2018年8月30日木曜日

AIRAで視覚障害者に「買い物の自由」を

視覚障害者の日常生活では、さまざまな「困りごと」が発生する。 電車に乗って出かけたい、届いた郵便物を確認したい、自分でお料理したい……など。 「買い物」も、その中の一つだ。 近年ではネットスーパーなどの食料品をWebから購入する手段が増えてはいるが、全ての視覚障害者がWebを操れる訳ではないし、やはりお店にふらっと出かけて並んでいる品物を選ぶ楽しみを体験したくなるもの。もちろん家族やヘルパーなどの援助を受けたり、店員のヘルプで買い物する方法もあるが、これもやはり「条件付き」の自由だ。 画像認識AIや屋内ナビゲーションで単独での買い物を支援する技術も開発されてはいるが、まだ実用には至っていないというのが現状。 米国で97の店舗を展開するスーパーマーケットチェーン「Wegmans」は、全ての店舗で「AIRA」による視覚障害を持つ顧客のサポートサービスの提供を開始した。 AIRAはスマートフォンやスマートグラスを介して視覚障害者と訓練を受けたサポートエージェントをつなぎ、さまざまな支援を遠隔で行うサービス。スマホやスマートグラスのカメラで撮影されたリアルタイム映像をエージェントが確認し、音声通話で映し出された物品を説明したり、目的の場所までのナビゲーションなどを行ってくれる。 Wegmansを訪れた視覚障害者は、AIRAアプリを手持ちのスマートフォンにインストールし、ゲストアカウントでログインする。これで店内のWi-Fi接続でAIRAのサービスを無料で利用できるようになる。家族や店員の助けが無くても、好きな売り場へ移動したり、鮮度の良い野菜やフルーツを一人で選ぶ…といったショッピングを楽しめるのだ。 AIRAのサービスは個人契約(有料)が基本であるが、CES 2018などのイベントでサービスをスポット提供したり、米国のいくつかの空港で無料サービスを開始している。スーパーマーケットへの導入はWegmansが初とのこと。 スーパーマーケットと聞くと日本人は狭くて商品が細かく並んでいるという風景をイメージしてしまうが、米国のスーパーは一般的に通路も広く、陳列されている商品も大量かつ生前としているため、AIRAのような遠隔サポートも行いやすい。ショッピングカートを使えばスマホを使いながらでも買い物を楽しめる。 細かい仕様は不明なので、あくまでも想像だが、Wi-FiやBluetoothによる屋内測位でユーザーの位置を特定し、エージェントが店内マップを元に商品棚へ案内するような仕組みもあるのかもしれない。 筆者個人の感覚としては、買い物は結構パーソナルな行為と認識しているため、人力サポートのAIRAを使いたいか?と言われると「場合による」という感じではある。 だが、自分の好きな時間に、確実なショッピングができる自由は、大きな進歩といっていいだろう。 米国でトップクラスのチェーンであるWegmansは他にも、薬局カウンターやレジで聴覚障害者のコミュニケーションをサポートする「Hearing loops」や、自閉症を持つ顧客のために、BGMなどを止める「Quieter Hour」を定期的に設けたり、託児所などの保育サービスもいち早く導入している。売上だけでなく、顧客満足度でも常に上位をキープしているのは、このような包括的サービスも影響しているのだろう。 このような試みは、これまで閉ざされてきた障害者のニーズを掘り起こし、その結果、企業のイメージだけでなく業績にも貢献している好例かもしれない。 むろんこのようなサービスが、そのまま日本で提供できるかはわからないが、支援技術を活かし、少しずつでも障害者の「困りごと」が解消される未来を期待したい。 関連リンク: ・Wegmans Becomes the First Aira-Enabled Supermarket Chain in the United States - Aira / Aira ・Wegmans launches app to assist visually impaired customers | Food Dive

2018年8月29日水曜日

横断歩道と、関連支援テクノロジー


視覚障害者にとって、横断歩道は鬼門である


視覚障害者の単独外出には、実にさまざまな障壁が立ちはだかる。
できる限り安全な歩行をするためにも、歩行訓練を受けたり、歩行ルートを脳内マップに叩き込んだりするわけなのだが、どんなに準備万端で外出に臨んでもトラブルになるポイントがある。それが横断歩道だ。
なお本エントリーの内容は筆者(ほぼ全盲)の基準で執筆している。同じ視覚障害でも、見え方により不便に感じる部分は異なるだろう。

横断歩道を渡るには車道を横切らねばならないわけだが、ここにはまっすぐ歩くための目印が無い。横断する車道幅が狭ければまだいいが、4車線くらいの幅広だと、歩行ルートがズレてしまう危険性がある。ズレる方向次第では思い切り車道に出てしまい非常に危険。そのため歩行訓練ではズレる前提で、車道とは反対寄りに横断するように指導される。
結果、頭に描いていたルートと実際のルートが乖離してしまい、それをリカバリーするために大きなタイムロスを余儀無くされてしまう。まあそれくらいならまだいいが、下手をすると命の危険にも晒されるのが、視覚障害者にとっての横断歩道だ。


音響式信号機とエスコートゾーン


視覚障害者の道路横断を補助する仕組みとして真っ先に思い浮かぶのは、音響式信号機だろう。青信号になると「ピヨピヨ」「カッコーカッコー」言うアレである。これは信号が変わったことを認識できるだけでなく、対岸のスピーカーの音を聞きつつ、それを頼りに大きくコースを外れず安全に横断できるように設計されている。訓練すれば、これだけでかなり安全に横断できる。
しかし、この信号機は騒音トラブルになりやすいため、音が鳴る時間帯が制限されていたり、ボタンを押さないと動作しないものが結構多い。単独では押しボタンの位置がなかなか見つけられないことも多く難儀してしまう。
なお対応する信号機(音声標識ガイドシステム)で青信号の時間を延長したり音響の制御ができる「シグナルエイド」という商品も販売されており、よく通るルートに対応信号機が設置されていレバ、導入を検討してもいいだろう。
音響信号の新規設置は道路を管轄する部署(自治体、警察)に申請するのだが、前述の理由で住宅地に近い場所では却下されるケースも多いようだ。

もうひとつ、視覚障害者の横断をサポートする設備がエスコートゾーン
これがあれば、幅広の横断歩道も白杖を使って確実に渡ることができる。
しかしこれ、なかなか見かけない。今後の普及を望みたいところだ。

なお、横断歩道の中でも難易度が高いのが「スクランブル交差点」。斜めに横断するには音響ありでも距離が長く、ほかの歩行者との接触リスクも高いため、慣れていないと2段階右折のように時間をかけて横断することも少なくない。


テクノロジーで安全な道路横断を


現状では音響式信号機がほぼ唯一の手助けではあるが、各所ではさまざまな支援技術の開発が進められている。
その一部をざっくり紹介しよう。

1.コンパスアプリを応用

いきなり自己流のお話で恐縮だが、
「振動コンパス」というiPhoneアプリを使い、「代替まっすぐ」歩くテクニックがある。
ちょっとコツが必要だが、明後日の方向へ歩いてしまうという失敗を防げる。
具体的な使い方はこちらのエントリーを参照していただきたい。

2.信号機の判別支援

視覚障害者が直面している問題の一つに、音響式ではない、または音響装置が作動しない時間帯での、信号の判別が困難、という点が挙げられる。
この問題を解決するために、主にスマートフォンを用いた歩行支援システムが研究されている。
具体的には、画像認識を使ったり、電波(おそらくBluetooth?)で信号機の状態を判別してスマートフォンに知らせる仕組み。シグナルエイドのように、青信号を延長する機能を持つシステムもあるようだ。
音響式信号機のように、対岸まで誘導してくれる仕組みは持っていないため、完全な代替システムではないが、原理的に導入コストが低いと予想されるため、実現性は高いと想像できる。

関連リンク:

3.ビーコンなどを用いた誘導システム

前述の技術をさらに一歩進め、信号機に設置されたBluetoothビーコンを用いて、信号機の状態を歩行しゃに伝えつつ、音声や振動で横断をナビゲーションするシステム。
カナダで実証実験が始まっている「Key2Access」がその一例。

他にもまだ実験段階だが、交差点や他の歩行者をカメラで捉え、画像認識で歩行者をナビゲートする手法も研究されている。画像認識ベースのシステムであれば導入コストも低く、既存交通システムへの影響も少ないため期待できるが、現段階ではビーコンや音響による誘導に比べ確実性が低いとのこと。今後新装学習モデルが進化していけば、信頼性も向上し実用的になるかもしれない。

関連リンク:

4.交差点の地面に仕掛けが

視覚障害者の横断をナビゲーションするもう一つの手法が、地面に何かしらの仕掛けを施し、それを辿って歩行する仕組み。
例えば横断歩道の塗料に特殊な材料を用い、スマート白杖で歩道のペイントをたどると振動してナビゲーションしたり、地面に埋め込んだ磁石に反応して神童する靴といった技術が応用できるかもしれない。
ただこのような技術は導入コストも高く、歩行者がわにも専用のデバイスが必要など課題は多そうだ。

関連リンク:


音響信号に代わるシステムの普及を


様々なアプローチで視覚障害者の横断を支援する取り組みが進められているが、ナビゲーションの信頼性とコストを考慮すると、信号の通知システムとエスコートゾーンの組み合わせが、現時点ではベターなのでは、というのが筆者の感想。ただ「Key2Access」のようなナビシステムが安定・低コストで実現すれば、そちらが本命になり得るだろう。
騒音などの諸問題で音響信号が設置できないケースが目立つ中、それに代わる技術の普及が急がれる。


2018年8月28日火曜日

視覚障害者とコンパスの、ちょっといい関係


視覚障害者の外出を支援するアイテムとして、古くから利用されているのがコンパス(方位磁針)。視覚障害者が単独で歩行する場合、視力以外の感覚を駆使しながら、脳内の地図と自分の位置を確認しながら目的地を目指す。
だが、さまざまな要因で自分の位置を見失うことが少なくない。其の要因の一つが、方向感覚の喪失である。
方向感覚を取り戻す方法としては、自動車屋歩行しゃの流れる方向、特徴のあるおとや香り、太陽光や風向きなどの自然現象などがあるが、常に其のようなヒントが与えられるケースばかりではない。
そのような時に、自分の向いている方向を客観的に評価できるコンパスが重要となってくる。

クラシックなタイプでは、アナログな方位磁針に点字とフタが付いており、フタを開けると磁針が固定され、指で触って方角を知るものが主流。だが指で針に触れることで故障などが多いためか、現在は音声コンパスや、スマートフォンなどに内蔵されている電子コンパスの利用が多いようだ。
特にスマートフォンでは、コンパスアプリとスクリーンリーダーの組み合わせで音声コンパス代わりとして利用するほか、地図アプリにおけるターンバイターン・ナビゲーション機能などで、電子コンパスが利用されている。

例えばiPhoneに標準でインストールされている「コンパス」アプリは、8つの方角だけでなく、北を0度とした360段階での計測が可能。Voiceoverを使った読み上げにも対応している。

さてコンパスは基本、自分の向いている方向を調べるのが主な用途だが、工夫すればちょっと便利な使い方もできる。
例えば横断歩道を歩くときや、点字ブロックが一部途切れている歩道などで、短い距離を直進したい場合がある。そんな時にコンパスを使えば、ある程度コースをキープした状態で歩くことができる。方法はシンプル。まっすぐ歩きたい方向を決めたら、コンパスの方角を調べながら、同じ方向へ歩けばいい。ただ、アナログコンパスだと磁針が安定するのに時間がかかるし、音声コンパスは場所によっては音声が聞きづらかったり、音声を聞くためにデバイスの向きが変わってしまい、なかなか正確な歩行が難しい。
そこで、音声ではなく振動で方角を調べられるiPhone用コンパスアプリ「振動コンパス」を使った歩行の例を紹介し用。

このアプリはシンプルなコンパスアプリだが、方角を音声で確認しやすいように、画面をダブルタップして計測値をロックしたり、「真北」を向くと、iPhoneが振動するという特色を持っている。
この振動機能を使って、直進歩行する手順を簡単にまとめると、

1.直進したい方向を向く。
2.振動コンパスを起動し、iPhoneをくるくる回して北を探す。
3.iPhoneが振動したら、其の位置でホールドする。
4.振動をキープさせながら歩く。

という感じになる。
神童する範囲にやや幅があるので、完全にまっすぐに歩けるわけでは無いが、横断歩道くらいなら大きくルートをズレることはないだろう。また、人とぶつかって方向を見失った時のリカバリーにも役立つかもしれない。
とにかく、iPhoneをガッチリとホールドするのが肝心だ。もちろん、白杖などで常に安全を確保する必要があるのはいうまでもない。

晴眼者にとっては、あまり意識して使うことは少ないコンパスだが、視覚障害者にとっては非常に貴重な情報ツール。訓練などでもあまりコンパスの使い方を学ぶことはなかったが、使い始めるとなかなか奥深さを感じるアイテムだ。
さまざまな位置情報サービスやナビゲーションアプリが登場している昨今だが、あえてコンパスと脳内地図だけで出歩いて見るのも面白いかもしれない。


2018年8月26日日曜日

視覚障害者への情報伝達手段を整理してみる。



地域さが大きい情報保障


さて筆者は目下ライターとして社会復帰を目指してお勉強中。
(書ける媒体募集してます)

それと並行して、とある地域(居住地でない(での、視覚障害者の情報保障・ITリテラシー向上を目指すべく活動を(ゆっくりですが)開始しました。
スマホ勉強会などのイベントを計画しているのですが、それとともに、いかにして地域の情報を視覚障害者(手帳の有無にかかわらず)へ伝えるかが大きなテーマになっています。
障害者に対する施策は自治体で大きな隔たりがあり、情報保障もその例外ではありません。
筆者が現在住んでいる地域には市営の点字図書館が設置されており、広報はもちろん、地域のミニコミに至るまで音訳され、在住視覚障害者の手元に届きます。他にも代読サービスやパソコン・展示講座などのサービスも充実。
ところが今度お手伝いする地域は、隣市でありながら、そのようなサービスをほとんど受けられない。何を隠そう、現住所の前はそちらに居を構えていたので、その格差を身をもって感じたわけです。
無論、理想としてはどこに住んでいても同様のサービスが受けられるような広域サービスの仕組みが必要と思うのですが、何はともあれ現状できることを模索すべく、微力ながら活動を開始したというわけです。

てなことを踏まえ、今回はきそ調査のメモです。
地域の視覚障害者に情報を伝達する「手段」について、改めて整理します。
視覚障害者の「見えにくさ」は人によりさまざまですが、情報保障を考える場合、全盲の方を基準に考えなければなりません。そうなると、いわゆる「墨字」印刷は除外です。利用している情報端末やITスキルなどを考慮しつつ、どのようなメディアが適していルカを考えて見ました。


1.メディアを郵送する


パソコンなどの情報端末を利用していない、インターネット環境を持たない、またメールの読み上げができない携帯電話を使っている要支援者へ情報を提供するには、郵便を用いるのが一般的と言えます。長く利用されているメディアであるため、高齢者にも受け入れられやすいメリットがあります。反面、点訳・音訳といった作業が加わるため、どうしても情報の新鮮さが若干落ちるのは致し方ないところ。
また、どのように個人情報を集めるのかなど、周知面でハードルの高さが予想されます。
さらに点訳・音訳・郵送など、情報提供側のコストも考慮する必要があります。

1-1.点字
情報を点訳し、郵送する形式。
ただ中途視覚障害者は、多くが点字を読むことができないため、ニーズは少ない傾向にあります。
郵便物やCDケースを判別するため、点字を用いるのは効果的です。

1-2.オーディオCD/デイジーCD
情報を音訳し、オーディオCD、もしくはデイジーCDで配布する形式です。
オーディオCDは音楽CDを再生できる機器があれば利用できるため、本記事で挙げたメディアの中ではもっとも手軽に再生できる形式と言えます。デージーCDは、専用端末「プレクストーク」シリーズか、パソコン・スマートフォンのアプリを用いて再生します。デイジーは目次から簡単に内容を聞けたり、再生スピードの調整ができるのが大きな魅力。
同じ録音データから、オーディオ/デイジーCDを作成できるため、リクエストに応じて製作枚数を決めます。

1-3.SPコード(音声コード)
専用機器やスマートフォンのアプリでバーコードをスキャンすると、テキストを読み上げるシステム。ただ、個人的にはコード自体あまり見かけません。
収録できる文字数(800文字)も、広報などの配布には少ない印象。


2.インターネットで情報提供


すでにパソコンでメールを利用していたり、スマートフォンやタブレット、音声読み上げできる携帯電話を利用している要支援者に対しては、メールなどを用いた情報提供が可能です。受診した情報は、それぞれの端末で音声読み上げ(スクリーンリーダー)を利用して読むことになります。
この方法のメリットは、情報提供側の負担が少ないという点が大きいでしょう。反面、受信者側のITスキルがある程度必要になるため、そのあたりのフォローが必要かもしれません。また郵送と同様、いかに周知させるかという課題は残ります。
将来的にはメッセージの既読ステータスやGPSなどを用いた見守りサービスのような展開も面白いかもしれません。

2-1.テキスト形式メール
一部のガラケーのメール機能やショートメールを用いる場合は、プレーンなテキスト形式でメール送信する必要があります。あまり内容が多いと、読むのが大変かもしれません。

2-2.HTML形式メール
パソコンやスマホ、タブレット宛のメールであれば、見出しタグを付加したHTML形式で送信することで、情報のアクセシビリティが工場します。テキスト形式と同じように順番に読むこともできますが、見出しジャンプ機能を覚えれば、必要な情報を見つけやすくなります。

2-3.Web
メールでは送信できない、ビデオや大きな写真、PDFファイルなどを配布する場合は、メールからWebへ誘導する方法が考えられます。
ただ、一部のガラケーなどでは対応できない可能性があります。


3.その他(放送、電話)


ある程度の設備が必要であるためあまり現実的ではありませんが、コミュニティFMなどで情報を提供したり、自動応答の電話サービスで情報を発信する方法も考えられます。特にラジオ放送は、世界各地で実施例が多く見られますが、近年はWebへの移行が進んでいるようです。
デメリットとしては、ラジオ放送は、放送時間帯に受診しなければならない「時間的な縛り」が避けられない、電話サービスは通話料金が発生するうえ、意識的に電話を掛けなければ情報にたどり着けない(プル型)のため、隔日制にかけるといえます。
反面、周知すれば不特定多数の要支援者からアクセスが期待できます。住所やメールアドレスを積極的に登録しないような、潜在的な要支援者の掘り起こしができるメディアかもしれません。


ひとまず、まとめ


という感じで、ざっくりまとめて見ました。
現状では、多くの地域でオーディオ・デイジーCDでの情報提供が中心となっている印象ですが、情報提供のスピードや人手不足などを考慮すると、今後はインターネットも積極的に利用されるべきではないかと考えます。
とはいえ、やはりCDでの情報伝達はしばらくなくならないのかな?

今回は結論は出さずです。

2018年8月25日土曜日

Pornhubのバリアフリー化が示唆するもの


視聴覚障害者が映像コンテンツを楽しむ環境は、、少しずつ整備されてきている。
テレビの副音声・字幕や、バリアフリー映画上映といった以前から提供されていたものに加え、近年ではDVDやBlu-rayソフトに音声ガイドやクローズドキャプションが収録されることも珍しくない。さらにNetflixやAmazonプライムビデオなどの配信サービスでも、バリアフリーコンテンツの整備が進められている。
特に「UDCast」に代表される、映像同期型の音声ガイドと字幕提供アプリの登場で、視聴覚障害しゃが映画を楽しむハードルが一気に下がった。

しかし有力な映像コンテンツでありながら、いまだにバリアフリーが進んでいないジャンルがある。
成人向けコンテンツ、いわゆる「アダルト動画」だ。
字幕や副音声がつけられたアダルトコンテンツは、存在したとしても、あくまでドラマや会話シーンで視聴者の母国語に翻訳されたセリフを吹き替え音声や字幕で流す、といった使われ方が中心。
視覚障害者のために、状況を音声で解説する「音声ガイド」や、会話に加えBGMや効果音などを字幕で解説するクローズドキャプションのようなバリアフリーコンテンツが提供されることは、ほとんどなかった。

米国の大手ポルノサイト「Pornhub」は、2018年6月に、一部のビデオにクローズドキャプションを追加し、聴覚障害者も楽しめるコンテンツの提供を開始すると発表した。
同社はこれに先立ち、2016年6月から視覚障害者向けの音声ガイド付きコンテンツの提供を開始している。
これにより、音声が聞き取りにくい視聴者でも出演者の会話内容はもちろん、効果音や音楽といった情報を字幕によって得られるようになる。
音声ガイドでは出演者の衣装や動きなどの視覚情報をナレーションで楽しめる。音声ガイドは合成音声ではなく、声優が担当しているようだ。
いずれもまだ一部の動画に限定されているようだが、この試みが成功すれば、他のサイトや地域・言語への波及も期待できる

Pornhubがこのようなサービスを開始する背景の一つには、ada法などのアクセシビリティ法の遵守という側面があるだろう。だが利益追及が使命の民間企業が、それだけでここまで大掛かりな施策を実行するとは考えにくい。あくまでも想像だが障害者の人口比率で見ても市場として十分であり、支援技術を活用することで、コンテンツを提供する価値があると判断した可能性は高い。
とはいえ、メジャーな映画会社や放送局のような潤沢な資金を持つ企業ならまだしも、大手とはいえ限られたジャンルで経営するアダルトサイトが、このような取り組みを行う意味は、決して小さくない。支援技術を適切に導入すれば、障害者相手に十分利益が見込めることに、大企業に限らず多くの企業が気付き始めている。ある意味で、Pornhubの取り組みは、米国社会の成熟どを表す一つの例なのかもしれない。

ああ、何かすごく硬いエントリーになってしまった。
本当は「音声だけでエロは成立する!」というテーマについても書きたかったのだがそれはまた別の機会に。

関連リンク:


2018年8月24日金曜日

「合理的配慮」について、ふと思ったこと。


世間は障害者の法廷雇用率水増しの件で揺れまくってますね。
この件についてはひとまず調査結果を待ちたいところですが、どうなりますことやら。筆者も1年弱、障害者枠で職探しの経験があルため、事の成り行きに注目せざるを得ません。ちなみに面接まで進めたのは1社のみでした)もちろん不採用)。

で、障害者雇用を考える上で避けられないのが、2016年4月に施行された障害者差別解消法。この法律で、公的機関が障害者を雇用する際に合理的配慮を義務付けられました)民間企業は努力目標)。
ただ、そもそも「合理的配慮」、ひいては「配慮」とは何を指すのか。このテーマは各所で深く議論されているのでここでは迂闊に語りませんけど、「配慮」について個人的に思いついたりしましたのでつらつら書いてみようかなと。

石川准先生の言葉をお借りすれば、現状の社会は健常者への配慮が十分に足りている状態であり、一方で障害者に対する配慮が不足している。これを埋めるのが障害者差別解消法で定められた「合理的配慮」という考えです。筆者もこの考え方に同意します。
これは国連の障害者権利条約の基本的な理念である「障害の社会モデル」に通じる考え方。要するに、障害者の暮らしづらさ・働きづらさは障害者個人にあるのではなく、障壁(バリア)を放置している社会システムに起因するということですね。
この考え方は障害者研究周りでは浸透していると思うのですが、社会一般にはまだまだ知られていないな、というのが正直なところです。

さて、ここまでのくだりで個人的に興味を覚えたのが「健常者はすでに配慮されている」という考え方です。どういう状況だろう?とぼんやり考えてみると、一つ思い当たるフシがありました。
筆者はほぼ全盲の視覚障害者で、普段は家族と同居しているのですが、デスクにずっと張り付いて作業していると、いつの間にか日がくれていることがよくあります。
そういう状態で、家族が仕事部屋に入って来ると、もちろん真っ暗で驚かれる。
驚かれるので、以降はできるだけ時間をチェックして照明を点けるようにしたのですが、これはつまり「全盲者が晴眼者に配慮」している状態では無いか。
似たようなエピソードで、少し前に故・永六輔さんが知人の全盲夫婦が、晴眼者を自宅に招く際に冗談混じりに「めあきが来るよ」と照明を灯す、とラジオでお話していたのを思い出しました(ディテールの違いはご容赦)。
このシチュエーションを拡張すれば、例えば地下鉄構内や夜間の照明は「晴眼者への配慮」と言えなくもありません。
駅構内で言えば、照明は晴眼者、点字ブロックや誘導音響は視覚障害者への配慮、ということですね。配慮と聞くと「社会的弱者のためのもの」と考えがちですが、見方を変えると、あらゆる人は配慮されていることに気がつきます。
まあ若干強引な例えだと自覚はしているのですが、障害の有無に関わらず、全ての人々は何かしらの配慮を受けて生活している、と考えれば「合理的配慮」ということばも腑に落ちやすくなるのでは無いかな?となんとなく思った次第です。

まとまりなくてスミマセン。
ドットはらい。


2018年8月20日月曜日

画面の割れたiPhoneも、Voiceoverなら操作できる(かも)


iOSのスクリーンリーダーVoiceoverは、主に視覚障害者や失読症患者のために用意された支援技術だが、そのようなハンディを持たない一般のユーザーにとっても、役に立つケースも少なくない。
そのような支援技術の応用例を紹介する。

画面が割れても、諦めることなかれ

ふと手に持ったスマートフォンが、何かの拍子にするりと地面へダイブ。
誰もが体験したことがある、悪夢のような瞬間だ。

いくら防滴・防塵スマホを選ぼうとも、ゴツいケースでガードしたとしても、避けられないのが落下・衝突などの物理的プレッシャーに起因する「ディスプレイの破損」だ。
いうまでもなくディスプレイはスマートフォンの生命線。破損により正常に画面が表示されなくなるのはもちろん、ひび割れなどでパネルに電流が流れなくなると、タッチ操作を受け付けなくなってしまう。
普段から定期的にバックアップしておけば、端末を修理したり買い換えたりした後にデータをある程度復旧させることができるが、破損は突然やってくる。直前まで作業していたデータや撮影した写真は失われてしまうし、急いでだれかに連絡しなければならないかもしれない。場合によってはパスコードが入力できず、ロック画面から先へ進めない、なんてことにもなりかねない。

もし、悲嘆に暮れるあなたが手にしている満身創痍のスマートフォンが「iPhone」で、
わずかでもタッチパネルに操作可能な部分が残っているのなら、のぞみがある。

iPhoneには、画面が見えなかったり、文字が読めないユーザーのために「Voiceover」という昨日が標準で用意されている。
具体的な操作方法は後述するが、視覚情報なしでiPhoneを操作できるように、Voiceoverのジェスチャは、通常の操作とは大きく異なっており、ディスプレイの一部が反応しない状態でも、残存している部分を使ってiPhone全体の操作が可能になっている。
この昨日を使い、瀕死のiPhoneからデータをサルベージしたり、緊急の連絡を行う方法を紹介仕様。


Voiceoverをオンにするには


通常、Voiceoverをオンにするには、iPhone設定の「一般」>「アクセシビリティ」>「Voiceover」と進み、Voiceoverをオンに切り替えればいいが、ディスプレイの破損状態によってはこの方法は使えない。
だがiPhoneの画面が大きく破損してしまい、通常の操作ができな区なってしまったも、ホームボタンやiTunesを用いてVoiceoverをオンにする方法がある。

ホームボタンのトリプルクリック

この方法を実行するには事前に設定が必要。
iPhone設定を開き、「一般」>「アクセシビリティ」>「ショトカット」と順に開き、「Voiceover」にチェックを入れる。
このとき、Voiceover以外の項目にはチェックを入れないようにしよう。
この設定をしておけば、ホームボタンを3回連続して押すと、Voiceoverがオンになる。Voiceoverをオフにするには、もう一度ホームボタンを3回連続して押せばいい。この機能はロック画面でも使用できる。

Siriを使う

Siriが使える状態になっていない場合は、iPhone設定の「Siriと検索」を開いて初期設定を行う。
その上で「ホームボタンを押してSiriを使用」と「ロック中にSiriを許可」を有効に設定する。

ホームボタンを長押ししてSiriを呼び出し、
「ボイスオーバー オン」と話しかけるとVoiceoverがオンになる。
Voiceoverをオフにするには「ボイスオーバー オフ」と話しかければいい。
もしロック中にSiriを許可するのは心配なら、前項のホームボタンのトリプルクリックを使おう。

パソコンのiTunesに接続する

もし日常的にiPhoneとパソコンのitunesを接続して同期やバックアップを実行しているなら、iTunesからVoiceoverをオンにすることもできる。
ただ、接続するタイミングによっては、iPhone側からパソコンとの接続を改めて許可しなければならず、ディスプレイの破損箇所によってはこの方法は使えないかもしれない。

無事iPhoneとiTunesが接続できたら、iPhoneの概要ページにある「アクセシビリティの設定」ボタンをクリックして、Voiceoverにチェックを入れよう。


Voiceoverの操作方法


さて、なんとかVoiceoverがオンになっただろうか。
Voiceoverの操作は、通常のタッチ操作とは大きく異なり、アクションを実行したい部分を音声で読み上げさせてから、タップ操作などを実行する「2段構え」になっている。
ジェスチャの基本は、

1本指で左右にスワイプ 操作する項目を選択する(項目を読み上げ)
1本指でダブルタップ タップ操作を実行する

また、ホームのページを移動するには、右スワイプして「全XXページ中XXページ目」と読み上げられたら、1本指で上下にスワイプすればOK。
これらのジェスチャは、タップしたい場所とは無関係の位置で操作しても確実に操作することができ、画面表示されなくなった部分も、音声を頼りに操作することが可能だ。
他にもさまざまなジェスチャがあるが、操作できる部分が限られる状況では使えないものもある。とりあえず、この基本ジェスチャを覚えておけば最低限の操作ができるだろう。

ロック画面でパスコードを入力するには、左右スワイプですうじを選び、ダブルタップで入力していく。
ホーム画面が開いたら、「写真」を開いてカメラロールからバックアップしていない写真をクラウドに保存したり、「電話」アプリを開いて、連絡先や着信履歴から発信することもできる。
うっかりバックアップを怠っていたとしても、iCloudバックアップやフォトストリームを有効にしてデータの救出も可能だ。

多少、操作に時間がかかってしまうが、通常の方法では手も足も出ない「画面が割れたiPhone」から貴重なデータを可能な限り救い出せるのは大きな違いだろう。
前述の通り、VoiceoverはiPhoneに標準搭載されている昨日ではあるが、緊急時に素早く機能を有効にするためには事前の設定が必要。個人的には「ホームボタンのトリプルクリック」が通常使用での影響も少ないので、設定しておくことをお勧めしたい。
きっと「設定しといてよかった」と思える日が来る……かもしれない。
何はともあれスマホの落下には、くれぐれもご注意を。

関連リンク

Androidスマホの対処法にも触れられている。


2018年8月14日火曜日

「音声で読む」行為を拡張する2つの技術


多くの視覚障害者は、音声で情報を得ている


放送や新聞・雑誌、Webに到るまで、情報を入手する手段は多岐にわたるが、基礎となるのは「テキストを読む」という行為に帰着するだろう。一般的にテキストを読む行動には、目読や黙読、速読といったさまざまな手段があるが、「目で読む」ことに変わりはない。
では視覚に頼れない視覚障害者は、どのようにテキストを読むのだろうか。大きく分けると、触覚を使う「点字」と、聴覚を使う「音声」の2通りに分けることができる。
特に音声を使用するテキスト読み上げは、スクリーンリーダーの進化により、多くの視覚障害者が音声を使い情報を入手できるようになってきている。

だが音声による読書は、視覚を用いた読書とは全く異なる体験だ。もちろん「文字の形」といった視覚的な情報が得られないという部分も大きいが、音声ではテキストを読みながら、内容に応じて読むスピードを変化させたり、確認したい部分を行き来して繰り返して読む、逆に文章を読み飛ばして興味のある部分をかいつまんで読む、といった読み方が難しい。目でテキストを読む場合は、無意識にこのような読み方ができるのだが、音声ではそのような柔軟な読書には対応できない。その結果、音声での読書はどうしても時間がかかりがちなのだ。
これらの問題は、点字を習得することである程度は軽減できる。だが、特に中途で視力を失った視覚障害者が点字を(しかも目読レベルの速度で読めるまでに)マスターするには、相当の時間と根気が必要なのが実際のところだ。

iPadで柔軟な音声読書ができる「SDF」


Texas A&M大学のFrancis Quek教授のチームが開発した新しい音声読書システムは、視覚障害者の読書体験をいっぽ全身させるかもしれない。
「STAAR Description Format (SDF)」と呼ばれるこのシステムは、iPadにプラスチック製のオーバーレイを装着し、専用アプリケーションにインポートしたPDFファイルを指でなぞりながら読むことができるというもの。
読書者は、オーバーレイのガイドを指で辿りながら、任意のスピードでテキストを音声で読むことができる。指がガイドから外れてしまったり、文の末尾に達するとサウンドエフェクトで通知してくれる。この技術のキモは、指の位置やスピードに同期した音声読みあげを実現するアプリケーションの部分だろう。どこまで自由自在な読み上げが可能かは、リリースやビデオだけでは判断できないし、日本語対応にはまた別の課題もありそうだが、音声による読書の弱点を埋める提案の一つとして注目したい技術だ。

指で文字を認識して読み上げる「FingerReader」


SDFと同様に「指でなぞって読む」技術としては、MIT・Augmented Human Labのの研究チームが2014年に発表したウェアラブルデバイス「FingerReader」がある。
FingerReaderを指に装着して、本屋商品パッケージ、郵便物などに書かれた文字をなぞれば、その文字をリアルタイムに認識し、音声で読み上げてくれる。
触覚フィードバックも搭載されており、テキストの有無や指が行から外れてしまった時などに、バイブレーションで知らせ、ガイドすることもできるようだ。これが製品化されれば、デジタルなテキストデータだけでなく、紙の書籍や新聞・雑誌を直接読めるようになるかもしれない。また指に装着するデバイスなら、読み上げている音声をジェスチャで制御する、といった機能も付加できるのではないだろうか。
このデバイスは、SDFのようなテキストの可変速読み上げが可能かはわからないが、読みたい部分を直接指定できるという点においては、視覚障害者の読書環境に変化をもたらす可能性を秘めているといえるだろう。

音声コンテンツの課題を解決できるか


スクリーンリーダーに限らず、スマートスピーカーやオーディオブックなど、近年注目が集まっている音声メディアは、コンテンツが時間に縛られてしまうという弱点がある。今回紹介したような技術によりイノベーションが進めば、視覚障害者の情報環境が大きく改善されるだけでなく、音声コンテンツの価値も大きく向上するのではないだろうか。

参考リンク



支援技術関連記事まとめ(2022年11月)※お知らせあり。

※以下のリンクをクリックするとDropboxへ接続し、ダウンロードが自動的に始まります。 ※ダウンロードファイルはHTML形式です。ブラウザで開いてください。 ※正常に表示されない場合は別のブラウザで試すか、エンコード設定を変えて見てくださ い。 ダウンロード: 海外記事 / 国...