルにならないかな?
今後も要注目のジャンルである。

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