2019年7月26日金曜日

視覚障害者の安全な歩行を支援する未来のデバイス「Sound of Vision」。

Sound of Vision(画像引用元

視覚障害者の単独移動において、まず優先されるべきは「安全」である。
現実世界には、看板や電信柱などの障害物はもちろん、段差や壁、工事中の道路やちょっとした窪み、さらには通行人まで、視覚障害者の安全を脅かすものが無数に存在している。場合によっては転落や交通事故など生命にも関わる自体にもなりかねない。

そこで視覚障害者は一般的に「白杖」を用いることで目の前の危険を探索して歩行する。街中で杖の先を左右に振りながら歩いている視覚障害者の姿を見かけたことがあるはずだ。晴眼者でも、暗い部屋の中では手で安全を確かめながら歩くことがあるだろう。白杖はいわば杖を用いて、一歩先を「手探り」しながら移動しているようなものだ。

ただ白杖でキャッチできる危険には限界がある。
そもそも杖が届く距離の範囲内でしか障害物を見つけられないし、せり出した樹木や看板など上半身に迫る物体は認識できない。歩きスマホしている歩行者など移動している障害物(とあえて言う)も白杖で避けられる可能性はそう高くはない。

そのような問題を解決すべく、テクノロジーによって視覚障害者の安全を確保しようとする様々なデバイスが開発されてきた。例えば「パームソナー」は超音波を用いて障害物や通過できる隙間を見つけることができるし、「Wewalk」のようなスマート白杖も、杖で地面を探索しながら上半身に迫り来る危険を知らせてくれる。
これらのデバイスは従来の白杖では見つけられなかった危険を察知する可能性を高めてくれるが、超音波を用いるため、誤認識や識別できないものも多く、あくまでも白杖の補助的な位置付けにとどまっている。
今の所、白杖と歩行訓練が最強だし、これはおそらく今後も代わりないだろう。だが、テクノロジーによる安全性の向上には、まだ進化の余地があるはずだ。

現在ルーマニア、ブカレストのPOLITEHNICA大学の研究者を中心に、アイスランド、ハンガリー、イタリア、ポーランドの大学や研究機関、当事者団体の共同プロジェクトとして開発されているウェアラブルデバイス「Sound of Vision」は、新たなアプローチで視覚障害者の安全を高めようとしている。
これは従来の超音波の代わりにコンピュータービジョンを用いるのが特徴だ。

Sound of Visionには3Dカメラが搭載されており、毎秒20フレームで周囲の環境をリアルタイムにスキャンする。スキャンされた画像はコンピュータービジョン・アルゴリズムにより解析され、周囲の物体を分析、その結果をもとに生成された立体音響と、ベルトに仕込まれた振動ユニットを通じて視覚障害者へフィードバックされる仕組みだ。
音響や振動の強さは、検知された物体との距離に応じて変化するため、物体の位置関係を把握するヒントになるという。現在、扉や階段、通行人といった主要な物体を認識することが可能なようだ。

さらに、Sound of Visionでは周囲に存在する文字情報を読み取り、音声で読み上げることもできるという。ボタンを押せば、標識や看板に書かれている情報をスキャンし、書かれている場所から擬似的に音声が聞こえてくるイメージだ。お店やレストラン、駅の入り口などを見つける時などで役立つだろう。
こうしてみると、このデバイスは単純に障害物を検知すると言うよりも、視覚障害者の空間認知を拡張してくれる可能性を持っているのかもしれない。

このデバイスはまだプロトタイプの段階で、今後2年ほどの期間をかけデバイスの小型化や屋外での物体認識性能の向上などの改良が施されるという。ユーザーの手に届くまでにはもう少し時間がかかりそうだが、開発者たちはこのデバイスをできるだけ入手しやすい価格で提供したいと考えている。またハードウェア、ソフトウェアと合わせ、このデバイスを安全に使いこなすためのトレーニングプログラムの開発にも力を入れているようだ。デバイスから発せられる3D音響と現実世界の地形を脳内で変換できるようになれば、もしかしたら白杖をズリズリ使わなくても、晴眼者と同じようにスムーズに歩行できる未来がやって来るのかもしれない。そんな妄想を掻き立ててくれるデバイスだ。

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