2018年8月14日火曜日

「音声で読む」行為を拡張する2つの技術


多くの視覚障害者は、音声で情報を得ている


放送や新聞・雑誌、Webに到るまで、情報を入手する手段は多岐にわたるが、基礎となるのは「テキストを読む」という行為に帰着するだろう。一般的にテキストを読む行動には、目読や黙読、速読といったさまざまな手段があるが、「目で読む」ことに変わりはない。
では視覚に頼れない視覚障害者は、どのようにテキストを読むのだろうか。大きく分けると、触覚を使う「点字」と、聴覚を使う「音声」の2通りに分けることができる。
特に音声を使用するテキスト読み上げは、スクリーンリーダーの進化により、多くの視覚障害者が音声を使い情報を入手できるようになってきている。

だが音声による読書は、視覚を用いた読書とは全く異なる体験だ。もちろん「文字の形」といった視覚的な情報が得られないという部分も大きいが、音声ではテキストを読みながら、内容に応じて読むスピードを変化させたり、確認したい部分を行き来して繰り返して読む、逆に文章を読み飛ばして興味のある部分をかいつまんで読む、といった読み方が難しい。目でテキストを読む場合は、無意識にこのような読み方ができるのだが、音声ではそのような柔軟な読書には対応できない。その結果、音声での読書はどうしても時間がかかりがちなのだ。
これらの問題は、点字を習得することである程度は軽減できる。だが、特に中途で視力を失った視覚障害者が点字を(しかも目読レベルの速度で読めるまでに)マスターするには、相当の時間と根気が必要なのが実際のところだ。

iPadで柔軟な音声読書ができる「SDF」


Texas A&M大学のFrancis Quek教授のチームが開発した新しい音声読書システムは、視覚障害者の読書体験をいっぽ全身させるかもしれない。
「STAAR Description Format (SDF)」と呼ばれるこのシステムは、iPadにプラスチック製のオーバーレイを装着し、専用アプリケーションにインポートしたPDFファイルを指でなぞりながら読むことができるというもの。
読書者は、オーバーレイのガイドを指で辿りながら、任意のスピードでテキストを音声で読むことができる。指がガイドから外れてしまったり、文の末尾に達するとサウンドエフェクトで通知してくれる。この技術のキモは、指の位置やスピードに同期した音声読みあげを実現するアプリケーションの部分だろう。どこまで自由自在な読み上げが可能かは、リリースやビデオだけでは判断できないし、日本語対応にはまた別の課題もありそうだが、音声による読書の弱点を埋める提案の一つとして注目したい技術だ。

指で文字を認識して読み上げる「FingerReader」


SDFと同様に「指でなぞって読む」技術としては、MIT・Augmented Human Labのの研究チームが2014年に発表したウェアラブルデバイス「FingerReader」がある。
FingerReaderを指に装着して、本屋商品パッケージ、郵便物などに書かれた文字をなぞれば、その文字をリアルタイムに認識し、音声で読み上げてくれる。
触覚フィードバックも搭載されており、テキストの有無や指が行から外れてしまった時などに、バイブレーションで知らせ、ガイドすることもできるようだ。これが製品化されれば、デジタルなテキストデータだけでなく、紙の書籍や新聞・雑誌を直接読めるようになるかもしれない。また指に装着するデバイスなら、読み上げている音声をジェスチャで制御する、といった機能も付加できるのではないだろうか。
このデバイスは、SDFのようなテキストの可変速読み上げが可能かはわからないが、読みたい部分を直接指定できるという点においては、視覚障害者の読書環境に変化をもたらす可能性を秘めているといえるだろう。

音声コンテンツの課題を解決できるか


スクリーンリーダーに限らず、スマートスピーカーやオーディオブックなど、近年注目が集まっている音声メディアは、コンテンツが時間に縛られてしまうという弱点がある。今回紹介したような技術によりイノベーションが進めば、視覚障害者の情報環境が大きく改善されるだけでなく、音声コンテンツの価値も大きく向上するのではないだろうか。

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