2019年6月9日日曜日

UIのトレンド「ダークモード」の「効果」について考えてみる。


パソコンのOSがGUIを獲得して以来、ユーザーは常に「白くまぶしい背景」に「黒いテキスト」というカラースキームの元、作業してきた。これはスマートフォンが登場してからもほぼ変わらない(初期Androidなど例外はある)。だがここにきて、その「白い背景」という常識が「ダークモード」というデザイントレンドによって塗り替えられようとしている。ダークモードは、黒やダークグレーといった暗いバックグラウンドに、明るいテキストやGUIパーツを組み合わせたUIデザインである。

先日開催されたAppleのWWDC 2019で発表された「iOS 13」では、その新機能として「ダークモード」が発表され、大きな反響を呼んだ。同社はmacOS Mojaveですでにダークモードを採用しているし、GoogleもAndroidやChrome OS、Windowsにもダークモードがやってきている。アプリも同様に、GmailやTwitterを始め、メジャーどころが続々とダークモードに対応中。世はまさに「ダークモードブーム」まっさかりといった雰囲気だ。なんとなく、かつて流行した「スケルトン」な製品を思い浮かべてしまうのは筆者だけだろうか。そういえばスケルトンブームを牽引したのもAppleの「iMac」だったような。

しかしダークモードがスケルトンと異なるのは、「目に優しい」「文字が読みやすい」「集中力を高める」といった「効果」がアピールされている点だろう。実際、AppleはmacOS Mojaveの紹介ページで以下のように述べている。

(ここから引用)
ダークモードは、あなたが作業に集中できるようにサポートする、ドラマチックな新しい表示方法です。ツールバーとメニューが背景に溶け込み、あなたのコンテンツの繊細なカラーと細部がスクリーンの主役として映し出されます。あらゆる面で目に優しく、気を散らす要素のないこの美しい作業環境は、「システム環境設定」の「一般」パネルでダークモードをオンにするだけで用意できます。
)引用終わり)

確かに黒い背景に浮き上がるテキストやグラフィックは夜の街に映えるネオンサインのようにシャープでクールな印象があり、言われてみると見やすいような気がする。近年ではスマートフォンやパソコンの画面による視力低下などが問題視されており、もしかしたらダークモードがこれらの懸念を解消してくれるかもしれない。

しかしここにきて、本当にダークモードにこのような「効果」があるのか? エビデンスは?といった意見が浮上しているようだ。


ダークモードは本当に「作業効率を高める」のか?


海外ではすでにいくつかの記事でダークモードにまつわるさまざまな「効果」について疑問視する意見が見られる。

米WIREDの記事によると、Passau大学の研究者Susanne Mayr氏が、通常の白い背景のWeb画面と黒い背景のWeb画面で、どれだけテキストの間違いを見つけやすいか、およびテキストを読むスピードについて調査したという。その結果は、いずれの調査でも通常の白背景の方が黒い背景よりも成績が良かった。
同氏によるとこれは、瞳孔の開き方に関係しており、暗い画面で瞳孔が拡散すると網膜に当たる光がぼやける傾向にあるという。
この結果をみると、ダークモードが必ずしも読みやすく、作業効率をアップさせるというわけではなさそう。

またCNN businessの記事では、the Stanford Byers Eye InstituteのEuna Koo博士も同様に、ダークモードが目の健康に与える影響を否定している。むしろ影響が大きいのは画面を見ている時間や明るさの強さである、と同氏はコメントしている。
一方でバーミングハム、アラバマ大学の神経生物学教授であるPaul Gamlin氏は、夜間にダークモードを利用することで、明るい画面によって乱される体内リズムをキープする可能性に言及している。利用する時間帯によっては、睡眠などへの影響はあるのかもしれない。

研究者も述べているが、このような研究はまだ始まったばかりで、今後の実験の積み重ねや時間の経過、様々な条件下により、変化する可能性はある。あくまでも現時点では、ダークモードに言われているような効果があると言い切れる研究結果が得られていない、というお話。

一方で「スクリーンの見過ぎ」が眼精疲労など目のトラブルにつながるのはよく知られている。ダークモードだろうと通常の画面であろうと、画面の明るさを適度に保ち、長時間見続けることは避けなければならないのは言うまでもない。


アクセシビリティにとっては重要な機能


一方でダークモード、つまり黒い背景に明るい文字というUIは、一部の視覚障害者にとってはなくてはならない機能なのは間違いのない事実だ。

「ダークモード」という言葉が知られる以前から、macOSやiOS、Androidにはアクセシビリティ機能の一部として「カラー反転」が提供されていたし、Windowsでも「ハイコントラスト」テーマを洗濯することで黒背景のUIを実現していた。視覚障害者はこの機能と「ズーム」、症状によっては「カラー調整」を駆使することでこれらのデバイスを比較的簡単に利用することができた。ダークモードは、これらのアクセシビリティ機能の延長線上にある。アクセシビリティとしてのダークモードの効果は明確だろう。ロービジョン向けの福祉機器である拡大読書器にも同様の機能を持ったものもある。

筆者もこれまでさまざまな眼疾患を不本意ながらも体験してきたが、白内障で濁った視野や円錐角膜の歪んだ光、緑内障で弱まった視力や独特の白濁した視界では、白い背景がテキストを浸食してしまい非常に見え辛い。ダークモード、すなわちカラー反転を利用することで可読性は飛躍的に向上した記憶がある。何しろ今はほぼ全盲なものでね。

何れにせよ、これらは基本的なアクセシビリティ、つまり配色やコントラスト設計に配慮がされていなければ無意味であることは言うまでもない。例えば水色にオレンジの文字のような配色ではカラー反転させようがグレースケールにしようが視覚障害者は苦しむハメになる。Android 5.0のUIがそんな感じだったなあ。それで筆者はiPhoneに乗り換えたのだった。

ただ視覚障害のタイプによっては、必ずしもダークモードが効果的かと言われればそうではないようだ。例えば光過敏のような症状では、黒字の白い文字は眩し過ぎてきついと聞いたことがある。より広いユーザーのアクセシビリティを確保するためにも、例えばより見やすい書体の採用など、多角的なUIデザインのアプローチが必要となってくるだろう。


その他のダークモードのメリットは?


ダークモードの効果の一つとして「バッテリーの持ちの改善」がよく言われる。これは事実だが、その恩恵を受けるには、「ディスプレイが有機ELを用いている」ことと「ダークモードで使っているカダーが完全な黒(#000000)であること」が条件。
通常の液晶ディスプレイ(LCD)や、ダークモードのカラーがどんなに暗くても完全な黒でなければバッテリーの節約には結びつかないようだ。

くらい場所で周囲へ迷惑をかけない」というのも、ダークモードの利点の一つかもしれない。隣で家族が寝ていたり、照明が使えない場所でスクリーンを確認しなければならない時は、ダークモードが役に立つだろう。
視覚障害者的な使い方としては、音声ガイドアプリ「UDcast」を使うならダークモードが適しているはずだ。本当はロービジョンでもここだけはVoiceoverとスクリーンカーテンで使えた方が良いとは思うのだけど。


最終的には好みの問題?


こうしてみると、一般ユーザーにとってダークモードを選ぶか否かは結局のところ個々人の「好み」の話になってきそうだ。黒=クールと感じるユーザーもいるだろうし、かつてのCUIコンピューティングのノスタルジーを感じたいユーザーもいるだろう。そうなるとテキストはグリーンとかアンバーも選びたいよね。もしかしたら単純に「流行ってるから」とか「目新しいから」という理由でダークモードを選ぶユーザーもいるかもしれない。OSレベルでダークモードが標準搭載されるとなると、アプリケーションを開発する側も対応を余儀なくされるはずだ。AppleはWWDC2019で「SwiftUI」を発表し開発環境でダークモードをサポートするようだが、ダークモードに最適かされたUIメソッドが浸透するまでは、デザイナーにはある程度の負担が要求されるかもしれない。

ただ戦術のようにアクセシビリティとしてダークモードを利用するユーザーにとっては、ダークモードの普及は喜ばしいことだ。確かに以前からも白い背景を反転させることはできたが、写真やグラフィックスのカラーも反転してしまうなどの弊害も多かった。要するにアクセシビリティとしての旧世代ダークモードは「不恰好」なのだ。新しいダークモードは基本的なUIのカラーを反転させつつコンテンツは正常な見た目をキープするため、ロービジョンユーザーにとっては理想的なUIを実現する可能性が高い。

現時点でダークモードが「目に優しい」というエビデンスが存在しない以上、目の健康を保つには結局のところ「長時間画面を見ない」という基本的な対策しかなさそうだ。ちょっと心配なのは「ダークモード神話」を信じるあまり、この基本を蔑ろにし健康を害するユーザーが出ないとも限らないということだ。そんなバカなと言われそうだが、世の中油断してはならない。
いっそのことどうだろう、皆でスクリーンリーダーをマスターし必要なときだけ画面を見る生活をしてみては? 絶対目の健康には良いからさ。

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