2021年4月30日金曜日

フランス発。視覚障害者の目の代わりとなるAI搭載デバイス「nelo」。

nelo(画像引用元


フランス、マルセイユに本拠地を置くスタートアップPerception社は、視覚障害者向けのビジュアルアシスタントデバイスである「Nelo」を発表しました。

人工知能を搭載したこのポータブルデバイスは、強力なコンピューターと高精細カメラ、そして骨伝導ヘッドフォンという構成。カメラが捉えた周囲の環境をAI技術を用いて解釈し、音声として伝達することで、視覚障害者の安全な移動を支援します。オフラインで動作し、搭載されている画像認識アルゴリズムは自転車や車、猫など75種類以上の物体を識別することができるとのことです。


neloは白杖や盲導犬を置き換えるものではなく、白杖では検知できない膝上にある障害物を避けたり、建物の出入り口を見つけるなど、あくまでもこれらの役割を補完する目的で開発されているとPerception社の代表であるOlivier Huet氏は語っています。

Neloの特徴と言えるのが、装着者の状態に応じ伝達する音声情報を自動的に切り替える仕組みを持っているという点でしょう。このデバイスには以下の3つのモードがあります。


  • 装着者が動いている時は、壁や穴などの障害物を検知します。障害物が見つかるとビープ音が鳴り、近づくほど音の間隔が短くなります。
  • 立ち止まった状態になると、検知した障害物の具体的な情報を提供し、それを回避するためのルートを提案します。
  • さらに一定時間立ち止まっていると、周囲にある物体を識別し、その物体までの距離をユーザーに通知します。


つまり危険回避を最優先にしなければならない移動中は目の前の障害物をシンプルなビープ音で伝達し、安全に立ち止まっている時に物体の名前や距離をじっくりアナウンスするという仕組みです。確かに歩行中は足元や前方の障害物に意識を集中させることが多いですから、余計な情報(人の声など)が入ってくるとちょっと気が散ってしまうかもしれません。そういう意味では理にかなった設計と言えるでしょう。


視覚障害者の目の代わりとなるビジュアルアシスタントの設計では、認識した情報をいかにしてユーザーに素早く解釈可能な音声として伝達するかが、ユーザビリティを大きく左右します。カメラやAIの性能が向上したことで識別できる物体の情報量は膨大なものになっていますが、それをただ闇雲にアウトプットするだけではユーザーは混乱し、場合によっては安全性を損なう可能性も考えられます。人間が耳から得られる情報量には限界がありますから、視覚的な情報を音声に変換する上ではそれなりの取捨選択が必要となってくるでしょう。

いかにして安全をかくほし、かつその時もっともユーザーが必要としている情報を絞り込んで伝達するのか。視覚障害者向けのデバイスを設計する上で、このあたりのアルゴリズムが今後いっそう重要視されてくるのかもしれません。


neloはフランスにおいて近日2,000ユーロ前後の価格で発売予定。GPSナビゲーションやテキスト認識、顔認識などの追加機能が利用できるサブスクリプションも用意されるとのことです。


参考:Nelo, l'assistant visuel doté d'intelligence artificielle dédié aux non-voyants


2021年4月29日木曜日

最近見つけた、視覚障害者のスマホ文字入力を支援するアクセサリ。

視覚障害者のスマホ利用において最大のネックとなっているのが文字入力です。スクリーンキーボードを音声で操作する場合、どうしても入力したいキーを探すという手間が加わるため、そのぶんタイピングが遅くなってしまうんですね。音声入力は正確性が求められる場合や声を出しにくい場所では使えませんし、どうやってもキーボードによる文字入力は必要となってくるわけです。


そんな視覚障害者のニーズに応えるべく、スマートフォンの文字入力をサポートするさまざまなアクセサリが開発されています。最近注目を集めているのが、Orbit WriterHable Oneといった、点字入力できるコンパクトな触覚キーボードですが、これ意外にもいくつか面白そうな製品を見つけたのでご紹介しましょう。いずれも日本語環境では使えなさそうなのが残念ですが、こういうの、あったらいいなという希望を込めて……。


コンパクトなQWERTZキーボード「help2type」。


help2typeは、スイス在住のMarcel Roesch氏が開発した視覚障害者向けのスマートフォン用コンパクト触覚キーボードです。彼自身、視覚障害者であり、タッチスクリーンを用いた文字入力の困難さを解決する目的で設計・開発したとのことです。

help2typeはスマートフォンとBluetoothで接続し、マグネットを用いて背面に装着します。キー配列はQWERTZで、キーピッチはiPhone Xのスクリーンキーボードとほぼ同じとのこと。ファンクションキーとコマンドキーを組み合わせることで多彩な文字種入力にも対応します。なおこの製品はスイス障害者保険(IV)の補助対象として認定されています。

ちなみにQWERTZ配列とはQWERTY配列のYとZキーを入れ替えた、おもにドイツ語圏で普及しているキーボード配列です。

スマートフォンに装着するタイプのコンパクトな物理キーボードは、これまでも一般向けに販売されてきましたが、現在はほぼ絶滅状態にあるようです。結局のところ慣れてしまえばスクリーンキーボードの方が早いということなのでしょうが、視覚障害者に取ってはまだこの手の製品、メリットがあるようにも思えます。

help2typeはキー刻印をみずにどれだけ高速なタイピングが可能なのか、どのような工夫が施されているのか興味深いところです。


保護フィルムに凸点をプラス。「Tactile Screen Protectors」。


Tactile Screen Protectorsは、iPhone用スクリーン保護フィルムに浮き上がった触覚ドットを加えた、Voiceoverユーザーのためのアクセサリです。かつてはSpeedDotsという製品も存在していましたが、現行製品に対応しているものは調べた範囲では現在Tactile Screen Protectorsだけのようです(多分…)。

この製品はiPhone 4SからiPhone 12シリーズまで対応し、キーボードレイアウトによって4種類のタイプが用意されています。また強化ガラスを用いたプロテクターに変更することも可能です。選べるレイアウトは以下の4種類。


  1. Standard : USキーボードの入力コントロールボタンとFとJを除くキーにドットが付く。

  2. Advanced : USキーボードの入力コントロールボタンとF、Jキーのみにドットが付く。

  3. Phone Layout : 電話アプリのキーパッドに対応。5のキーには2つのドットが付く。

  4. Braille Screen Input : Voiceoverの点字入力キーボードに対応。


視覚障害者の間ではスクリーンにシールを貼り、文字入力を補助するというハックが広く浸透していますが、このような保護フィルムがあればシールが剥がれたりズレたりする心配もなく便利そうです。かなキーボード版も欲しいですね。


キーボードの振動でテキストが読める? 「TypeCase」。


TypeCaseは3Dプリンターで作成されたケース一体型のスマートフォン用キーボードです。このキーボードは視覚障害者が音声を使わず、かつ片手だけで操作できるよう設計されています。用意されているボタンはたったの5つ。このキーを組み合わせることで、点字入力のように文字を入力していく仕組みです。さらに加速度センサーも内蔵しており、ジェスチャーによる操作にも対応します。

そして特徴的なのが、このキーに備えられている振動によるフィードバック機能。これは入力時と同じコンビネーションでキーを振動させ、文字情報をユーザーに伝達するというもの。つまり画面を見なくても、音声を使わなくても振動だけでメッセージや通知のテキストが読めてしまうというわけです。

点字ディスプレイなどと比べ読むスピードはかなり遅くなるような気もしますが、低コストな触覚による情報伝達手段の一つのアイデアとしては面白いですね。盲ろう者支援という意味でも、触覚を活用したソリューションがもっと出てきて欲しいものです。

※残念ながら現在TypeCaseは開発が停止されているようです。



2021年4月26日月曜日

[ゲーム] #GAconf Europe 2021開催。アーカイブ公開されたトークセッション概要の粗訳。

2021年4月5日からの2日間、ゲームアクセシビリティに関して様々な視点からトークセッションが繰り広げられるイベント#GAconf Europe 2021が開催されました。

#GAconfはアクセシビリティ専門家からゲーム開発者、障害当事者などが世界各地から集結し、2017年から毎年2回、米国とヨーロッパで行われてきました。今年は昨年に引き続きCovid-19感染防止のため、完全オンライン形式で実施されました。

レポート記事もいくつか公開されています。



以下は#GAconf Europe 2021で配信されたトークセッション(20本)のアーカイブ映像のYouTubeリンクと概要の粗訳です。それぞれの動画には文字起こしテキストがキャプションとして用意されており「C」キーで有効にすることができます。筆者のように英語が苦手な方は設定から自動翻訳を日本語に指定することでざっくりとですが内容を把握することができるでしょう。またVoiceoverユーザーはブラウザで視聴することでキャプションを読み上げることができます。

なお次回の#GAconfは2021年秋、オンラインで開催される予定です。


01.News Update

by Ian Hamilton

この半年間のゲームアクセシビリティに関する大きな進歩について解説します。


02.ScourgeBringer: an indie accessibility post-mortem

by Thomas Altenburger, Flying Oak Games

「ScourgeBringer」はアクセシビリティを考慮して設計された、チャレンジングでスピーディなインディーゲームです。このトークでは、何が良かったのか、何が悪かったのか、どうすれば改善できるのかを紹介します。


03.The Usability of Accessibility

by Mark Friend, PlayStation

あなたがアクセシビリティを提案し、開発チームが賛同し、ゲームにアクセシビリティ機能を追加し始めたとします。ではそれから、開発チームに対してどのようにして価値のある実用的なフィードバックを提供すればよいのでしょうか。また、どのようなアプローチが最適なのでしょうか。このトークでは、PlayStation Studiosのユーザーリサーチチームが、チェックリスト形式のアクセシビリティレビューを導入し、アクセシビリティがユーザー体験全体に与える影響を総合的に評価することに重点を置くようになった経緯と理由、そしてこの3年間でプロセスを形成する上での課題と成功例をご紹介します。


04.Developers and Disabilities

by Chris Goodyear, Felicia Prehn, Laura Francis, Brain Marquez

障害のある開発者にとってゲーム業界の現状はどのようなものなのでしょうか?パネリストのLaura、Licia、Brian、Chrisが、採用から職場の文化に至るまでゲーム業界における障害のある開発者の状況についてディスカッションします。


05.MAVIS and The Tomorrow People

by Barrie Ellis, OneSwitch

できたばかりのAccessible Gaming Museumからのストーリー。初期の多目的アクセシブルコンピュータ「MAVIS」と、それを使った先進的な人々について紹介します。


06.Mental Maps and the Mind’s Eye – Gaming with Aphantasia

by Laura Kate Dale, LauraKBuzz

Laura Kate Dale氏は、視覚的な記憶を欠く「アファンタジア」のある自閉症ゲーマーです。このトークではアファンタジアのゲーマーにとって問題を引き起こす可能性のあるゲームデザインの領域と、ゲームをよりアクセシブルにするための様々なソリューション、そして、この点でうまくいっているゲーム、うまくいっていないゲームについて解説します。さらにアファンタジアのゲーマーに対するアクセシビリティのサポートが、特定の症状を持つ人々以外の幅広いゲーマーにとっても有益であることを解説します。


07.Gaming for Good – Exploring the barriers faced by disabled people

by Molly White and Emily Gordon, Scope

Scopeが実施した、障害者ゲーマーの行動、モチベーション、障壁に関する調査結果のポイントを解説します


08.Big Brain Plays: Gaming with Cognitive Differences

by Stacey Jenkins

Stacey Jenkins氏は、障害者向けコンテンツのクリエイターであり、ゲームにおけるアクセシビリティ向上の熱心な提唱者です。今回のトークでは、認知機能に障害のあるゲーマーがどのような存在であるか、また、彼らのお気に入りのゲームがどのようにしてその障壁を取り除くツールとなったかについて解説します。


09.Driving Accessibility Advancements in Watch Dogs: Legion

by Maksym Horban, Ubisoft

Watch Dogs: Legion」のシニアゲームデザイナーであるMaksym Horban氏は、彼のチームがどのようにアクセシビリティの改善でWatch Dogsブランドを次のレベルに押し上げたのか、そして「Can I Play That」から「Most Improvement in Accessibility in a Series」の認定を受けるに至ったのかを解説します。


10.Accessible Game Design – Infinite Play & Infinite Time

by Rory Steel, Digital Jersey

アクセシビリティはハードウェアだけではなく、ゲームデザインにも組み込まれるべきものです。私の家には障害のある二人の子供がいますが、娘が反応ベースのタイミングが必要なゲームを進めるのに苦労しているのを目の当たりにしてきました。また下の息子には負けないアドベンチャーを提供することで自信をつけさせることができました。私たちは、ゲームデザインがどのようにアクセシブルであるべきかを再考する必要があります。


11.Bridging the Gap Between Academia and Industry: Recent Trends in Academic Research

by Kathrin Gerling, KU Leuven

このトークでは学術研究の概要と、それがどのようにゲーム開発に貢献できるかを紹介し、ゲームと障害に焦点を当てたHCIおよびゲーム研究の最近のトレンドをまとめます。そしてこれらのプロジェクトから何が学べるのか(学べないのか)、また、研究者とゲーム開発者が力を合わせ、理論と実践のギャップを埋め、どうすればすべてのプレイヤーにとって意味のある体験を提供するゲームを作るることができるのかを考察します。


12.Accessibility and agile game development as a micro-sized indie

by Dr. Jim Sellmeijer, Raskal Games

このプレゼンテーションでは、インディーゲーム開発者としてのJim氏の経歴と、Raskal Games社のアクセス可能なインディーパズルゲーム「Ekstase」を作るためにagileソフトウェア開発の基本がどのように活用されたのかを語ります。


13.Growing a tree out of a wall – the CapGame odyssey

by Gwendolyn Garan, CapGame

このセッションでは、フランスのゲームアクセシビリティ専門非営利団体であるCapGameについて、2013年の設立から現在に至るまでの、多様で学際的なアクセシビリティへの取り組みについて紹介します。


14.Deafness/HoH: The State of Accessibility, Culture and Community.

by Anni Pekie, Ben Bayliss, Chris Goodyear, Nickie Harper Williams

聴覚に障害のあるパネリスト、Ben、Chris、Anni、Nickiの4人が、彼らを取り巻くゲームに関する文化や出来事について、それぞれの体験を語ります。


15.DysTrophy gaming

by Vivek Gohil

筋力が低下した状態でゲームをプレイする場合、どのようなアクセシビリティ機能が必要なのか、またそのようなアクセシビリティ機能を搭載したゲームについての理解を深めます。これによりゲーム開発者は、筋力低下や運動能力に問題のあるプレイヤーのためにゲームをどのようにデザインしたら良いのか、理解を深めることができます。


16.Connecting with Players with Disabilities

by Emilio Jéldrez, King

「Candy Crush Friends Saga」」にアクセシビリティメニューを追加したことで、プレイヤーとのつながりができ、アクセシビリティに関するフィードバックを直接受けられるチャンネルを作る機会を得ることができたというエピソードを紹介します。


17.Where do I go? The joys and frustrations of navigating as a blind gamer

by Dr. Amy Kavanagh

私は「Blind Button Masher」として仮想空間において失われた時間を過ごしています。残念ながら私の信頼する盲導犬Avaを、9世紀のイギリスやディストピアのシアトル、マーベルのニューヨークに連れて行くことはできません。このトークでは、ナビゲーションと経路探索を改善するために何ができるかを探求します。マップ、カメラアングル、HUDなど、迷える私たちのためにゲームをデザインする方法を探りましょう。

参考:Designed For Easier Navigation - Family Video Game Database (taminggaming.com)


18.Putting the Assist Mode in Control

by Vida Starčević, Remedy Entertainment

このトークでは、Remedy Entertainment社の受賞作「Control」において、発売後にプレイヤーからのフィードバックがどのようにアクセシビリティオプションの追加に影響を与えたのか、またアシストモードの搭載がプレイヤーの定着に良い影響を与えたのかについて紹介します。


19.Updates from Xbox: The Xbox Accessibility Guidelines & Microsoft Game Accessibility Testing Service

by Kaitlyn Jones & Brannon Zahand, Xbox

昨年、Microsoftのゲームアクセシビリティ製品にいくつかの変更と追加が行われました。このトークでは、Xbox Accessibility Guidelinesの更新について、更新の経緯や理由、新コンテンツの概要などを解説します。また、新たに導入された「Microsoft Game Accessibility Testing Service」について紹介し、このプログラムが誕生した経緯や、これが開発者にとってより包括的で楽しいゲームを作成するためにどのように活用できるサービスであるかについて解説します。

参考:Xbox accessibility guidelines updated, testing program announced - Can I Play That?

参考:マイクロソフトがXboxやPC用ゲームのアクセシビリティをテストする開発者向けサービスを開始 | TechCrunch Japan


20.Game Accessibility For Eye Gaze Users

by Becky Tyler

このトークでは様々なコンピュータゲームを視線でプレイした経験を紹介し、ビデオゲームが、視線を利用するユーザーにとってアクセシブルであることがなぜ重要であるのかを解説します。マインクラフト向けの「EyeMine」インターフェイスの開発に携わった経験から、ゲームを視線でアクセスできるようにするにはどうしたらよいかを考え、ゲームをデザインする際に開発者が考えなければならないポイントを解説します。

参考:Eye Gaze Games (specialeffect.org.uk)

参考:Eye-tracking software for Minecraft makes big accessibility improvements | Rock Paper Shotgun


2021年4月23日金曜日

スペイン、公共交通機関TMBの全ての駅とバス停にnavilensのddTagsが導入される。

バス停に設置されたddTags(画像引用元


2021年4月21日、スペイン、バルセロナの都市交通事業者であるTransports Metropolitans de Barcelona(TMB)は、同社が管理する161の地下鉄駅と2,600のバス停すべてに、navilensテクノロジーの二次元インテリジェントタグである「ddTags」を導入したことを発表しました

navilensが大規模な交通機関全体へ導入されたのは今回が世界初で、設置されたddTagsはTMB全体で9,100個以上にもおよぶとのことです。


ddTagsはこれら施設内のあらゆる場所、コンコースや階段、エレベーター、券売機、トイレ、プラットホームなどに設置されています。これをスマートフォンにインストールされたnavilensアプリでスキャンすれば設備に関する情報や地下鉄・バスのリアルタイムな運行状況などをアナウンスするほか、音声を用いて視覚障害者をタグの位置まで安全に誘導します。

ddTagsは一般的なQRコードと異なり、離れた場所から複数のタグを素早くスキャンすることができ、タグを目で確認できないユーザーでも簡単に利用することができるという特徴を持っています。


このプロジェクトはTMBのユニバーサルアクセシビリティマスタープランの一環として始まり、2018年2月に地下鉄フィラ駅とエスパニョーラ駅で実施された実証実験の成功を経て、2019年からddTagsの導入が本格的に開始されました。3年という歳月をかけ、一つの区切りを迎えた格好となったようです。どの駅に行っても、どこのバス停に降りてもddTagsが利用できるという状況は、navilensの利便性と実用性を大きく高めることでしょう。


またTMBはddTagsを視覚障害者だけでなく、一般の乗客に対するサービス向上にも役立てる計画です。

同社の公式アプリ「TMB Go」でタグをスキャンすることで、リアルタイムの運行情報だけでなく、例えばニュース速報、クーポン広告、観光地の歴史から語学レッスンといった読み物に至るまで、様々なコンテンツが提供される予定とのことです。

単なるアクセシビリティ向上というだけでなく、交通機関全体のデジタル化にnavilensを組み込んだ取り組みとして、今後どのような活用がなされるのか注目されます。


なおTMBは3月にもサグラダ・ファミリア駅のメインロビにおいて、ビデオによる常設手話通訳や聴覚ループを備えた聴覚障害者向けのサービス拠点である「TMBポイント」の解説も発表しています


参考:Barcelona señaliza el metro y los autobuses con etiquetas inteligentes - Smart Cities (interempresas.net)

参考記事1:スペイン発。視覚障害者をカラフルに誘導する「navilens」。

参考記事2:「NaviLens」を使ってナビゲーションを体験してみました。


おまけ:最近よんだnavilens関連記事クリッピング


米テキサス、サンアントニオの公共交通機関でnavilensを試験導入。

App Will Help Blind, Visually Impaired Navigate San Antonio (govtech.com)

スペイン、コルドバのバス停にnavilensを導入。

Córdoba incorpora NaviLens en las paradas de autobuses para facilitar la movilidad a personas ciegas (tododisca.com)

視覚障害者の買い物。navilensの今後は。

'It's impossible for blind people to go supermarket shopping – that needs to change' (inews.co.uk)


2021年4月20日火曜日

[Mac] メモ.appの操作性をVoiceoverノホットスポット機能で改善する。

macOS標準アプリケーションの一つ「メモ.app」は、テキストやURL、イメージなど様々な情報を放り込めるノートアプリケーションです。

機能はシンプルですが、iCloud同期を有効にしておけばiPhoneやiPadのメモアプリと勝手に同期してくれるので、ちょっとした情報のやりとりにも重宝します。


ただこのメモ.app、キーボードのみの操作があまり考慮されておらず、Voiceoverだとちょっと使いにくいのが難点です。

例えばメモを編集していて別フォルダに移動しようとした場合、カーソルをフォルダ一覧へ移動させるため「VO + 左矢印キー」を5回押さなければなりません。

編集画面では豊富なショートカットキーが用意されているのですが、フォルダやメモのファイルを操作するインターフェイスに関しては、マウスの使用が前提に設計されているようです。


そこでVoiceoverの機能の一つである「ホットスポット」を使い、この部分の操作性を改善します。ウィンドウスポットを使う方法もありますが、ホットスポットを使った方が圧倒的に便利です。

ホットスポットとは、Voiceoverカーソルの場所を保存しておき、Voiceoverコマンドを使ってその場所にカーソルを移動させたり、内容を読み上げたり、状態を監視したりできる機能です。ホットスポットには0から9までの番号が割り振られており、最大10箇所まで保存することができます(アクティビティで切り替えることも可能)。


今回はメモ.appを構成する「フォルダリスト」「マイメモリスト」「テキスト編集]という3つのペインをホットスポットへ保存し、Voiceoverコマンド一発でフォーカスするように設定します。

手順はシンプル。メモ.appのそれぞれのペインにVoiceoverカーソルをフォーカスし、保存したいホットスポット番号に対応したVoiceoverコマンドを実行します。

もしくはコマンドヘルプ(VO + H を2回)を開き「ホットスポット」→登録したいホットスポット番号を選択し「保存」を実行します。こっちのほうが簡単かな。


これで「Voiceoverキー + ホットスポット番号に対応した数字キー」でメモの各ペインに直接ジャンプすることができるようになります。

私はホットスポット8、9、0に登録したので「VO + 8」でフォルダリスト、「VO + 9」でメモリスト、「VO + 0」でメモ編集画面に飛べるようになりました。


またホットスポットを使うメリットはキーストロークの提言だけではありません。

たとえばSafariやテキストエディットを使っている最中であっても、ホットスポットにジャンプするコマンドを実行すれば、自動的にアプリケーションが「メモ.app」に切り替わり目的のペインにVoiceoverカーソルがフォーカスします。つまりアプリケーションを切り替える操作が不要となるのです。

さらにテンキーコマンダーが使用できる環境であれば、コマンダーにホットスポットを登録することで単一キーでジャンプできるようになりさらに便利です。


2021年4月18日日曜日

韓国ETRI、タッチパネルの任意のポイントに詳細な触覚を生成する技術を開発。

スマートフォンやタブレット端末などの電子機器において、振動を用いた触覚機能は今や欠かせないものとなっています。ただ現状の触覚機能は端末全体を振動させることしかできないシンプルなもので、通知やアラームといった限られた用途にしか活用されていません。

韓国に本拠地を置くETRI(ElectronicsはLED光源と特殊なフィルムを組み合わせることで、タッチパネルの任意の部分に繊細で多彩な振動を発生させる技術を開発しました


従来のスマートフォンやゲームパッドで採用されている触覚機能の多くは、モーターを用い振動を発生させる仕組みになっています。そのため得られる触覚はデバイス全体に及び、部分的に繊細な触覚を表現することは困難でした。

最近ではレーザーによる瞬間的な温度変化により衝撃波を発生させ、ピンポイントで振動を生成する技術が開発されています。しかしこの技術で使用されるレーザーは非常にコストが高く小型化も難しいことが知られています。


ETRIの研究チームは、低出力の光信号を振動に変換する技術の開発に成功しました。この技術により複数個の小型LEDを使用し、部分的に独立した振動を感じられるディスプレイの製造を、レーザー光源を用いる場合の1万分の1という低コストで実現します。


この技術は、光エネルギーを吸収して熱エネルギーに変換する原理に基づいています。

特殊な光熱層(導電性高分子材)を塗布したフィルムに光エネルギーを照射すると、加熱・冷却された素材の熱膨張性に応じて屈曲・復元を繰り返し、振動を発生させる仕組みです。

研究チームは1平方センチメートルのLEDユニットを3×3のマトリクスで配置し、広い周波数帯域において精密な振動が発生可能であることを確認しました。周波数は125~300Hzの範囲をカバーしており、高い周波数では優しく、低い周波数では荒々しい振動を表現します。技術的にはボタンだけでなくダイアルやスライダーといったスイッチ類の触感を再現することもできるとのことです。


薄くフレキシブルなフィルムは電気的な構造をを持たないため耐久性が高く、加工が容易という特徴を持っており、さまざまな電子機器への応用が期待されています

研究チームはこの技術を自動車内の操作パネルや医療機器、そしてスマートフォンへ応用したいと考えており、製品かへ向け改良を進めていくとのことです。


視覚障害者的には、例えばタッチパネルに表示されているボタン類を音声を用いずに手探りで探したり、表示させた写真やイラストを指でなぞり色や線を感じとる、といった用途が考えられるでしょう。もっと解像度が高くなれば、画面の上で点字を読むこともできるようになるかもしれません。

目から情報が得られない視覚障害者にとって、タッチパネルの操作は音声だけが頼りでした。これに情報量の多い触覚が加われば、その利便性は格段に向上すると想像できます。


タッチパネルに詳細な触覚を加える技術としてはこれまでも超音波や静電気を用いた製品が登場しており一部はすでに実用化もされています。

ETRIの技術が既存の製品と比べ、コストやユーザーエクスペリエンス的にどのようなアドバンテージがあるのか明らかではありませんが、様々な技術が出現し競争することで、電子機器における触覚の品質の向上と関心度の高まりが期待できるでしょう。


参考:ETRI develops a haptic film activated by LEDs | EurekAlert! Science News


2021年4月16日金曜日

視覚障害者を安全に誘導する四足歩行の盲導犬ロボット(+おまけ付き)。

ロボット盲導犬さん(画像引用元


米国カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは、盲導犬のように視覚障害者を誘導する四足歩行ロボットのプロトタイプを開発し、5月中国で開催される2021 International Conference on Robotics and Automation(ICRA 2021)へ出展すると発表しました(研究の詳細)。


このロボット盲導犬のベースとなっているのはBoston Dynamicsが開発した「mini cheetah」と呼ばれる四足歩行ロボット。レーザーによる「目」を持ち、周囲の地形を認識し障害物を避けながら指定したルートに沿って目的地まで自律歩行することができます。またコンパクトでありながら高い運動能力を持つことも特徴です。

研究チームは視覚障害者と協調して歩行できるよう、このロボット犬に伸縮可能なリードと深度カメラを加えました。深度カメラはロボットがユーザーとの位置関係を把握するために用いられます。

ナビゲーションを実行するためには、ロボット犬に歩行ルートを記載したマップデータをアップロードしておきます。このデータには詳細な地形データも含まれます。

準備ができたらリードを持って、さあ出発。


Robotic Guide Dog: Leading a Human with Leash-Guided Hybrid Physical Interaction - YouTube


ロボット犬はユーザーとの位置関係やリードの張り具合をモニターし速度を調節しながら障害物を回避しつつ、設定された目的地へ向かいます。実験の結果、ロボット犬は目隠しをした視覚障害者役の被検者三名を、目的地まで安全に誘導することができました。コースの途中にある1メートル未満の通路も、リードを緩めることで問題なく通り抜けられたとのこと。四足歩行ロボットはローラーや車輪を用いた誘導ロボットと比較し、障害物回避能力や小回り性能などの面で優れていると研究チームは語っています。


動画からも分かるように、現時点では騒音の大きさやギクシャクした動作、ユーザーに対するフィードバック不足など課題も残されています。もちろん価格の高さも大きな障壁となるでしょう。

研究チームはこれらの問題点を改善しつつ、GPSを用いたよりフレキシブルなナビゲーションなどこれまでの盲導犬では実現できなかった利便性をこのロボット犬に加えることを考えているようです。


従来の盲導犬は単なる誘導を支援するという役割だけでなく、信頼のあるパートナー、もしくは家族として精神的なケアを果たすという側面も持っています。ロボット犬はこれまでの盲導犬を置き換えるものにはなり得ないことは明らかですが、何らかの事情で盲導犬を迎えることができない視覚障害者にとっては、移動の自由を獲得するための大きな選択肢の一つとなるかもしれません。

でも街中をロボット犬に誘導される姿、想像するとかなりシュールですよね。


参考1:A laser equipped robotic guide dog to lead people who are visually impaired (techxplore.com)

参考2:Robots: Scientists develop four-legged guide dog bot that can lead blind people around obstacles | Daily Mail Online


おまけ:中国発のロボット犬「AlphaDog]。


中国に拠点を置くWeilan社は、5G技術と人工知能、各種センサーを搭載し様々な用途に活用できるロボット犬「AlphaDog]を発表しました。

AlphaDogのデザインはBoston DynamicsのSpotに酷似していることから一部ではパチモノ扱いする報道も見られます。ただAlphaDogは、Boston Dynamicsのロボットと比べすでに中国内一般向けに販売されている点が大きく異なります。価格は16,000元(2,400ドル)。これは一見するとかなりの爆安ですね。

Weilan社の担当者は将来的に、アップデートを通じて視覚障害者の誘導にも利用できるようになると語っています。


参考:Meet AlphaDog: China's Answer to Boston Dynamics' Spot | IE (interestingengineering.com)


2021年4月14日水曜日

米国。触図の研究、制作、普及、教育の促進を目指す二つのイニシアチブを発表。


A visitor explores the surface of a tactile image of 'The Mona Lisa'.(画像引用元)。


視覚的な情報を立体的に印刷する「触図」は絵画やグラフなどの言葉では説明が難しいビジュアルイメージを、視覚障害者へ伝達する手段として活用されています。

その有用性については広く認められている一方、これまで触図に関する大規模な研究や積極的な普及活動はあまり行われてこなかったと言われています。

そんな状況の中、米国で立て続けに触図に関する二つの取り組みが発表されました。


NFBなど3者、触図の制作と普及を推進するパートナーシップを締結。


2021年1月25日、National Federation of the Blind(NFB)は、触図印刷サービスTactile Images、およびストックフォトサービスGetty Imagesとのパートナーシップを通じ、触図の普及と啓発を促進するイニシアチブを発表しました。

このコラボレーションではGetty Imagesが管理する4,500万枚以上の画像からNFBがキュレーションしたイメージをもとにTactile Imagesが触図を制作。美術館、博物館、科学センター、図書館、学校、政府機関などへ提供することで視覚障害者の文化・教育におけるアクセシビリティの向上とインクルージョンの強化を目指します。

加えて三者は共同で全米を巡回する触図の展覧会の開催を通じ、視覚障害者に対する情報手段としての触図の啓発活動を行うとのことです。


Tactile Imagesの触図製品は視覚的な素材を立体的に加工することで、タッチによる感覚刺激を通じ視覚障害者へ情報を提供します。

同社の技術では触図に埋め込まれたセンサーによりタッチした部分に応じた音声ナレーションを用いたインタラクティブな仕掛けや香りを発生させるパーツを組み込むことで触覚、聴覚、嗅覚を組み合わせた多感覚なエクスペリエンスを実現。この複合的な感覚体験は触覚を強化し、視覚障害者に対しメンタルイメージの構築を効果的にサポートします。


このイニシアチブの一環として、50,000人以上の視覚障害者を対象に、触図で真っ先に体験したい写真やアートのモチーフに関する調査が実施されました。

その結果、人物写真では「ルイ・ブライユ」「マーティン・ルーサー・キング・ジュニア」「アルバート・アインシュタイン」。風景では「ホワイトハウス」「グランドキャニオン」「自由の女神」、そして報道写真として「月面着陸」「公民権運動」「9.11同時多発テロ」といったイメージが多く挙げられたとのことです。

この調査からも分かるように、見えている人々の間では当たり前のように広く共有されているイメージでも、視覚障害者にとってはいまだに未知の領域である事実がわかります。晴眼者とコミュニケーションする上でも視覚的な情報が共有されているかどうかでその質は大きく異なってくるでしょう。触図の普及が、このような情報格差を狭める一つの鍵となるかもしれません。


なおTactile ImagesのWebサイトではGetty Imagesから触図に変換したいイメージを検索したり、現在開催されている巡回展などの情報が掲載されています。


参考:Tactile Images Partners With Getty Images and the National Federation of the Blind to Deliver More Than 45 Million Images to the World's Blind and Disabled Population (prnewswire.com)


触図を研究、促進するコンソーシアムを設立。


2021年3月4日、National Braille PressとLightHouse of San Francisco、およびアラバマ大学ハンツビル校は、共同でアクセシブルな触図に関する研究を行う組織であるthe Accessible Graphics Consortium(AGC)の設立を発表しました。


AGCは研究、製造方法の改善、カリキュラムの開発を通じ触図の普及を目指すことを目的としており、まずはSTEAM(Science、Technology、Engineering、Arts、Math)の各分野に対応した教員養成プログラムの作成に注力し、ベストプラクティスの収集、分析、推進、コミュニティへの発信を行います。


また、これらの取り組みをサポートするための諮問委員会を設置。ステークホルダーには、American Printing House(APH)、National Federation of the Blind(NFB)、American Foundation for the Blind(AFB)、teachers of the visually impaired (TVIs)といった視覚障害関連組織、さらに学術研究者、カリキュラム開発者、点字や触図の大手ベンダーなどが含まれます。


触図はこれまでも世界各地の支援組織や個人によって制作されてきましたが、総合的な形としての研究はほとんど行われてこなかったとのこと。点字が視覚障害者にとって重要なカリキュラムとなっている一方、触図は統一されたノウハウが共有されておらず過小評価されてきたと言います。確かに視覚リハビリテーションの中で「触図の読み方」みたいなトレーニングはあまり見かけたことはありませんしね。


このコンソーシアムは視覚障害者のための触図の制作、教育、リーディングスキルの学習に統一的なアプローチをもたらすことで、視覚障害コミュニティの触図に対するアクセシビリティの向上を目指すとのことです。もしかしたら触知案内図に関するISO 19028のような統一規格の提案なども考えられているのかもしれません。これはあくまでも想像。


参考:National Braille Press, LightHouse of San Francisco, University of Alabama Huntsville Launch the Accessible Graphics Consortium (prweb.com)



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